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建築には新しい可能性を引き出す力がある。人の活動や周辺環境など、様々な世界を構築していくところにその本筋があるから

建築には新しい可能性を引き出す力がある。人の活動や周辺環境など、様々な世界を構築していくところにその本筋があるから

赤松佳珠子

 小さな個人住宅から大きな公共建築まで、赤松佳珠子が手がける設計は多岐にわたる。とりわけ学校建築において注目作が多く、1990年代に発表した「千葉市立打瀬小学校」(千葉県)や「吉備中央町立吉備高原小学校」(岡山県)はオープンスクールの先駆けとなった。赤松の持ち味を一言で表すならば〝許容する建築〞。人の行動を規制するのではなく、思い思いに過ごせる場所や、新しい活動を拓くような空間づくりを――そのこだわりは一貫している。だからこそ、設計プロセスではスタッフとの協働を大切にし、とことん最適解を追究する。「シーラカンス」(のちC+A、CAtとCAnに改組)に入所して30年余り、それが赤松の変わらない流儀である。

「大きな可能性を秘めている建築」と向き合い、走り続ける


 100年に一度とされる大規模開発が今現在も進められている東京・渋谷。昨年9月には新たなランドマークとなる超高層の複合施設「渋谷ストリーム」が誕生、赤松は小嶋氏とともにデザインアーキテクトを務めた。居心地のいい場所であると同時に、人々の新たな流れをつくり出すハブとしても機能するこの場には、赤松らの熱い思いが込められている。

 〝渋谷らしさ〞をどう捉えるか、あそこに何があればいいのか、という骨格的な部分から入っています。渋谷ってやはり歩く街で、いろんなモノや事が交錯している独特の界隈性があるでしょう。その魅力、ポテンシャルを未来につなぐことを主眼に提案してきました。超高層であっても、その足元には街に開かれたストリートがあり、風も光も感じられるような空間があり……少なくとも、一般的な超高層のように豪華なエントランスがあって、じゃないよねと。

 場所としては旧東急東横線の渋谷駅跡地で、大きくこだわった点は元の線路線型を踏襲することです。渋谷ストリームの2階の貫通通路は、その線型をなぞるように設計されており、内外に抜いた様々なポーラスを通じて、外部の動きや空気を感じられる空間が実現しています。国道246号の上にある高架橋を補強して再活用するとか、普通の都市開発のセオリーからするとあり得ない話らしいのですが、ここは肝なので粘りました。一度壊してしまうと絶対に戻らないわけで、渋谷らしさを失ってしまうから。

 同様に、渋谷川沿いにお店を張りつけて「人が活動する場にしよう」という提案にもこだわりました。商業的に考えれば、店舗は整形で一定の広さがあったほうが展開しやすいですが、やはり人が空間に対して感じる心地よさを大事にしたかった。結果はかなり妙な区画割りになり、ロットも大中小と様々。これもセオリー外、相当粘りましたね(笑)。骨格のところで関係者の皆さんに考え方を共有していただけたことが大きかったです。それに、彼らのノウハウはやはりすごい。この規模になるとアトリエ単独では無理ですから。組織設計事務所と建築家が互い
の持ち味を生かすようなコラボレーションが、もっと増えていくといいですよね。今回が一つのモデルケースになればと願っています。


 CAt代表として事務所を束ねる一方、赤松は現在、法政大学の教授として後進の指導にも尽力している。昨年は3件のプロポーザルで最優秀賞を獲得し、つい先頃も東京都で新たな小学校建築が決まったばかりだ。加えて委員会や審査員などの業務を抱え、赤松はめまぐるしい日々を送っている。

 大学の先生になるなど思ってもいなかったのですが、教えるのは楽しいですよ。時には、教壇でマイク越しに怒鳴るような時もあるんですけど(笑)、学生たちがだんだん建築を知り、興味を持ち、本気になっていく様を見るのはうれしいものです。

 伝えたいのは、建築はいろんな可能性を秘めているということ。かたちをつくるだけじゃない。ターゲットにしても考えることにしても実に広範囲です。昨今は少子高齢化や地方の問題を始め、日本は縮退ムードで元気がないでしょう。私なりに危機感は持っているんですけど、そのなかで思うのは、「建築にできる何かがあるだろう」と。建築は建物単体を設計するというよりは、どうあるべきか、人の活動や周辺地域とどうかかわるのかなど、様々な世界を構築していくところに本筋があるのですから。諸問題においても建築家が入ることで、物事の組み立てとか、新しい可能性を引き出すことができると思うのです。

 難しい時代にあるのは確かです。不寛容な世の中でもあり、設計者に求められる職能が増えてきたぶん、責任を負わなければならないことも増えています。何かちょっと規格外のことをしようとすると、「誰が責任を取ってくれるんですか?」となるから、なかなか新しいことができない怖さがありますよね。でも、そういうネガティブな面もクリアしていかなきゃいけない問題だし、先を走る私たちも力を尽くしたいです。建築は未来につながるワクワクするもの――私自身が楽しんでいるこの感覚を、これからも示していければと思っています。

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PROFILE

赤松佳珠子

赤松佳珠子

1968年2月15日 東京都世田谷区出身

1990年3月   日本女子大学家政学部
        住居学科卒業
    4月   シーラカンスに入所

1998年     C+A(シーラカンス アンド
        アソシエイツ)に改組

2002年      パートナーに就任

2004年~     神戸芸術工科大学非常勤講師

2005年      CA(t C+A tokyo)と
         CAn(C+A nagoya) に改組

2013年      法政大学准教授
2016年~     法政大学教授

主な受賞
日本建築学会賞(作品賞)
第26回村野藤吾賞
日本建築学会作品選奨
日本建築家協会賞
BCS賞ほか受賞多数

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