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Architect's magazine

広く建築や都市、そして人々と真正面から向き合っていく。未来のために職能を生かすのが僕たち建築家の役割なのだから

広く建築や都市、そして人々と真正面から向き合っていく。未来のために職能を生かすのが僕たち建築家の役割なのだから

迫 慶一郎

「中国で最も活躍する建築家の一人」。多くのメディアは、迫慶一郎をそう称する。事実、迫がこれまで手がけたプロジェクトの8割以上は、中国での仕事が占める。それも、都市のランドマークになるような巨大プロジェクトばかりだ。現在は北京、東京、福岡の3拠点に事務所を構え、ロシアや中東などからもオファーが舞い込んでいる。44歳と、業界にあっては若手ながら、世界に羽ばたく様は華々しい。しかしその裏側には、すさまじい働きと、どのような逆境にも屈しない〝挑み〞の連続がある。「建築家の本分は社会に貢献し、未来をつくること」。そう言い切る迫は、今、建築家という枠を超えて、震災による被災地復興や、企業のブランディングも手がけるなど、マルチな活動に精力を注ぎ込む。常に全力疾走――それが、迫の生き方だ。

未来のために、「建築家ができること」を模索し、走り続ける

 宮城県名取市において進めている震災復興プロジェクト「東北スカイビレッジ」構想、そして、四川大地震の被災地に学校を寄贈するプロジェクト。いずれも、迫が全力をかけて臨んでいるものだ。建築の力は何か、建築家が持てる職能を生かしてできることは何か。迫はずっとそれを追い求めている。

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2008年5月に発生した四川大地震。すぐに現地に飛び、建築家の自分にできることを真剣に考えた

 四川大地震が起きた時、2万人の子供たちが倒壊した建物の下敷きになって死んだのです。ずさんな手抜き工事が被害を大きくしたとされるなか、外国人であっても建築家として目を逸らすわけにはいかない。耐震性の高い学校を寄贈するプロジェクトを立ち上げ、日本から、本当にたくさんの寄付金援助をいただいた。ただ、困難なことも多々あります。こういう純粋なプロジェクトにすら利権を求めてくる中国の役人、度重なる敷地変更など、座礁しては少し進むという、まさに牛歩の歩み。でも、今また稼働のメドが立ちつつあるので、僕は決してあきらめないし、いずれはそこを日中交流の拠点にしたいと考えています。建築が持つ力って、やっぱり場所なんですよ。一過性のものでなく、立ち続ける拠点があることで何かが変わっていく。わずかでも貢献できれば、そう思っています。

 そして、3・11が起きた。傷ついた母国の映像を見るにつけ、いても立ってもいられなくなった。それから意識的に日本に戻るようにし、立ち上げたのが東北スカイビレッジ構想です。東北の沿岸部に高さ20mの人工基盤を築いて街をつくるという構想の背景には、国が出した基本方針である高台移転に対する強い違和感があります。もちろん、高台に移転することは人命や財産を守るのに重要ですが、被災地のなかには、それが容易ではない平野部があるわけです。それに、住む所だけが再生しても、働く場所や産業が再生されなければ持続可能性がない。

 これらのプロジェクトは、建築家が「この案いいでしょう」と無邪気に絵を描いているだけでは決して実現しません。僕は、資金調達のために企業や関係省庁にだって何度も足を運びますし、地元の賛成、反対意見の一つ一つに耳を傾け、とにかく愚直にあたる。自分の職能を最大限に生かすこと、それが社会に対する貢献なのですから。

 迫は建築家という枠を超えて、最近では企業のブランディング、事業の総合プロデュースも担っている。例えばITベンチャーと組み、店舗設計に始まりユニフォームをどうするか、CMはどうするかなどといった具合だ。いったい、どこにそんな時間があるのだろうかと思うほどのバイタリティだ。

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フリービットグループが立ち上げた、スマートフォンキャリアの新ブランド「freebit mobile」。迫氏は、端末や店舗のデザインを含めた“ユーザー体験部分”をすべて担当するトータルプロデューサーに就任

 社会と建築をきちんとつなげていく、そして次代のために、つまり未来のために仕事をしていくのが建築家の役割だと、最近すごく感じるんですよ。だから、閉ざされた建築の世界だけでデザインを競うのではなく、もっと職能を生かしていろんな場面で社会とつながっていけたらいいなぁって。

 古くからの定型でいえば、分譲マンションや商業施設のような仕事は、どこか「建築家の流儀に合わない」といった風潮がありますよね。社会のなかで、自分たちで〝棲み分け〞をしちゃっている。でも、都市の空間をつくっているのは大量のマンションだし、多くの人々は休日を商業施設で過ごす。街の景観を左右するそこに、まだまだ僕らの職能はかかわれていません。国力が落ちているとはいえ、これだけの経済力のある国なのに。世界に誇れる建築家だって、たくさんいるのに。資源としてもったいない。違う国を行き来してきた僕の率直な思いです。そんなアンバランスさを調整して、建築と都市、そして人々と真正面から向き合っていくような建築家が増えれば「未来はつくれる」。そう信じています。

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PROFILE

迫 慶一郎

迫 慶一郎

1970年7月16日 福岡県福岡市生まれ
1996年3月   東京工業大学大学院
理工学研究科建築学専攻修了
1996年 4月   山本理顕設計工場入所
2004年2月   SAKO建築設計工社設立
2004年9月   米国コロンビア大学客員研究員、
文化庁派遣芸術家在外研修員
(~2005年)

主な受賞歴

<2013年>
蔵前ベンチャー賞
<2012年>
GOOD DESIGN IS GOOD BUSINESS
China Awards 2012(中国)
<2010年>
2009-2010年度国際設計芸術成就賞(中国)
<2009年>
Euro Shop Retail Design Award 2009
One of Three Best Stores Worldwide
<2008年>
グッドデザイン賞
現代装飾国際メディアプライズ2007(中国)
ベストデザイナー賞
ほか、JCDデザインアワード(2004年より11年連続)
など多数

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