社会の動機からつなげる自然の理。
原田真宏
『道の駅ましこ』での日本建築学会賞(作品)をはじめ、国内外で数々の賞を受賞してきた建築家・原田真宏氏。海と陸、自然と社会の境界に身を置いた幼少期から、「自然の理」で建築を解こうと試みる現在までの軌跡を辿る。
学生時代の反骨心とスペインでの答え合わせ
─大学に入学されてからは、どのような学生生活を送られたのでしょうか。
原田:大学では、真面目に学ぶと言うよりも、当時の建築界の潮流に対する反骨心のほうが強かったかもしれないですね。僕が学生だった頃は、建築を非常に抽象的な「概念」として捉えるのが主流でした。授業でも「空間構成」が重視されて、具体的な「物」や「素材」の話をすると「お前はインテリアデザイナーか」とからかわれるような雰囲気すらありました。ただ、抽象的な「空間」ばかりを論じて、具体的な「物」、つまり「存在」を無視するのは、建築としてバランスを欠いているんじゃないかと感じていました。
─「何か違う」という感覚を持ち続けた学生時代だったのですね。その後、大学院を経て隈研吾さんの事務所に入られますが、ご自身で「ここだ!」と決めて志願されたのですか?
原田:いえ、それが本当に偶然の巡り合わせだったんです。実は修士一年生の夏休みに、隈事務所が参加していた『国立国会図書館関西館』のコンペを手伝う機会があって、そこで隈さんと知り合いました。それから半年ほど経ったころに突然、隈さんから電話がかかってきて「就職どうするんだ、明日ポートフォリオを持ってこい」と(笑)。隈さんは「建築家としての自分をどうデザインするか」「自分の理想を社会にどう位置づけるか」というマクロな視点を持たれていました。当時の僕はそういう意識が希薄だったので、自分に足りない観点を隈さんの背中から学べたことが、とても大きな財産になっています。
─ 隈事務所で3年間過ごした後、スペインへ。
原田:はい。隈さんに推薦文を書いていただいて、文化庁の芸術家海外派遣研究員制度でバルセロナへ行きました。そこでは様々な経験をしましたが、「空間」と「物」についての考えを再確認できたのが大きかったですね。例えば、当時「デコン(脱構築主義)」の旗手とも見なされていた、エリアス・トレスの作品を見ると、決して適当に壊しているわけではないことがわかるんです。「直角しか選べない不自由さ」から材料を解放して、その鉄とコンクリートが交わるべき角度を探した結果、たとえば「132度」といった角度が見出されています。─素材にとってあるべき状態を探した結果だったと。
原田:そうです。それに、建築を「脱構築」していくと、それまで空間を囲うための側(がわ)でしかなかった壁の「厚み」が見え始めるんです。厚みが見えると、壁は単なる空間の境界面ではなく、質量を持った「物」として立ち現れてくる。スペインの建築は、ガウディもそうですが、そうした「物」としての質、物が放つ「場」の力をすごく大事にしていると感じました。日本の近代建築では、どうしても抽象的な「空間」ばかりが重視されがちでしたが、スペインで「空間だけでなく、物やその周囲の場も大事にしていいんだ」と裏付けをもらえた気がして、僕にとっては、自分の感覚が間違っていなかったと証明された期間でしたね。

❸ROOFLAG。CLT板を三角形単位の組子状に組み合わせた架構体により、大空間が実現された情報発信施設。「未来の暮らしをみんなで考える場所」の創出を目的とした、垂直方向の身体感覚を共有する施設。(写真/東急建設株式会社)

❹Tree House。穏やかな丘陵地に計画された住宅。大きな樹のような環境形成を目指し、大黒柱を中心に32本の門型フレームを螺旋状に配置。(写真/Ken’ichi Suzuki)

❺STROOG社屋。金属メーカーのオフィス。接合部形状を工夫した23枚のCLT板を用いて、自由度の高い空間を実現。(写真/Ryota Atarashi)

❻道の駅ましこ。栃木県益子町に建設された道の駅。形や材料が風景から見出された、地域のランドスケープを象徴する建築。屋根形状は地域の山並みに倣い、山型の木架構は地場産材の八溝スギ集成材で構成。(写真/ましこカンパニー)
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原田 真宏/Masahiro Harada
1973年静岡県生まれ。芝浦工業大学大学院建設工学専攻修了後、隈研吾建築都市設計事務所、ホセ・アントニオ&エリアス・トーレス アーキテクツ(バルセロナ)、磯崎新アトリエを経て、2004年に原田麻魚とともにMOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIOを設立。住宅から公共建築まで幅広い設計活動を展開し、土地の条件や構造を強く意識した建築で高い評価を得ている。教育分野でも活動を続け、芝浦工業大学建築学部建築学科教授を務める。
代表作に、道の駅ましこ(2016)、松栄山仙行寺(2018)、半島の家(2018)Entô(2021)など。

















