アーキテクト・エージェンシーがお送りする建築最先端マガジン

Architect's magazine

MAGAZINE TOP > > 五洋建設株式会社 国際事業本部 シンガポール営業所長 山下 一志

国内9年、海外20年のキャリアを武器に、これからも伸びゆくアジアを拠点に活動したい

国内9年、海外20年のキャリアを武器に、これからも伸びゆくアジアを拠点に活動したい

五洋建設株式会社 国際事業本部 シンガポール営業所長 山下 一志

日本の誇る建築・建設技術者を紹介する本連載の2回目に登場願うのは、シンガポールに赴任して18年、施工管理の立場で、同国の代表的建造物の数々を手がけてきた、五洋建設の山下一志氏だ。日本とは異なる作業環境の中で人を束ね、難題を克服していく極意とは━━。

国内9年、海外20年のキャリアを武器に、これからも伸びゆくアジアを拠点に活動したい

海と将来性への期待を胸に五洋建設に入社

山下氏の故郷は、鹿児島県奄美大島。建築の道を志し、鹿児島大学工学部建築学科に進学するのだが、その選択の伏線は中学時代にあった。
「1975年に開かれた沖縄海洋博覧会に行って、〝未来都市〞アクアポリスに出合いました。理屈抜きに、すごい建物だなあ、と感動しましたね。高校3年生になり、さて進路を決めようという時、そのイメージが蘇ってきて、自分もあんな建物をつくりたいと強く思ったのです。担任に相談すると、設計事務所に連れていってくれ、仕事の現場を見せてくれた。それで心が決まりました」

ただ、興味は設計から施工へ徐々に傾いていく。大学生時代に始めたバイトが一つのきっかけだったという。「夏休みともなれば、建築現場でコンクリートを練ってバケツで運んだり、河川の護岸工事でブロックを並べる手伝いをしたり。そりゃきつかったですけど、嫌ではなかったですね。その時、自分は図面を描くより、こうやって現場で〝つくる〞のが好きだし向いているんだな、と実感できたんですよ」

大学卒業後、就職先に五洋建設を選んだのにも、明確な理由があった。「何よりも海に強いマリンコントラクターであること。海外で多く土木工事を手がけている点も魅力でした。逆に建築に関しては後発ですが、それだけにこれから伸ばしていけるチャンスがあるのではないか、力を発揮できるチャンスが多そうだ、と感じました」

入社は85年。すぐに国内の工場やマンションなどの建設現場に入った後、「結婚1年目だった」89年に、香港に転勤となる。91年に東京に戻るが、96年にはシンガポールに赴任し、以来18年間、一貫して高度成長の最中にあった同国の建設現場で、施工管理に携わることになる。

〝多国籍軍〞を人と人とのつながりで動かす

シンガポールと五洋建設の関係は64年に始まる。その結びつきは、想像以上に強い。例えば同国国土の約24%は埋め立てによるものだが、その4割、結果的に現在の国土面積のおよそ1割は、同社の工事によって生み出されたことになるのだという。

もちろん、同社が手がけているのは土木工事だけではない。赴任した山下氏も、まずシンガポールポストセンター(中央郵便局)、次に同国南西部ジュロン島での、日本企業の化学プラント建設現場を担当した。
「ここはずっと当社が埋め立てをしてきた場所で、当時も建設予定地の半分近くは海でした。埋め立てが済んだところから杭打ちを行い、基礎工事に入る。そんな現場に、毎日40分くらい船に乗って通いました」

その工事の竣工後は、営業所で入札などに携わっていたが、2003年、同社が日本の建築家・伊東豊雄氏の設計による巨大商業施設「VivoCity」を受注したことから、工事所長として再び現場に立つことになった。
「シンガポール本島南端のハーバーフロント地区再開発の拠点となる建物で、ショッピングモールだけでなく、シネマコンプレックスやレストランなどが併設されていました。受注したのはいいけれど、33カ月という工期で完成させなければならないという条件が、正直プレッシャーでしたね」
結果的には、実績ある土木との連携も奏功して、予定より早く完成にこぎつけることができた。

そんな山下氏を次に待ち受けていたのは、「これまでの現場で最もきつかった」と振り返る、「IONオーチャード・ザ オーチャードレジデンス」のプロジェクト。シンガポール最大の繁華街オーチャード・ロードに、地上56階、地下4階、高さが218mとなる住居及び商業施設を建設する大型再開発事業である。06年7月に着工し、09年7月にオープンさせる、というスケジュールが目標であった。「きつかった」のは、工期だけではない。
「現場の地下には、毎日10万人以上が利用する地下鉄の駅がありました。そこに今まで我々が手がけたことのない、巨大な建物をつくるわけです。頭をよぎったのは、事故でも起こしたらとんでもないことになる、という不安。いつにも増して安全を最優先にしなければ、と気持ちを引き締めました」

