創業80年の 伝統と、新たな時代に 向けた進化。
佐藤総合計画
昭和20年の創業以来、日本全国で公共建築、美術館、病院、さらに大規模スタジアムまであらゆる建築を手がけてきた組織設計事務所のパイオニア、佐藤総合計画(AXS)。時代と共に変化する社会の要請に応え続ける同社の働き方と強み、そして新たな時代に向けた取り組みとは。
設計者が設計に専念できる環境づくりを目指した組織改革
─はじめに、佐藤総合計画ならではの設計部の働き方についてお聞かせください。
谷口:トップから若手まで「組織設計事務所とアトリエの中間のような存在でありたい」という想いを共有していて、組織として様々なプロジェクトを着実にこなせる力を持ちつつ、個々の設計者が探究心を持ち続けられる自由な雰囲気が、佐藤総合計画ならではの文化だと思います。仕事に関する大きな特徴としては、公共建築の受注比率が非常に高いことです。なので、庁舎やホール、図書館、学校、病院といった、普通は各設計事務所のエースが手掛けるような仕事を、誰もが手掛けられるというのも特徴ですね。分野を特定しすぎず、多くのメンバーが幅広い建築に携わることができます。その結果、ある建築で得た知見を別のタイプの建築にも活かせることが、強みになっていますね。
─公共建築に取り組むうえで、特に大切にしている考え方や工夫があればお聞かせください。
谷口:クライアントと「目線を揃える」ことを重視していて、「社会がこう変わったから建築もこう変わらなければならない」という根拠をセットで提案することが重要です。例えば、私たちが「LABO活動」と呼ぶ社内活動から生まれた『AXSの学校』という冊子があります。これは、クライアントと我々の間で、学校建築の最新動向や考え方を共有するために有効だと考えています。それは単なる情報提供ではなく、同じ知識レベルに立って「仲間」になるための戦略でもあって。その前提を共有したうえで、「思いつきの提案」ではなく、根拠がある本質的な提案をするように心がけています。
─お話に出た「LABO活動」とはどういうものですか?
谷口:数年前まで学校と病院のチームだけでやっていた活動ですが、今年からは全社展開し始めた社内活動で、会社の課題解決やツールの開発・専門分野の研究などを行う活動です。LABO活動には大きく分けると「業務改善LABO」と「建築研究LABO」の2種類あって、前者は仕事のためのツールを社員が主体的に改善していく活動です。既に実施したものでは、フリーアドレス化が挙げられますが、会社からではなくスタッフ発で実現しています。後者は建築計画についての研究で、例えば学校や病院などの建物種別ごとに深く掘り下げて研究しています。
─この活動にはどのような目的があるのでしょうか。
谷口:一つは、プロジェクト間の空き時間を有効活用し、社員の自主性と得意分野を最大限に活かすこと。もう一つは、部署の垣根を越えたコミュニケーションの活性化です。設計業務はどうしても自分のチーム内で会話が完結しがちですが、LABO活動を通じて担当業務とは異なるメンバーと協働することで新たなつながりが生まれていて、それが組織の活性化に繋がっています。そして最も重要なのが、組織全体の知識レベルの底上げです。こうした活動を通じて、社内の若手とベテランも、それからお客様とも同じ目線で対話できる基盤を作りたいと考えています。さらにLABO活動から発展し、その他にも若手が企画運営する勉強会など、ボトムアップの動きが活発になっています。LABO活動などを通じて「自分にも会社を変えられる」という意識が若手の中にも浸透して欲しいという思いもあります。
─創立80周年という節目を迎えられましたが、今力を入れていることや、今後の展望を教えて下さい。
谷口:私は「設計者が設計に専念できる環境づくり」を大きなテーマとして掲げています。これから人材不足が深刻化する中で、設計能力を持つ人材がいかに設計に集中できるかが会社の生命線になると考えているからです。そのために、今は「標準化」と「デジタル化」に力を入れています。これまでは個々の設計者のスタイルが尊重されてきましたが、多様な働き方に対応するには共通の基盤が必須です。そこで、設計のワークフローを整理してタスク管理を徹底し、ナレッジ共有ツールやクラウド環境を全社導入するといった取り組みを続けています。80周年を迎え、我々は第二の創業期ともいえる変革の最中にいますが、「ここにいれば自分の力を最大限発揮できる」と社員が実感できる会社にすることが、次の時代を切り拓く礎になると信じています。
■佐藤総合計画が手がけた建築プロジェクトの事例。

❶東京ビッグサイト。1995年11月竣工、プロポーザル方式で佐藤総合計画が設計を担当した。(撮影/エスエス)
❷山元町立山下第二小学校。2017年にグッドデザイン賞 公共用の建築・施設にて受賞。(撮影/中村絵写真事務所)
❸深圳小梅沙エリア新海洋世界(深圳水族館)・小梅沙美高梅酒。南シナ海の海流をモチーフにした渦型の造形で、巨大円筒型水槽を中心に3つのテーマ水槽をらせん状に配置。延床131,495㎡の観光拠点施設。(撮影/徐勉)
ミライon(長崎県立長崎図書館及び大村市立図書館、大村市歴史資料館)。(撮影/中村絵写真事務所)
2021年にBCS賞を受賞した高崎芸術劇場。(撮影/篠澤建築写真事務所)
- 谷口直英
Naohide Taniguchi 取締役・設計本部長・東北オフィス・DDC 担当
1991年筑波大学・デザイン主専攻建築デザイン専攻卒業後、佐藤総合計画に入社。
設計の専門分野としては教育施設に力を入れてきた。2025年6月より取締役就任。
設計室のディレクター時代から兼務でデジタルデザインセンターのセンター長を務め、
デジタル環境と組み併せた総合的な設計事務所の仕組みづくりに取り組んでいる。
一級建築士。管理建築士。