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多様なものたちや人々、 その活動が、時に美しく 繋がるような場を作る。

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藤本壮介

バラバラが繋がる。大阪・関西万博のシンボルを手がける建築家・藤本壮介は、いかに建築と出会い、向き合ってきたのか。「バラバラでありながらひとつである」ことを肯定する建築が生まれるまでの道筋を辿る。

自らの建築テーマを模索した日々

─大学を卒業された後、すぐに就職はしなかったのですね。

藤本:将来的に建築家になりたいという固い決意はなぜかあったのですが、当時の自分には軸が全くないなと思って。卒業して約6年は、自分がやりたいことしかやらないという、今から思えばとても贅沢な時間を過ごしました。日々、これからの建築を色々描いたり、アイデアコンペに出したりと、ひたすら建築のことだけを考えている毎日でしたね。

─その決断は非常に珍しいと思いますが、例えば著名な建築家の事務所に入る、といった選択肢は考えなかったのでしょうか。

藤本:単純に、怖かったんです。有名な方のもとに自分の作品を持って行って、「お前センスないな」なんて言われたら、もう立ち直れないので(笑)。学内で友達や先生に「面白いじゃん」と言われるのは嬉しいけれど、外の世界の絶対評価に晒された時に、自分の作っているものが吹けば飛ぶようなものかもしれないと思うと、怖くて踏み出せなかったんです。

─今の藤本さんの姿から考えると不思議に思えますが、その時点ではまだ明確な軸のようなものがなかったのですね。その期間に、建築家としての核となるテーマが見つかったのでしょうか。

藤本:大きな転機は、卒業して1年くらい経った時に、精神科医である父から、病院の増築、作業療法棟の設計を頼まれたことです。当時そういった病院は、管理はしやすいけれども入居者にとって決して居心地が良いわけではない場所でした。これを何とかしたいという話を聞いて、これは個人と社会、コミュニティの関係性を空間がどのようにサポートできるかという重要な問いであり、人間のあり方の一番深いところまで遡らないといけないと感じました。

─具体的には、どのような空間を考えたのですか?

藤本:それまでの施設が死角のないパノプティコン(全展望監視システム)的だったのに対し、あえて死角が生まれるような空間を考えました。死角があることで人は安心感を得るのではないか、という仮説です。また、別の病棟では、全体は繋がりながらも、隅っこにちょっと隠れられるような場所を作りました。個が尊厳を持ちながら、単にバラバラにあるのではなく、緩やかに繋がる場所の作り方。それからも数年間、いくつかの建物を作らせてもらったのですが、「バラバラでありながらひとつである」という、自分の中の社会モデル、建築モデルが確立されたのは、この時の経験が大きいですね。

─藤本さんのその後の作品にも繋がる重要なキーワードですね。

藤本:それから、ちょうどその頃、イリヤ・プリゴジンの『混沌からの秩序』という本を友人から勧められて読みました。秩序は混沌から自発的に生まれてくる、という話で、これはコルビュジエに代わる新しい秩序観なのではないか、と考えたんです。当時流行していた「複雑系(個々の要素が相互作用し、全体の秩序が生まれるという考え方)」の話とも繋がって。森の木々が一見勝手に生えているようで相互関係の中で秩序を持っているように、グリッドに人間を押し込めるのではなく、個々の人間がいることで生まれる動的な秩序というものを考えるようになりましたね。施設の設計をするときに考えていたことと、森のような自然のあり方と、複雑系、プリゴジンの話が、自分の中で全部繋がったんです。

❹大阪・関西万博 大屋根リング。世界最大の木造建築物で全周約2km。「多様でありながら、ひとつ」という万博の会場デザインの理念を表現した円環状のシンボル建築。(写真/Iwan Baan)

❺House N。三重の入れ子状の箱構造で内部と外部を曖昧にし、自然の中にいるような奥行きをもたらすRC造の革新的住宅。(写真/Iwan Baan)

❻House NA。東京の透明なガラスで囲まれた3階建住宅。55mm角の鉄骨柱と小さな床が立体的に連続し、家具のように配置された開放的空間。(写真/Iwan Baan)

❼L’Arbre Blanc。フランス・モンペリエの地上17階建集合住宅。「白い木」の名の通り、バルコニーが樹木の枝のように
突き出し、地中海気候を楽しむ革新的デザイン。(写真/Iwan Baan)
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大屋根リングに込めたメッセージ

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PROFILE

藤本壮介
Sosuke Fujimoto

 

1971年北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、2000年藤本壮介建築設計事務所を設立。東京・パリ・深圳に設計事務所を構え、世界各地で活動を展開。2025年大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーを務め、2024年には仙台市「(仮称) 国際センター駅北地区複合施設基本設計業務委託」の基本設計者に特定。
代表作にロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013、ラルブル・ブラン(2019年、フランス)、ハンガリー音楽の家(2021年、ブダペスト)など。
森美術館で初の大規模個展「藤本壮介の建築:原初・未来・森」が2025年7月2日から2025年11月9日まで開催中。

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