アーキテクト・エージェンシーがお送りする建築最先端マガジン

Architect's magazine

【超売り手市場。AIに奪われない仕事がここに】建築設備設計×キャリア術

【超売り手市場。AIに奪われない仕事がここに】建築設備設計×キャリア術

【01】需要急増!設備設計の実態

建築設計において現在、需要が高く、専門性に富んだ設備設計の世界。
電気・空調・給排水などのインフラを担う設備設計者は、建物の「血管・内臓」として機能し、快適で安全な空間を創造する重要な役割を果たしている。

 建築設計は人体にたとえると理解しやすい。意匠設計が「顔・外見」、構造設計が「骨格・筋肉」とすれば、設備設計は「血管・内臓」にあたる。建物の生命を支える装置として機能する設備設計は、3つの分野の中でもっとも需要が高く、専門性の高い領域である。2023年の日経アーキテクチュアの調査では、9割を超える設計事務所で人材不足が指摘され、8割近くが設備設計者の不足を感じるという報告もある。さらに2025年には、建設業界全体で約90万人の働き手が不足すると予測され、設備設計者への期待はますます大きくなっている。

 設備設計は大きく電気設備と機械設備の二つに分けられる。電気設備では、受変電設備による電力供給、照度計算や配置計画による快適な照明、生活に欠かせないコンセントや分電盤の動力設備、通信を支えるインターネットや電話の弱電設備、火災報知器や避難誘導などの防災設備、防犯カメラや入退室管理によるセキュリティなど、多様な分野を扱う。

 一方の機械設備では、空調配管による快適な室内環境の確保、給排水や衛生設備の設計、ガス配管の安全設計、火災時に作動するスプリンクラー等の消防設備設計などを担当する。
さらに設計図書の作成や官庁への申請、設計監理、クライアントとの打合せ、意匠・構造設計者との調整など、プロジェクト全体をまとめる役割も担っている。

【02】給与水準と成長性で選ぶ職種

ある調査によると建築設備設計者の平均年収は日本の平均年収を上回り、経験とともに着実に上昇するとも言われている。専門特化・マネジメント・転職という多様なキャリアパスで、理想の働き方を実現できる。

 設備設計は、経験を積むほどに着実に収入と役割が広がる職種である。早い段階から専門性を発揮できるため、キャリア形成のスピード感も大きな特徴といえる。
 電気設備設計者の平均年収はおおむね500万〜700万円、機械設備設計者は450万〜650万円が目安である。20年を超える経験と資格を備えれば、年収1000万円を超えるケースも少なくない。

 注目すべきは昇進の早さである。建築設備士や設備設計一級建築士といった難関資格を取得すれば、他の建築職種より早く管理職に就くことが可能だ。大手設計事務所では30代前半で主任、30代後半で課長クラスに昇進する事例も珍しくない。また独立開業の道もひらけており、コンサルタントとして年収1500万円以上を実現する専門家も存在する。

 キャリア形成の選択肢は幅広い。技術を極めたい人には特定分野のスペシャリストとして希少価値を高める専門特化ルートがある。組織運営に関心がある人には、プロジェクトマネージャーから部門責任者へと進むマネジメントルート。さらに収入の最大化を目指す人には、ゼネコン設計部から専門コンサルタント会社への転職を重ね、市場価値を高めていく戦略的なルートもある。

【03】戦略的資格取得でキャリア加速

設備設計者のキャリアアップには資格取得が不可欠である。建築設備士から設備設計一級建築士まで、計画的な取得により年収アップと専門性向上を実現できる。各資格の難易度、取得時間、収入相場を参考に自身にあった資格を探してみてほしい。

キャリアを長く築いていくうえで、資格取得は自分を高め、将来の可能性を広げる強力な武器となる。資格を取ることで得られるのは知識や肩書きだけではない。努力を重ねた証明として信頼を生み、より大きな責任や挑戦のチャンスへとつながっていく。特に建築設備士は設備設計者にとって最初の大きな関門であり、学習時間は800〜1000時間と決して容易ではないが、その過程で実務に直結する力が確実に身につく。資格を手にすれば、同僚や上司からの評価も高まり、重要なプロジェクトを任される機会も広がっていく。

 一級建築士を取得すると、仕事の視野は大きく広がる。設備だけでなく建物全体を見渡し、全体のバランスを考えながら設計に取り組めるようになるからである。さらに設備設計一級建築士まで進めば、大規模建築の設備設計で中心的な役割を担うことができ、業界の中でも一目置かれる存在となるだろう。

 また、電気や給排水などの専門資格を組み合わせることで、キャリアの幅はさらに広がる。たとえば第三種電気主任技術者は電気設備の専門性を深め、給水装置工事主任技術者は上下水道分野での強みを示してくれる。複数の資格を持てば、どんなプロジェクトにも柔軟に対応できる頼もしさが生まれる。結果として、信頼性の高い技術者として評価され、長期的に安定したキャリアを築けるはずである。

【04】建築設備設計転身のススメ

転職市場活況の今こそ、設備設計への転身を検討すべき時期が到来しているかもしれない。求人倍率約3倍、平均年収も高いという好条件に加え、脱炭素やデータセンター需要で成長分野が明確化。AI時代にも代替されにくい専門性で、キャリアの新たな可能性を探る。

現在、建築設計のなかで注目を集めているのが、設備設計のキャリアだ。令和6年、建築設計技術者の有効求人倍率は約3倍と売り手市場が続き、平均年収は約640万円に達している。特に経験5年以上の設計者は需要が強く、高水準の採用が今後もしばらく続くと予測されている。

 意匠設計は、空間やデザインを通じて建築全体をリードする存在であり、クリエイティブ性が問われる重要な領域である。一方で設備設計は、論理や計算を基盤とした専門性を武器に、社会的なニーズの拡大に応えている。どちらも建築に欠かせない役割を持ちながら、キャリアパスの選択肢が大きく異なる点に特徴がある。

 成長分野に目を向ければ、脱炭素やZEB設計は年々成長を続け、政府の2050年カーボンニュートラル目標を背景に需要が急増中である。それに合わせて、データセンター設備設計の需要も上昇し、AI需要の拡大によって案件も急増している。さらに医療・研究施設設計は高齢化により継続的に需要があり、参入障壁が高い分だけ単価も高水準を維持している。

 デザイン力を磨いてきた意匠設計者にとって、設備設計は新しい専門性を掛け合わせることでキャリアの幅を広げられる選択肢となる。両者の強みを理解し、自分に合った進路を見極めることが、これからの建築キャリア形成において大切である。

PROFILE


アーキテクツマガジンは、建築設計業界で働くみなさまの
キャリアアップをサポートするアーキテクト・エージェンシーが運営しています。

  • アーキテクトエージェンシー

ページトップへ