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まちにダイブしよう!経済メカニズムを熟知して、地域の価値を高めれば、誰もが喜ぶ結果を導き出せる

まちにダイブしよう!経済メカニズムを熟知して、地域の価値を高めれば、誰もが喜ぶ結果を導き出せる

株式会社アフタヌーンソサエティ 清水義次

 東京・表参道といえば、名だたるブランドのフラッグシップ店が軒を連ねるファッションストリート。だがその姿は、1990年代初め、参道の起点近くで始まった一つのプロジェクトを端緒に、自然にブランドが集積してかたちづくられたものだった。今ある姿を〝予言〞し、事業計画を牽引したのが、アフタヌーンソサエティ代表取締役の清水義次氏だ。その根底にある徹底的な社会観察をベースにした「リノベーションまちづくり」の発想は、今、全国各地の都市再興の現場に導入され、新たな可能性を広げつつある。

行政と〝正しく〞組むことで、まちは生き返る

こうした経験を経て清水氏が着想し、理論化を進めてきたのが、遊休不動産を活用してエリアの価値を高めようという「リノベーションまちづくり」である。2003年にスタートした東京の神田・裏日本橋エリアの再生プロジェクトでは、大量に発生していた空きビルに、主としてクリエイター系の事務所を呼び込むことに成功する。

ただし、ここで一つ限界も見えた。

「このプロジェクトは〝行政排除型〞で進めました。確かに民間だけでまちは元気になった。でも、あるところまできたら、行き先が見えづらくなってきた。神輿の担ぎ手は増えたけど、『当初目指していたのは何だったっけ?』と。その時です、まちづくりには、地域再生の明確な方向性を持つ行政を巻き込む必要があると感じたのは」

ところが、ここでもチャンスはすぐに巡ってきた。09年秋、北九州市から都市再生のオファーが入ったのだ。

「自治体からの要請は以前からありましたけど、『空き物件を埋めてもらえませんか?』というものばかり。主体の側にちゃんとしたビジョンがないと、〝再生〞はできないんです。でも北九州市は違いました。『会社が福岡や大阪に流出し、空きビル、空き店舗、空き家が集積している。そのあおりで商業も厳しくなっている。空きビルを使って新たな都市型産業集積をつくり出し
てほしい』というオーダーでした」

「それは面白そうだ、やりましょう」と始めたのが、「小倉家守プロジェクト」(コラム参照)である。

「神田の反省も踏まえて、まちを変える方向性やプロセスを盛り込んだ『家守構想』づくりを先行させました。検討委員会のメンバーは、よく行政が選ぶ偉い人などではなく、実行力のある地元の人たち。ポイントは、志ある不動産オーナーを3人加えたことでした。僕らがいくら力んでみても、使える物件がなければ話になりませんから」

オーナーの一人が手を挙げ、11年6月、プロジェクトは本格始動する。

ところで〝家守構想〞には、ほかの都市再生プランにはない、清水氏考案の〝エンジン〞が組み込まれている。「リノベーションスクール」と命名されたリノベ事業プランの作成、提案を3〜4日間集中で行う仕組みである。

「建築学科の学生などが、リノベ事業家の指導の下に実際の遊休施設をどう活用するのか具体化し、それを不動産オーナーにプレゼンする。〝合格点〞のついたプランは、再生を推進して収益を上げる〝家守会社〞が引き取り、行政も加わってブラッシュアップしたうえで、オーナーと交渉していきます」

さて、ではこの5年で、まちはどうなったのだろう?

「〝スクール〞発の〝直接プロジェクト〞だけで、小倉魚町地区に21の事業が新たに集積しました。生まれた雇用は430人以上。集計はしていませんけど、飲食や雑貨店など需要を見越して自然に集まってきた〝間接プロジェクト〞もその倍くらいあるでしょうか。まちの賑わいが回復して、周辺の家賃が上がっただけでなく、なんと新築のビルが建ち始めた。ほんと、世の中は〝現金〞なもの(笑)。でもこれが、経済のメカニズムなんですね」

「リノベーションスクール」をベースに置いた「家守プロジェクト」は、現在、全国30都市で実践され、韓国、台湾など〝海外進出〞もうかがう。

「各地の〝スクール〞には、学生以外にもいろんな職業の若い人たちと、役人も集まります。みんな頭の中にあるのは、儲けではなくて、どうしたらまちがよくなるのかという熱い思いなんですね。断言してもいい、僕らが学生の頃、そんなパブリックマインドを持った奴なんて一人もいなかった(笑)。そういう意味では、日本も捨てたもんじゃないですよ。この仕事をやって、市民社会の成熟を肌で感じられたのは、自分にとって大きな収穫でした」

とはいえ、〝まちの衰退〞に悩む地方はまだまだ数多い。

「『まちにダイブしよう!』というのが、僕からのメッセージです。机の上であれこれ考えていてもダメ。ヒントはまちの中にこそあるのだから」

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PROFILE

清水義次

清水義次

しみず よしつぐ/

1949年、山梨県生まれ。東京大学工学部都市
工学科卒業。同大教養学部教養学科アメリカ科
中退。マーケティング・コンサルタント会社勤務を
経て、92年、アフタヌーンソサエティ設立。主なプ
ロジェクトとして、東京都千代田区神田RENプロ
ジェクト、CET(セントラルイースト東京)、3331ア
ーツ千代田、新宿歌舞伎町喜兵衛プロジェクトな
ど。地方都市においても、北九州市小倉家守プ
ロジェクト、岩手県紫波町オガールプロジェクトな
どで、公民の遊休不動産を活用しエリア価値を向
上させるリノベーションまちづくり事業をプロデュ
ースしている。近著に『リノベーションまちづくり 不
動産事業でまちを再生する方法』(学芸出版社)

株式会社アフタヌーンソサエティ

設立/1992年4月
代表者/清水義次
所在地/東京都千代田区外神田6-11-14
3331 Arts Chiyoda 309

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