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建築に夢や希望を託すことは とても重要なこと。それこそが、 素晴らしい建築をつくり出す 原動力になるのだから

建築に夢や希望を託すことは とても重要なこと。それこそが、 素晴らしい建築をつくり出す 原動力になるのだから

椎名英三

 椎名英三が常に希求するのは「自然の感覚を携えた建築」だ。曰く、人がその空間に身を置いた時、「私は今、生きている」という確信を持てるような建築。それは、移ろいゆく社会のなかに位置づけられるものではなく、大いなる宇宙、自然と連続する建築を意味し、椎名はずっとこの普遍的なテーマと向き合ってきた。住宅や商業施設など、多くの建築設計を手掛けるなか、とりわけてシンボリックなのは、屋外の生活を日常に取り込むことができるアウタールームの設えである。ここに椎名の主張が具現されており、そして、外自然と連続する力を持った建築は、人々に本物の心地よさを与えている。

続いて、構造デザイナー・梅沢良三氏との共同設計である「IRONHOUSE」は、日本建築学会賞作品賞など、複数の賞を獲得。L字型をした同住宅の中央にあるアウタールームは空間的コアとして建築を律しており、さらにその存在性を高めた。そして「近年気に入っているもの」として椎名が挙げたのは、本記事の扉ページにも掲載している「森FOREST」「ODYSSEY」と「林居」の3つである。

梅沢さんにしても、たくさんの建築家とのお付き合いがあるなかから僕を選んでくださったし、やっぱり「作品を見て」「建築雑誌を見て」と指名される仕事はありがたく、嬉しいものです。ちなみに林居は、クライアントがもともと頼んでいた建築家の案が気に入らず、あらためて雑誌を通じて僕を探し出してくれたんですよ。

 この口の字型にした林居は、従来の一つの中庭を囲うかたちではなく、3つの外部空間を挿入しています。2つのアウタールームと竹林を配した点に特徴があって、これらの空間がどの位置からも見えるように配置しました。屋内外がシームレスにつながっていて、自然が身近にある暮らしの豊かさを、より感じられるのではと思っています。

 この林居が「モダンリビング・ムービー」で紹介されて間もなくのこと。編集長の志水さんから連絡があって、「椎名さん、大変ですよ。視聴回数が100万回超えました!」って。現在はすでに300万回近く視聴されていると聞いています。クライアントにもすごく気に入っていただけたし、僕としても本当に嬉しい。志水さんからは「いろんな仕事の話がきたでしょう」と言われたんですけど、それがまったくないんですよ……(笑)。

 もちろん、すべて納得のいく建築ばかりではなく、特に若い頃は腑に落ちない仕事も経験してきました。クライアントの意向とはいえ、時には、悪しきデザインを強要されたことだってあります。建築の設計とは、障害物競走のようなものなのかもしれません。先のようなことも次々と襲ってくる問題の一つですが、難しいところですよね。そんな時には、何かで読んだ「心そこに在らざれども、真にやむを得ざるものあり」という素晴らしい言葉を思い出すようにしています。建築というのは詩的構築体と捉えることもできる。だから建築家は、すべての問題を超えて、常に自身が考える美しい建築を目指さなければならないと考えています。

現在の「椎名英三・祐子建築設計」に名称変更したのは18年のこと。同時に、椎名は事務所をSACRA TERRACE(世田谷区)に移している。このビルは、先の林居のオーナーがもともと住んでいたところで、建て替えの依頼を受けた椎名夫妻が設計を手掛けたものだ。

住宅への評価からつながった建て替え計画で、これもご縁ですよね。途中で、仕事のパートナーでもある妻と「こっちに移ろうか」という話になり、成城から引っ越してきました。ビル自体は建築法規でかたちを決められたようなものですが、随所に工夫を込めています。街へのプレゼントとして、「せめて緑をやりましょう」とオーナーを説得し、植栽を施したのもその一つ。

この前を歩く人々に少しでもホッとしてもらいたいと思ってのことです。 先述したように、自然の感覚を携えた空間は、人の心の奥深くに訴えかける力を持っています。特に住宅は、生活するための単なるシェルターではなく、僕ら人間の生に深くかかわっている。素晴らしい空間を有する住宅に住むということは、生きていくための手段ではなく、大いなる目的の一つではないかと僕は思うのです。だからこそ、建築に夢や希望を託すことが重要で、それこそが素晴らしい建築をつくり出す原動力になると信じています。

 街の醜悪ぶりを見るにつけ、本当はもう少し大きいのをやりたいという気持ちもあるのですが、僕はどうもコンペとかが苦手で。仕事をしていると、今の忙しさで手一杯になってしまう……。たくさんの人を相手にできないかもしれないけれど、僕はやはり、これからも自分ができる範囲で本物の建築をつくっていきたい。人がそこに入った時に「私は今、生きている」と感じ取れるような、生を意識できるような建築です。生きているといろいろなことがありますが、僕は建築をとおして「YES! 大丈夫!」と言いたいのです。そんな僕が次代を担う仲間に伝えたいメッセージは、「すべてを超えて 頑張ろうぜ そして 陽気にゆこうぜ」――これですね。

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PROFILE

椎名英三

椎名英三
1945年2月6日 東京都港区生まれ
1967年 日本大学理工学部建築学科卒業
1968年 大高建築設計事務所を経て宮脇檀建築研究室入所
1975年 空環設計を設立
1976年 椎名英三建築設計事務所設立
2018年 椎名英三・祐子建築設計に名称変更
教職・役職など

日本大学海洋建築工学科講師、

日本大学建築学科講師、

国際協力機構(JICA)講師、

日本建築家協会教育研修委員会委員、

日本建築学会作品選奨選考委員、

東京都立大学建築学科講師、

日本女子大学家政学部住居学科講師、

日本建築学会賞選考委員、

昭和女子大学環境デザイン学科講師、

日本建築家協会JIAトーク実行委員会委員長など

 

 

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