アーキテクト・エージェンシーがお送りする建築最先端マガジン

Architect's magazine

世間事情に惑わされず、 自分のポリシーを決めて道を進む。 そして、社会としっかりかかわる。 建築家には重要な資質だと思う

世間事情に惑わされず、 自分のポリシーを決めて道を進む。 そして、社会としっかりかかわる。 建築家には重要な資質だと思う

横川 健

 住宅から公共建築まで、そして家具や腕時計などといったプロダクトも幅広く手がける横河健の〝デザイン〞には垣根がない。美術学科出身で、人の五感に触れるところから建築を始めた横河は、一貫して人の気持ちや行動に寄り添ってきた。建築を思考する時、外形を捉えるのではなく、その中で行われるであろうコトをデザインするスタンス、それは「モノづくりはコトづくり」という言葉に端的に表れている。日本建築学会作品賞を受賞した「グラスハウス」を筆頭とする数多くの受賞作において、上質で洗練された空間設計が高く評価される所以だ。「美しいもの」「心地よいもの」へのこだわりは、横河の人生観そのものでもある。

「美しい都市」への変わらぬ思いを胸に、ポリシーを貫く

 学生も含めてコンペをやったり、建築研修旅行に出かけたり。JIAでも教育研修委員長としての活動が長かったので、旅行の団長はずいぶんやりましたね。ヨーロッパとか、自分が興味あるところを中心に企画して(笑)。加えて、どうも僕は反骨精神があるように映るらしく、それを学生たちが面白がってくれて、シンポジウムもよく開いたりしました。

 かつて、国の有形文化財である日本工業倶楽部会館が耐震基準に合わないということで壊されようとした時、僕は倶楽部宛に手紙を書いたんですよ。歴史的建築物の価値継承を進言する内容で。それがJIAの広報誌に掲載され、目を引いたのか、東大の先生が歴史検討委員会に引き入れてくださった。祖父である横河民輔が設計した日本工業倶楽部会館をはじめ、名作の建築が次々と壊されていった時代でもあります。それが結果、薄皮一枚の〝かさぶた建築〞になっていく……そういうことにならないよう、調査などを含めて、学生やJIAにも手伝ってもらいながら活動してきました。

 ある意味、官に楯を突くような話です。つくる側は公共建築なり仕事をいただく立場だから、目をつけられるとまずいという実情もある。でも、僕が声を挙げるのは、やっぱりポリシーを貫きたいから。学生たちにも伝えてきましたが、どういうかたちであれ、自分のポリシーを決めて道を進むこと、これはとても大切だと思いますね。


 聞けば、目下の横河の大きな関心事は「日本にちゃんとした住宅地をつくること」。街は美しくあってほしいという子供の頃に宿した思いに変節はなく、建築に携わるようになったからこそ、その視線はより熱く都市づくり、国づくりに向けられている。

  僕が住んでみたいと思う住宅地がないんですよ。一つの敷地ではなく、広く住宅地としての地域という意味で。単純な話、電線・電信柱がないとか、雛壇造成をしていないとか、それだけでもいいと思えるのですが、実際にはランドスケープをしっかり考えた住宅地はほとんど存在しません。僕が全部設計しなくてもいいんですけど、死ぬまでには、ちゃんとした住宅地の環境設計をしたいと思っているんです。

 田中角栄の列島改造論以降、世の中、本当に土地本位になってしまったでしょう。特に都市部の地価は急騰し、加えて、日本の税制そのものに問題がある。建築に直接関係する税はたくさんあるけれど、こと住宅建築において重要なキーになるのは相続税。土地価格が高ければ相続税は尋常じゃない額になるから、それを支払うに足りる現金を持っている人などいませんよ。となれば、住んでいた土地を分割して現金に替えて納税することになる。当然、そこにあった建物も解体される。土地の細分化によって、本来の土地の可能性を奪うだけでなく、優れた建築や街並みの景観を崩すことになるわけです。都市部はもう壊滅的な状態だけれど……何とか頑張りたいところです。

 先述したような名作の建築についても同じ。大正から昭和初期にかけて、美しく整った都市景観を持っていた丸の内は、戦争ではなく、我々日本人が自ら壊してしまったのです。経済論理に立ってそれをよしとする人もいますが、建築や環境に携わる人間としては、そうじゃないと言いたい。もっとも、制度に関することは政治家の仕事なので、僕自身は与えられた環境において全力を尽くしたいと思う。日本にはもともと美しい景観があるのだから、それを上手く生かしてつなげていくのを本分に、仕事を続けていきたいですね。
※本文中敬称略

固定ページ: 1 2 3 4

PROFILE

横河 健

横河 健

○東京都渋谷区生まれ
1970年 9月  ワシントン州立大学交換留学生

1972年 3月  日本大学芸術学部卒業

   4月  黒川雅之建築設計事務所入所

1976年11月  設計事務所クレヨン&アソシエイツ設立

1982年 4月  株式会社横河設計工房設立

2001年 4月  日本大学芸術学部兼担講師( ~2013年)
       日本大学研究所教授(~2003年)

2003年 4月  日本大学理工学部建築学科教授 ( ~2013年)

2004年 4月  JIA日本建築家協会副会長(~2006年)

2008年 4月  日本建築学会代議員(~2009年)

2009年 4月  東京大学大学院非常勤講師(~2011年)

2014年 4月  日本大学理工学部建築学科特任教授(~2015年)

2016年 4月  武蔵野美術大学建築学科客員教授(現任)

アーキテクツマガジンは、建築設計業界で働くみなさまの
キャリアアップをサポートするアーキテクト・エージェンシーが運営しています。

  • アーキテクトエージェンシー

ページトップへ