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多様なものたちや人々、 その活動が、時に美しく 繋がるような場を作る。

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藤本壮介

バラバラが繋がる。大阪・関西万博のシンボルを手がける建築家・藤本壮介は、いかに建築と出会い、向き合ってきたのか。「バラバラでありながらひとつである」ことを肯定する建築が生まれるまでの道筋を辿る。

大屋根リングに込めたメッセージ

─その思想が、その後の様々なプロジェクトで探求され、2025年の大阪・関西万博で手がけた「大屋根リング」に繋がっていくのですね。ただ、これまでの藤本さんの作品は、混沌として分散的でありながらも、人と人との緩やかな繋がりを肯定するようなものが多かったと感じます。それに対し、大屋根リングは、非常に明確で強い「円」という形が、これまでとは少し異なるメッセージを発しているようにも見えました。建築家として万博をどう捉え、あのようなデザインに至ったのでしょうか。

藤本:まず考えたのは、今の時代における万博の本当の意義とは何か、ということです。分断が進むこの社会の中で、世界が一箇所に集まるという「場」を作ること、そのフォーマット自体がとてつもない価値を持つのではないか、と。その「世界が集まる」という出来事を、建築として可視化し、体験化できないかと考えたんです。それで、あえて「円」というすごくわかりやすくて強い形を最後に選んだんです。昔の僕だったら、「バラバラの森みたいなものがいいんだ」と言っていたかもしれませんね。でも、世界の誰が見ても「分かる」形にしなければ、このメッセージは伝わらない。それくらい強烈な意味合いを込めた選択でした。

ただ、気を付けたのは、円が単に「閉じたもの」にならないようにすることです。遠くから見ると強いメッセージですが、近づいていくととても解放的になっていて、壮大な大聖堂のように見える場所もあれば、梁がたくさんあるところは民家の八畳間にいるようにも感じられるという。近づけば近づくほど森のようになり、多様な解釈が生まれるように作っています。

─「多様でありながら一つである」という、これまでの哲学とも繋がっているのですね。

藤本:大屋根リングは、何かを規定しているようで、実はその内側にあるパビリオンたちの混沌や、空という自然のダイナミズムを眺めるための「窓」や「フレーム」にもなるんです。多様なものを多様なままに受け入れながら、緩やかに一つに繋いでいく。そんな「みんなの場所」としての建築なんです。分断されがちな現代において、多様なものたちが尊重し合いながら共存できる「場」をどうつくるか。万博のリングは、僕なりの一つの答えでもあります。

❽白井屋ホテル。群馬・前橋の江戸時代創業の老舗旅館を再生。吹き抜けの「ヘリテージタワー」と丘状の「グリーンタワー」2棟で構成されたアートホテル。(写真/Katsumasa Tanaka)❾

❾マルホンまきあーとテラス。宮城県石巻市の複合文化施設。東日本大震災で被災した施設を統合し、家形が連なる外観で約160mのロビー空間が特徴。(写真/Masaki Iwata + Sou Fujimoto Architects)

❿仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設。音楽ホールと震災メモリアル拠点の複合施設。2031
年竣工予定。(写真/Sou Fujimoto Architects)


⓫House of Music Hungary。ブダペストの都市公園内に建つ音楽複合施設。音の振動を視覚的に表現した円盤状の屋根が公園の森の中に浮かぶ建築。(写真/Iwan Baan)

Comment
分断が進む社会で、世界が集まるという出来事の価値を、建築として可視化できないかと考えた。

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PROFILE

藤本壮介
Sosuke Fujimoto

 

1971年北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、2000年藤本壮介建築設計事務所を設立。東京・パリ・深圳に設計事務所を構え、世界各地で活動を展開。2025年大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーを務め、2024年には仙台市「(仮称) 国際センター駅北地区複合施設基本設計業務委託」の基本設計者に特定。
代表作にロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013、ラルブル・ブラン(2019年、フランス)、ハンガリー音楽の家(2021年、ブダペスト)など。
森美術館で初の大規模個展「藤本壮介の建築:原初・未来・森」が2025年7月2日から2025年11月9日まで開催中。

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