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建築家には多様な可能性がある。 結果責任をしっかりと持って、 自分が心から面白いと 思えることに挑戦してほしい

建築家には多様な可能性がある。 結果責任をしっかりと持って、 自分が心から面白いと 思えることに挑戦してほしい

株式会社インターオフィス/寺田尚樹

 100分の1の縮尺で住宅や街の風景を表現した「テラダモケイ」に、熱伝導率の高いアルミを使ったアイスクリーム専用スプーン「15・0%」。寺田尚樹氏の活動は〝建築〞の枠を軽やかに超え、プロダクトやインテリアにもおよぶ。2014年、そこに高級家具の輸入販売を手がける株式会社インターオフィスの〝経営者〞という肩書が加わり、16年1月には、オフィスファニチャーメーカー、イトーキとのコラボレーション・ブランド「i+(アイプラス)」を立ち上げた。活動領域は拡散する一方だが、寺田氏の考えでは、それも正しい建築家のあり方なのだ。
「建築家として教育を受けたことが全部生きている。経営もデザインも建築の延長だと思っているのです」。その真意はどこにあるのか。そして、その全領域で発揮される寺田氏の〝技〞を聞いた。

自由な表現を求め住宅からプロダクトへ活動を広げた

建築家とは本来「何でもやる職業だ」と寺田氏は言う。自身はそれを留学先のイギリスで学んだ。同地では建築家が舞台の設計もすれば車のデザインもする。写真も映画も撮るのだ。建物をつくるだけの職能ではない。

「僕はそこに憧れたんですね。日本に帰ったら、建築家という肩書のまま多様なことをやっていこうと決めた」

テラダデザイン一級建築設計事務所を立ち上げたのは03年のこと。最初に寺田氏が手がけた住宅は『住宅特集』の表紙を飾り、海外のメディアも取材にやってきた。これ以上ないキャリアの滑り出しのはずが、続く依頼は滞ったという。

「変わった家でして。ちょっとやりすぎた(笑)」

だが、それがプロダクトデザインに向かう道筋をつけたともいえる。建築は受け身の仕事。いつ仕事が途絶えるかわからない怖さがある一方、プロダクトデザインはロイヤリティというかたちで定収入が発生する。

「それに、プロダクトであれば、より自由な表現がしやすいと思ったのです。建築家は『お客さまの要望を聞き、最適解を出す仕事』と言う人がいますが、僕は『なんだかなあ』という気持ちがあって。〝最適解〞を導き出すアルゴリズムのようなものではなくて、もっと自由な気持ちでつくりたい。小さなプロダクトなら自分の思いを表現できるし、ビジネスとしても責任が持てるのではないかと」

ディレクターを兼務。売る責任まで任せてもらう

「テラダモケイ」のアイデアは、建築模型をつくる際に使われる人や木などの添景がベースにある。知り合いのデザインプロデューサーから、紙をテーマにしたプロダクトの展覧会に参加するよう誘われたのが制作のきっかけだ。これが予想外の反響を呼んだことから、製造、販売を担う福永紙工との協働によりブランド化。購入していくのはプロの建築家よりも「デザイン好きな女子が多い」という。

「15・0%」は、時計メーカーのタカタレムノスとのコラボレーションだ。アルミの鋳物工場の稼働率を高めるためのアイデアを相談され、アイスクリームスプーンを提案した。先方が例として挙げたのは鍋敷き、箸置き、栓抜きなどだったが「それらはすでにほかのメーカーもやっている」。アイスクリームスプーンなら、熱伝導率の高いアルミを使うことで体温が伝わり、アイスが柔らかく食べやすくなるという必然があった。

「テラダモケイ」も「15・0%」も、寺田氏がブランドディレクターを兼ねている。それは依頼を受けるにあたって寺田氏が申し出る条件だ。そこには「デザインだけに終わらず、ビジネスとしての結果責任を持ちたい」という意図があるのだそう。例えば、プロダクトを育てていくことも寺田氏の役割だ。自ら販売戦略を立て、イベントを企画し、メディアに露出させる。

