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【第13回】世界で戦える若き建築家をつくる。 今、私が大学で実践していること

【第13回】世界で戦える若き建築家をつくる。 今、私が大学で実践していること

明治大学理工学部建築学科 教授 小林正美

 今は「オリンピック需要」に支えられる建築業界ではあるが、人口の減少などを背景に先行き市場のシュリンクが避けられないことは、誰の目にも明らかだ。高度成長期時代以降、定員の減っていない建築系大学出身者の深刻な余剰が、いずれ表面化するだろう。

 国内で仕事が減っていく以上、目を真剣に海外、中でもベトナム、ミャンマーといった伸び盛りの東南アジアに向けるべきだと私は考える。どんどん海外に出ていって、現地の人たちと堂々と渡り合える建築技術者、設計者を育成する必要があると思うのだ。だが、残念ながらこの点での教育現場の認識は、事態の深刻さにとても追い着いていないのが実情である。

 やはり大学で教鞭をとっていた父親の米国留学に帯同して、1年間そこで暮らし――といっても、まだ物心つく前ではあったが――、その後も繰り返し「若いうちに留学しろ」と刷り込まれた私には、海外に出るということに対して、躊躇のようなものはなかった。

 大学院を修了後、6年間、丹下健三先生の設計事務所で海外プロジェクトを中心に働いたのち、私はハーバード大学で学んだ。そこでは、自分なりに自信を持ってやってきた実務と米国流アカデミズムの違いに新鮮なショックを受けるとともに、指導者の教え方の真剣さ、そこを巣立つ人間たちのレベルの高さを実感することができた。

 そんな私は、1992年に明治大学に招かれて以降も、国際的に通用する人材をどのように育てていくべきか、という問題意識を持ち続けてきた。やってみて改めて痛感したのが“言葉の壁”である。教え子たちを海外に連れて行っても、現地の学生たちが嫌な顔をする。通訳を介さなければ、会話が成り立たないからだった。

 様々なチャレンジも経つつ、一つの理想に近い教育プログラムを形にしたのが、2013年からスタートさせた大学院の「建築・都市デザイン国際プロフェッショナルコース」である。定員約30名で、他大学の学生も留学生も受け入れる。

 海外の若者は、日本の建築が好きだ。何よりも、日本語習得という入学条件が必要なく、米国などに留学するよりも安価にマスターの資格が取得できることもあり、この手の講座は彼らの人気が高い。すでに3分の1は東南アジアを中心とする留学生が占めていて、学生たちは国籍に関係なく英語でディスカッションし、談笑している。大学の中でその教室のあるフロアだけが、異空間の趣なのだ。

 そうやって留学生たちとも切磋琢磨しながら学ぶ日本人学生たちには、語学力とともに異文化の人たちとの接し方、国際感覚が知らずしらず身に付いていく。もちろん、建築・都市デザインの研究レベルやデジタルスキルも高いから、ここの卒業生に限っては、就職先に心配はない。

 未だに、名だたる大学が海外留学生のための入試と授業を日本語必須とする状態が続いているが、教育界自ら鎖国をしているような状態であり、実にもったいないと思う。

 大学に来た頃、正直、あまり覇気の感じられない学生たちに戸惑ったりもしたものだ。しかし、それは教える側や器のほうに問題があったからだと、今にして思う。しっかりした場さえ提供してあげれば、学生は生き生きと学び、成長していくのである。

PROFILE

小林正美
Masami Kobayashi

1977年、東京大学工学部建築学科卒業。79年、同大学院修士課程修了後、丹下健三・都市建築設計研究所勤務。
88年、ハーバード大学大学院デザイン学部修士課程修了。89年、東京大学大学院博士課程修了。
2002年、ハーバード大学客員教授。現在、アルキメディア設計研究所主宰。明治大学教授(工学博士)。
『InterventionsⅡ』(鹿島出版社)など、共著・単著多数。

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