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人口“超”減少時代に必要とされる 新たな“都市計画のかたち”を研究。 誰もが参加したくなる仕組みも開発

人口“超”減少時代に必要とされる 新たな“都市計画のかたち”を研究。 誰もが参加したくなる仕組みも開発

東京都立大学 都市環境学部 都市政策科学科 饗庭研究室/教授 饗庭 伸

研究室に所属する学生は、学部生・院生ともに各4名。卒業生の進路は、総合職として都市計画にかかわるデベロッパーや鉄道会社、公務員などが多い

XR技術を活用し直感的な理解を促す

3DCG・XR技術を活用した議論、VRゴーグルで仮想現実を眺めながらの現地調査――。
これらは、饗庭伸教授の協力のもとに実施された、住民参加型まちづくりワークショップに見られた光景である。

土地利用転換などの再開発においては、地域住民を含めた関係者が議論を重ねたうえでの合意形成が不可欠だ。しかし、専門知識の薄い一般住民にとって、図面や文章などだけで複雑な情報を理解するのは難しく、地域住民が参加に躊躇する要因にもなっていた。そこで饗庭教授は、都市計画におけるコミュニケーションの質向上を一つの軸として研究を進めている。住民が都市計画に参加するときのコミュニケーションにゲームの手法を取り入れている。「夢見る都市計画家ゲーム」は学生とともに制作したロールプレイのカードゲームで、夢とアイデアの実現手段を無数に編み出すことができる。

大学院の授業の一コマで、まちづくりのためのコミュニケーションデザインとしてボードゲーム制作を行っている

「ゲームは住民が意見を自然に発信できる手段となります。ゲーム内では、異なる立場の人々も平等かつ対等であり、忌憚や忖度のない意見を引き出す雰囲気をつくり出せますから」

ARやVRといったXR技術を組み合わせたツールの開発も、こうした考えの一環だ。この研究は、国土交通省が公開している3D都市モデル「PLATEAU」の推進事例プロジェクトとして、空間デジタル技術のスタートアップ企業・株式会社ホロラボと連携し、東京都八王子市の北野下水処理場・清掃工場跡地の再開発事業において進行中である。

「torinome(トライノーム)」と名付けたツールは、3D都市モデルの上に、地理空間情報やテキスト、画像などを自在に組み合わせて視覚化できるWebプラットフォームである。平面上の議論を瞬時に俯瞰できるのがデジタルのメリットであり、直感的な情報提供も可能だ。さらに、参加者によりリアルな感覚を掴んでもらうために、手で触れられる〝タンジブル〞な要素も取り入れている。「完全なバーチャル環境には実感が伴わないため、手で触れられるタンジブルインターフェースを組み込み、楽しみながら考えることができるよう工夫しました」と饗庭教授は語る。

左/アイデア創出XRワークショップの様子。ARを用いると机上に敷地の3D都市モデルが現れる。盤上に空間イメージを重ね合わせ、さらにコメントも映し出すことができる 右上/XR現地ツアー。三角コーンの上に設置されたバーコードを読み取ると、その場に3D映像を重ねて視聴できる 右下/「torinome Planner」。開発方針を実現するための空間イメージをまとめたカード。イラストに対応した3D 建物モデルを呼び出せるようにしてある

幅広い視点から都市計画を探求

「torinome Planner」は、カード型のタンジブルインターフェースである。カードの絵を読み取ると、3Dオブジェクトが浮かび上がり、3D都市モデル上に自由に配置できる。さらに、カードをBIMデータと連携させれば、より発展的な利用も可能だ。配置したモデルは「torinomeAR」と連携させて保存し、現地で投影するなどの活用がされている。

饗庭研究室には、都市政策科学科の学生たちが所属する。同学科は、文理融合のカリキュラムが特徴で、定員の8割を文系出身者が占めるという。「都市政策科学科では、建築や土木にとどまらない幅広い視点から都市計画を探求します。社会課題が複雑化するなかで、専門分野を超えた政策立案能力が求められています。そのための総合力、連携力を4年間で養成したいと考えています」

長期的な研究テーマとして、饗庭教授が注目しているのが人口減少時代の都市のあり方だ。日本の人口は2008年のピークから、50年ほどかけて3分の2以下まで減少すると予測されている。戦争や災害に起因しない、いわゆる「移動を伴わない人口減少」によって、日本に起こる急激な変化は世界でも類を見ない現象であり、都市計画にも大きな影響を及ぼす。すでに空き家問題が顕在化していることからもそれは明らかである。

「今後我々は、人口減少の実態を目の当たりにすることになるでしょう。私の研究は決して希望にあふれるものではありません。しかし、ある意味この貴重な時代に何が起きるのか見極めながら、都市計画家としてどんな貢献ができるのか、模索していきたいと思っています」

PROFILE

教授
饗庭 伸

あいば・しん

1993年、早稲田大学理工学部建築学科卒業。
同大助手などを経て、現在は東京都立大学都市環境学部都市政策科学科教授。
専門は都市計画とまちづくり。現場においても専門家としてかかわる。
主な著書に、『都市の問診』(鹿島出版会)、『都市をたたむ』(花伝社)、
『平成都市計画史』(花伝社)。博士(工学)。

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