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Architect's magazine

建築をつくることは未来をつくること――。 唯一無二の教育のかたちをキュレーションし、 次代に輝く建築家育成の場を進化させていく

建築をつくることは未来をつくること――。 唯一無二の教育のかたちをキュレーションし、 次代に輝く建築家育成の場を進化させていく

4名の建築家に学ぶスタジオ制教育

2007年に創設された横浜国立大学大学院/建築都市スクール〝Y‐GSA〞は、日本で唯一のスタジオ制教育を実践する大学院である。特定の研究室に所属するのではなく、2年の間に半期ずつ計4名の建築家のスタジオで学び、建築思想の多様性と建築文化の大きさを理解するとともに、能動的かつ実践的に取り組む姿勢を身につける。

『SD』編集部を経た後に、オランダ建築博物館でキュレーターとして活動していた寺田真理子准教授は、帰国後、インディペンデントのキュレーターとして活動するなかで、建築家・北山恒氏から研究室とは異なるスタジオ制教育の構想を聞いた。

卒業生は、ほぼ全員が設計業務に就く。規模が大きく国際的なプロジェクトへの関与を志向する学生も少なくない

「北山さんが実験的に行った日本建築家協会でのスタジオ制教育に広報として加わり、その後のY‐GSAの立ち上げにも参画することになりました」

都市と建築がシームレスにつながるオランダの思想に共感していた寺田氏は、〝建築都市スクール〞というY‐GSAの教育理念に大きな期待感を抱いた。自ら北山氏に、広報だけでなく教育そのものへのかかわりができないか打診したという。Y‐GSAではこれまでに、北山恒氏、山本理顕氏、飯田善彦氏、小嶋一浩氏など錚々たる建築家が教授として指導を行い、現在の陣容は、妹島和世氏、西沢立衛氏、乾久美子氏、藤原徹平氏、大西麻貴氏の5名。また、設計事務所を立ち上げたばかりの若手建築家数名が設計助手として参画し、教授陣と学生の橋渡し役を担っている。

建築と都市を研究し、学生の視野を広げる

Y‐GSAの教育カリキュラムは、デザイン・スタジオの単位が大きなウエイトを占めるが、レクチャー・シリーズの「横浜建築都市学」、リサーチ・プロジェクトや横浜国大のキャンパス設計プロジェクトなどを進める「インディペンデント・スタジオ」、海外の大学との「ワークショップ」などのプログラムもある。寺田氏は、それら全体の枠組みを企画し、乾氏や設計助手、若手研究者の連勇太朗氏とともに推進。また、それらのリサーチ・テーマに関連したシンポジウムの企画や、Y‐GSAの教育・研究の活動にかかわる書籍づくりも手掛けている。

「Y‐GSAで生まれた建築の議論を、いかにグローバルなフィールドで発展させられるか。議論のプラットフォームづくりが大切だと考えています」

13年から、「クリエイティブ・ネイバーフッズ」というテーマを掲げ、北山氏をはじめ、若手建築家とともに次世代居住環境におけるコモンズ空間についての研究をスタート。14年開催のシンポジウムでは、ソーシャルハウジングに取り組むチリの設計集団エレメンタルのパートナーや、プリツカー賞を受賞したジャン=フィリップ・ヴァッサル氏を招き、槇文彦氏が基調講演を行った。15年には「都市のインフォーマリティ」をテーマに、ブラジルのファベーラを研究していたスイス連邦工科大学のライナー・ヘール氏を招致。それ以降の4年間、ヘール氏と共同で研究を進めている。

学生は毎学期10名ほどが、ワークショップや希望するインディペンデント・スタジオに参加する。その研究成果の集大成となるブックレットでは、執筆からデザインまでのすべてを学生が担当。寺田氏は目次構成をはじめ、要所だけアドバイスするようにしているのだという。

「設計課題だけでもかなり忙しいですし、ワークショップに参加した後に一冊のブックレットにまとめるのは大変な作業です。
学生には研究を通じて、世界には様々な都市や社会の状況があり、様々な設計のアプローチがあるという多様性を知ってもらいたい。そして、Y‐GSAという素晴らしい環境で学んだことを、自分の思想としていかに昇華させられるか――実践を続けながら、独自の道を築いてほしいと思います」

建築を志す若者に、リアルな社会と向き合う大切さも伝えている寺田氏。学生の目線を広げるための次の研究テーマや研究パートナーの選定を進めながら、新たな学びのかたちを模索中だ。

「『SD』の編集者時代、建築を志す学生たちが一つのテーマについて熱く議論する連載を担当していました。対話から〝未知の種〞に出合えることは多い。同じように、Y‐GSAという教育の場が、建築を学ぶ学生や若手建築家たちにとって、これからの都市と建築を考える重要な議論の場=〝建築メディア〞となるようキュレーションしていきたいと思っています」

上/2015年3月に開催された国際シンポジウム「都市のインフォーマリティ:変容する社会における住環境の実践」
左下/ワークショップやインディペンデント・スタジオでの研究成果は学生たちが主体となって書籍にまとめている
右下/2014年に開催された国際シンポジウム「Creative Neighborhoods:住環境が新しい社会をつくる」、13年に行われた国際シンポジウム「ヴェネツィアに学ぶ都市の思想と文化の仕掛け」の内容を再編成した書籍など
PROFILE

准教授/キュレーター
寺田真理子

てらだ・まりこ

1990年、日本女子大学住居学科卒業後、鹿島出版会SD編集部に9年間勤務。
その後、オランダ建築博物館のアシスタント・キュレーター、
株式会社インターオフィスのキュレーターなどを経て、
2007年、横浜国立大学大学院Y-GSAスタジオ・マネージャー、特任講師。
14年、横浜国立大学先端科学高等研究院特任准教授。
18年より横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院准教授。

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