アーキテクト・エージェンシーがお送りする建築最先端マガジン

Architect's magazine

多様なものたちや人々、 その活動が、時に美しく 繋がるような場を作る。

多様なものたちや人々、 その活動が、時に美しく 繋がるような場を作る。

藤本壮介

バラバラが繋がる。大阪・関西万博のシンボルを手がける建築家・藤本壮介は、いかに建築と出会い、向き合ってきたのか。「バラバラでありながらひとつである」ことを肯定する建築が生まれるまでの道筋を辿る。

幼少期に芽生えた〝新しいこと〟への憧れ

─まずは藤本さんの活動の原点についてお伺いします。北海道で過ごした少年時代からものづくりや建築には興味があったのでしょうか?

藤本:幼い頃から、物を作るのはすごく好きでしたね。ただ、建築を意識したのはもっと後です。それよりも先にあったのは、小学校高学年で出会ったビートルズの影響かもしれません。たまたま親が持っていたレコードの一つがビートルズだったんです。今まで聞いたこともない音楽を聞いて、「新しいものを切り開いていく」のがとてもかっこいいなと感じて。新しい何かにチャレンジするというマインドは、多分そこで培われたのだと思います。建築との直接的な出会いは、父の本棚にあったガウディの写真集を中学2年生の頃に見たことですね。ただ、それまで見たこともない建物に衝撃は受けましたが、その時はまだ「こんな建物があるのか。面白いことをやっている人がいるな」というくらいの、感想ではありました。

─建築とも出会ってはいたものの、すぐに夢中になったわけではないんですね。

藤本:はい。高校生になると、今度はアインシュタインを通じて量子力学、物理学が好きになりました。新しい概念を生み出すことで、世界の見方がガラッと変わるということに、ビートルズとも通じる「かっこいいな」という感覚を覚えて。それで物理学者になりたいと真剣に思い、東大の理科一類に入りました。

─大学入学時点でも、まだ建築の世界に入り込もうとは思っていなかったんですね。そこから、どのような経緯で建築の道に進まれたのでしょうか。

藤本:意気揚々と物理学の最初の授業に行ったのですが、先生の言っていることが全く理解できなくて「これは完全なる勘違いをしていたんだな」と。笑っちゃうくらい分からなかったので、爽やかな気持ちで諦められました(笑)。東大ではまず「理科一類」のような大枠で入学し、2年生の途中までの成績をもとに、専門の学部・学科を選ぶのですが、進路を決めるときに他にやりたいこともなかったので、建築を選びました。当時はガウディしか知らない状態だったのですが、ほとんど何も調べずに「まあ建築かな」と。正直なところ、決断としてはとても緩い感じでしたね。

─とはいえ、ようやく本格的に建築の道を進み始めたわけですね。建築について学んでみて、一気にのめりこんでいったのですか?

藤本:それが幸運なことに、最初の授業でル・コルビュジエとミース・ファン・デル・ローエの話が出てきて、めちゃくちゃ衝撃を受けたんです。「こんな建築を作ってた人がいるんだ」と。

─それまでの重厚な建築の「当たり前」を打ち破り、光やガラスに満ちた空間を生み出した二人ですね。

藤本:彼らの活躍した時期がアインシュタインと重なるのを見て、「建築の世界でもアインシュタインみたいに新しい概念を切り開いた人がいたんだ」と。それで、これなら自分がやりたかったことなんじゃないかと、すぐにハマり込んでいきました。

❶児童心理治療施設。精神の障がいを抱える子どもたちが共同生活を営む施設。白い立方体の家が複数配置され、隠れる場所と共有空間が共存する。(写真/DAICI ANO)

❷Serpentine Gallery Pavilion 2013。20mm角の白いスチールパイプを格子状に組み合わせた「雲」のようなパビリオ
ン。ジャングルジム状の透明な建築。(写真/Iwan Baan)

❸武蔵野美術大学 美術館・図書館。「本の森をさまよい歩く」がコンセプト。渦巻き状に配置された書架で散策性と検索性を両立する図書館。(写真/DAICI ANO)

Comment
新しい概念を切り開くようなことを、建築でもできると気づかされた。

【次のページ】
自らの建築テーマを模索した日々

ページ: 1 2 3 4

PROFILE

藤本壮介
Sosuke Fujimoto

 

1971年北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、2000年藤本壮介建築設計事務所を設立。東京・パリ・深圳に設計事務所を構え、世界各地で活動を展開。2025年大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーを務め、2024年には仙台市「(仮称) 国際センター駅北地区複合施設基本設計業務委託」の基本設計者に特定。
代表作にロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013、ラルブル・ブラン(2019年、フランス)、ハンガリー音楽の家(2021年、ブダペスト)など。
森美術館で初の大規模個展「藤本壮介の建築:原初・未来・森」が2025年7月2日から2025年11月9日まで開催中。

人気のある記事

アーキテクツマガジンは、建築設計業界で働くみなさまの
キャリアアップをサポートするアーキテクト・エージェンシーが運営しています。

  • アーキテクトエージェンシー

ページトップへ