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利用者=ユーザーにとって、事業者や建築家のエゴは関係がない。人は何に興味があるのか、何に喜ぶのか。 そこにストレートに答えることが大事

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アストリッド・ クライン

 アストリッド・クラインが初めて日本の地を踏んだのは1988年。追って91年にはマーク・ダイサム氏と共に「クライン ダイサム アーキテクツ(以下KDa)」を設立し、約30年にわたってデザイン活動を続けてきた。代表作「代官山T ーSITE/蔦屋書店」「GINZA PLACE」は、いずれも東京の新たなランドマークとして高評価を受けている。また、2003年にKDaが創始した「PechaKucha Night」は各国に広まり、今や世界1200都市以上で開催されるプレゼンテーション・イベントへと成長。様々な分野で活躍するアストリッドには境界というものがなく、多様な文化をバックボーンにした活動は常にチャレンジングだ。だからこそ人々を魅了する。

深い情熱を原動力に、世界に向けたチャレンジは続く

 アストリッドたちの活動にはムーブメントを起こす力がある。最たるものは「PechaKucha Night」だ。東京でスタートして今年で17年、このプレゼンテーション・イベントは世界中で行われている。そしてもう一つ。17年にKDaが発起人の一員として始めた新デザインイベント「DESIGNART(デザイナート)」も広がりを見せており、やはり国内外で注目されている。

 先述した「デラックス」の場所を変えて、「スーパーデラックス」に移行した際に、毎月開催するイベントとして立ち上げたのが「PechaKucha Night」です。アート展示やライブなどのイベントはやってきましたが、もっと若い建築家やクリエイターが発表できる場をつくりたいと考えていたんです。

 折しもデジカメが普及し始めた頃。事務所でも自分が手がけている建築現場の写真や、週末に見つけた面白い場所などをスクリーンに映して語り合う、ということをやっていたんですね。PechaKuchaはそれを拡大した感じ。こういう共有の会みたいな場があれば、普段忙しくてなかなか会えない仲間とも互いに近況報告ができるでしょう。

 ただ、たいていの建築家はおしゃべりが長い(笑)。それでつくったルールが、20秒ごとに変わる20枚のスライドを使って、計400秒のプレゼンをするというもの。プレゼン時間を短くすることで、集客数を上げる狙いもありました。当初、スピーカーは建築家が多かったのですが、回を重ねるうちに人が人を呼んで様々なデザイン分野に広がり、ミックスの面白さが生まれました。この場からコラボが生まれたり、時には町おこしにつながったり。それが世界各国に広がっているのですから、私たちも最高にハッピーですよ。「DESIGNART」も発想の根本は同じで、デザインやアートの魅力を一般の方々にもっと広く紹介したいと思ったのです。考えたのは、一つの展示会場を構えるのではなく、東京という街全体をギャラリーにすること。街中にあるショーウインドーを使って、アートやインテリア、テクノロジーなど様々なジャンルの新鋭作品を展示したら面白いんじゃないかって。例えば、家具のショールームにファッション作品を置くとか、もちろん逆もあり。街を散歩するようにデザインやアートに触れて楽しむのです。

 ちなみに、昨年の「DESIGNART」は表参道や渋谷、六本木、銀座など、11のエリアで開催し、国内外から390のブランドとクリエイターが参加しました。今年でまだ4回目ですが、PechaKuchaのように長く続くイベントにしたいですね。ボランティアに近い活動ですが、私にとってはライフワークのようなもの。大切にしていきたいです。

 幅広い活動において貫かれているのは、アートやデザインに対する深い情熱だ。だからこそ、アストリッドはチャレンジ精神を失わない。目下の彼女の関心事は、「日本のユニークな文化をもっとアピールすること」。その実現の場として、デザインミュージアムをつくることが一つの夢だと語る。

 日本は文化にあふれた国なのに、その魅力を伝えるちゃんとしたミュージアムがないでしょう。もったいないですよ。とりわけ日本のプロダクトは世界一だと思うのですが、例えば車にしても後世に伝え残すようなミュージアムがない。ドイツには、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲンやBMWなど、それぞれに立派なミュージアムがあるし、最近はアジア圏でも活発な動きが出てきています。ほかにもファッションとか漫画とか、日本の高い技術やデザインをもっとアピールすべきだし、その素晴らしさを次代につなげることを本気で考えたほうがいいと思います。何か、そこに貢献できるようなプロジェクトにチャレンジしたいですね。

 すごく日本のことを考えているでしょ(笑)。世界あちこちの都市を訪れてきましたが、やっぱりこの国が、東京という街が私には面白いのです。「面白くなくなったらヨーロッパに帰る」と言いながら、はや30年以上。日本を出たいと思ったことは一度もないです。ただ、最近の日本はちょっとおとなしくなってきましたよね。私が来た頃に比べると、いい意味でも悪い意味でも尖っていないというか。もっとポジティブに思い切った仕事をしてほしいです。そのためにはたくさん動いて、リアルに場所を感じたり、人と出会ったりするなかで、自分をインスパイアすることが大事だと思います。

 人生は1回きり。私はいい思い出をたくさんつくりたいんです。建物だけじゃなく、「あの時、こういう職人さんがいて面白かったよね」とか「打ち上げでは盛り上がったよね」とか、そういう小さなハッピーを。プロジェクトはそれらを提供してくれるものだと考えているので、私にとって建築は、人生を豊かにするための一つの手段なのです。だからこそ、意味のあるプロジェクトをやっていきたい。いい思い出をたくさんつくれたら、皆も社会もハッピーになれると信じているから。

※本文中敬称略

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PROFILE

アストリッド・クライン

アストリッド・クライン

1962年 イタリア・バレーゼ生まれ
1986年 仏国エコール・ド・アール・デコラティーフ卒業
1988年 英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修了
    リチャード・ロジャース旅行奨学金を獲得
    伊東豊雄建築設計事務所入所
1991年 クライン ダイサムアーキテクツ設立
    (マーク・ダイサム氏との共同設立)
2003年  PechaKucha Night 創始(マーク・ダイサム氏との共同創始)
2017年  DESIGNART TOKYO創始(発起人)

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