そうはいっても、工事が始まれば「毎日何かが起こる」。24時間体制の現場だけに「夜中に電話がかかってきて、ドキリとして飛び起きるような生活」が3年間続いたそうだ。

難関の地下工事には、日本から「地下のスペシャリスト」を呼んだうえで、いわゆる「逆打ち工法」を採用し、地上と同時に工程を進めた。そうした施工方法の工夫も実り、安全、品質、工期のすべてを完璧に満たすことが要求されたプロジェクトは、目立ったトラブルもなく完了した。「終わった時には、今までにない達成感を覚えました」という言葉に、実感がこもる。

ところで、日本とシンガポール、建設工事において、施工管理上の違いはあるのだろうか。
「最も大きな差異は、職人さんのスキルですね。日本の職人さんは非常に高い技術を持っています。対してこちらの職人さんは、インド、バングラデシュ、タイ、中国などからの出稼ぎで、建設現場で働くのも初めての人ばかり。一から仕事を覚えてもらうのですから、生産性は極めて低い。加えて、言葉の問題があります。『公用語』は一応英語なのですが、理解できない人もいるから、それぞれの国の監督さんに訳してもらう。安全に関する指示にしても、みんなの前で話して終わりというわけにはいきませんでしたから、それは大変でした」

そんな多国籍の現場を仕切るうち、気づいたことがあるという。
「例えば〝会社対会社〞で話していても、末端の人たちは、なかなかついてきてくれないのです。人を動かすためには、あくまでもその人とのつながりを大事にし、信頼関係を築く必要がある。これは、シンガポールに来たからこそ学べたことだと思っています」

山下氏には、長尾剛氏、伊原成章氏という〝両腕〞がいる。例えば「VivoCity」の工事では、山下氏の下、長尾氏が工務担当を、伊原氏が現場管理を務めた。

二人に〝シンガポールでの仕事〞について聞くと、長尾氏は「この国の誰もが知っている建物にかかわることができるのは大きな喜びで、とてもやりがいを感じますね」と話す。一方の伊原氏は「同時に、山下所長が言ったように、文化も常識も違う様々な国の人たちの集団をマネジメントするのは難しい。個人的には、まだまだ勉強していかないと」と感想を語ってくれた。そんな二人の〝山下評〞は、「親分肌で、シンガポールの日本人社会で知らぬ人がいないくらい社交的。とにかく人を動かすのがうまい。みんながついていくのは、人間的な魅力があるからでしょうね」というトーンで一致する。

海外に出たからこそわかる、日本の長所と短所

入社以来、海外勤務は通算20年と、国内の倍を超えた。「海外の工事が多い」ことが入社動機の一つだったとはいえ、「英語に対する苦手意識もあって、最初に行けといわれた時には戸惑いも大きかった」と山下氏は言う。
「ただ、特に18年腰を落ち着けたシンガポールでの日々を振り返ってみると、来てよかったとつくづく思います」

いくつものシンボリックな建造物にかかわれたこと以外に、「外に出たからこそ、日本の長所も足りない点もよく見えた」ことをその理由に挙げる。
「日本人の責任感の強さ、それにも裏打ちされた技術力の高さ。これは間違いなくどこにも引けをとらないと思います。半面、ここに集まってくる世界中の人たちの中には、日本人にないマネジメント能力や、決断の速さを持った人間がゴマンといて、悔しい思いもする。この感覚は、たぶん日本にいるだけではわからないでしょうね」

自らの経験も踏まえ、若い世代には、「建設業界に限らず、とにかく〝小さな島〞に閉じこもることなく、海外に出てほしい。そこでいろんな国の人たちと接し、仕事をすることによって、人間としてもビジネスパースンとしても間違いなく成長できるはずです」とエールを送る。
「今後の課題は、次世代を担う人材の育成。いつまでも旗振り役ではなく、若手にどんどんチャンスを与えたいと思っています。個人的には、これからも海外で仕事をしたい。シンガポール以外の国々にも、『五洋は、こんなに素晴らしい建物をつくるんだ』ということを広めていけたらいいですね」

PROFILE

山下 一志

1962年、鹿児島県生まれ。

85年、鹿児島大学工学部建築学科卒業後、五洋建設株式会社に入社。

2013年4月、シンガポール営業所長に就任。

一級建築士、一級建築施工管理技術士。

長尾 剛

1964年、愛媛県生まれ。

86年、芝浦工業大学工学部建築工学科卒業後、五洋建設株式会社に入社。

2013年4月、シンガポール営業所副所長に就任。

一級建築士、一級建築施工管理技術士。

伊原 成章

1963年、千葉県生まれ。

日本大学理工学部建築学科卒業後、中堅ゼネコン構造設計部を経て、

91年、五洋建設株式会社入社。

現在はシンガポール営業所国立大学病院建築工事事務所で所長。

一級建築士。

人気のある記事

アーキテクツマガジンは、建築設計業界で働くみなさまの
キャリアアップをサポートするアーキテクト・エージェンシーが運営しています。

  • アーキテクトエージェンシー

ページトップへ