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業界の当たり前を疑うーー。今、その視点が重要だと思う

業界の当たり前を疑うーー。今、その視点が重要だと思う

株式会社エイトブランディングデザイン 代表 ブランディングデザイナー 西澤明洋

前回、単に商品の形や企業のロゴを考えるのではなく、ある意味経営そのものをデザインするのが「ブランディングデザイン」である、という話をしました。実際、僕は仕事を受ければ、クライアントの経営戦略などにもコミットできる“デザイン部長”クラスのポジションで動きます。オリエンを受けて何かをやるのではなく、課題探しから含めてお手伝いします。最近はクライアントの社外取締役に就き、当該企業の取締役会に参加したり、デザイン部の再生や技術指導も行うようになりました。

様々な業種の案件にかかわっていますが、2年ほど前からは、中規模の建築会社でもコンサルを始めています。施工に強く獲得案件のコンディションは申し分ないものの、デザインが突き抜けきれていない。そこで、会社の体制を組織設計のような“室制”に変えることから始め、レベルの高い設計者育成などに取り組んでいます。

このように、コーポレートの戦略書き換えを含めて経営にかかわり、伴走していくのが僕らのスタンスです。デザインの仕事は8割、残り2割は状況に応じた経営の上流工程の企画やディレクションの仕事になります。

こんな話をすると、“出身”である建築からは、ずいぶん離れた印象を持たれるかもしれません。しかし、僕から見ると、逆に業界の現状は「かつて自分が憧れた設計っぽくない」感じがするのです。設計というのは、本来もっと広範囲な全体を統合すべき技術のはずなのに、“部分の技術”に甘んじている、というのがその理由です。

設計に求められる統合には、2つの軸があると思っています。一つは、話してきたように、設計という発注が起こる前の上流工程から関与して、プロジェクトの全体を俯瞰しながら仕事をすること。それでこそ最適の設計が可能だと思うのですが、今のプロの設計者は“モノをつくること”だけに特化しすぎている感が否めません。そしてもう一つは、周辺分野の人たちとコラボしていく、という意味の統合です。設計者が対応すべき課題には、建築だけでは解決できないものもあります。案件ごとに、例えばIT、デザインなど近接業種と柔軟にアライアンスを組んでクライアントが求めるものを完成させていく。あらゆるものが複雑化する時代において、設計にもそういう仕事の仕方が求められているのではないでしょうか。

ブランディングデザインの仕事をやっていると、壁にぶち当たっている会社の共通点が見えてきます。みんな“業界の当たり前”から抜け出せないでいるのです。前回紹介した「COEDOビール」も“地ビール”というポジションがネックになり、ブームが去った後、苦境に陥りました。一度その立ち位置を忘れ、自分が提供できるコンテンツの本質やマーケットに対する意味を見直し、“クラフトビール”にリポジショニングしたところから、V字回復が始まりました。

このことは、設計業にもそのまま当てはまります。各社ごとの仕事のやり方やデザインの特徴は異なり、個性豊かな企業が多いにもかかわらず、Webサイトもそこに載る料金表も似たり寄ったりというのはいかがなものでしょう。ちゃんとお客さまのほうを見て、それぞれが自らのポジションを再設定する。業界の当たり前を疑い、自分自身の本来やるべきことをもう一度つくり直したほうがいいと僕は思うのです。

PROFILE

Akihiro Nishizawa

Akihiro Nishizawa
西澤 明洋

2002年、京都工芸繊維大学大学院修了後、株式会社東芝に入社。06年、現株式会社
エイトブランディングデザイン設立。「ブランディングデザインで日本を元気にする」
というコンセプトのもと、ブランディングデザイナーとしての活動を開始。
『ブランディングデザインの教科書』(パイ インターナショナル)など著書多数。

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