「プロダクトをアップデートする努力は永遠に必要です。つくったら終わりで、不労所得のようにロイヤリティが入ってくるわけじゃない」

と寺田氏は言う。「当然、製品が売れない可能性があるのです。多くの場合、デザイナーは『プロモーションがダメだった』とメーカーを批判し、メーカーは『デザインが悪いから売れない』とデザイナーを批判する。これではお互いアンハッピーでしょう。だから僕は『自分で責任をとります』と言うのです。成功したらみんなの手柄、失敗したら自分のせい、そういう約束を取り付ける」 いうまでもなく自分のことを信用し、任せてくれる相手としか交わせない約束だ。「15・0%」でコラボしたタカタレムノスにしても、それ以前に時計のデザインで実績をあげていた。

「そうはいっても、やはり『よくわからないけど、この人にやってもらおうか』と任せてもらえる信頼関係は最低限必要です。我々クリエイターは、世の中にないものをつくりたい。でも、仕事を頼む側は前例がないと心配です。だから僕も、相手のリスクが最小限になるよう心がけて仕事に臨みます。ちなみに、インターオフィスの経営にかかわることになったのは、創業者である原田孝行さんから、『将来を見据えて外から新しい血を入れたい』と、声をかけられたことが始まりであると理解しています」

インターオフィスは高級家具輸入販売の会社。経営者にとっては海外との交渉事も仕事の一つだ。

処女作にして『住宅特集』の表紙を飾った住宅「所沢ストマック」。一つの空間を、人間の消化器官のように引き伸ばし、屈曲させることで、各部屋としての機能をかたちづくった

「僕に海外での経験があること、語学がわかること、建築家として家具の知識があること、いろいろと総合的に見て判断してもらったのだと思います。インターオフィスは、ヨーロッパの有名建築家の作品や美術館にコレクションされるような家具も扱っています。となると、交渉も建築史やデザイン史をわかっている人間がやったほうがうまくいく」

インターオフィスの経営に専念するため、テラダデザインの経営は後進に譲った。寺田氏には、まだまだたくさんの新しい挑戦が待っている。

「インターオフィスの話をお受けした理由の一つは、デザインを扱う商社がどう成り立っているか知りたかったから。僕は家具デザイナーの気持ちはわかるけど、メーカーやディーラー側からの視点は持ち合わせていませんでした。それはきっと勉強になると思ったんです。昔、大学の先生に『建築家はいいものさえつくっていれば誰かがいつか認めてくれる』と言われましたが、そういうことをナイーブに信じている時代ではない。いいプロダクトをつくって世に送り出そうと思ったら、なぜメーカーがその家具を製品化する判断をしたのか、なぜそのデザイナーに依頼したのか、どんなコスト感なのか、そこまで理解したほうが、物事は実現しやすいと思ったのです」

人や建物などを100分の1スケールにデフォルメした模型セット「テラダモケイ」。建築設計事務所で建築模型を制作する時に使う人形や木がベースで、模型を通じてつくる楽しさを伝える。全国のミュージアムショップ、デザインショップなどで販売中
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自分が心から面白いと思うことを薄めずに届けたい

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PROFILE

寺田尚樹

寺田尚樹
Naoki TERADA

1967年生まれ。89年、明治大学工学部建築学科卒業。
94年、英国建築家協会建築学校(A Aスクール)ディプロマコース修了。
2003年、テラダデザイン一級建築士事務所設立。11年、テラダモケイ設立。
14年、株式会社インターオフィス取締役。
17年、同社代表取締役社長 兼COO。
武蔵野美術大学非常勤講師。一級建築士。

株式会社インターオフィス

設立/1983年4月
代表者/代表取締役会長 原田孝行
代表取締役社長 寺田尚樹
所在地/東京都港区南青山1-2-6
ラティス青山スクエア6階

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