決まったルールを鵜呑みにせず、規範の〝閾値(いきち) 〟を探り、攻め続ける。
津川恵理
身体表現への興味から建築の道へ。
建物の設計に留まらず、公共空間やアートまで横断し、〝規範”の境界線を探る建築家・津川恵理。彼女が見つめる「身体の公共化」と、社会を自由にする建築の可能性とは。
ネガティブな状況は〝面白い物語〟だと捉える
─そういった規範やルールの閾値を探るのは周囲との摩擦を生むのでとても大変なことだと思いますが、津川さんは建築家として仕事を続けていくうえでどういった意識が大事だと思いますか?
津川:ネガティブな状況になった時に、それを面白がれること。建築の仕事は、クライアントに呼び出されたり、予算が合わなかったり、行政に拒否されたり、そんなことが日常茶飯事です(笑)。でも、そこでいちいちへこたれていては、建築なんてできません。何か問題が起きた時に、「これで一つまた面白い物語ができた」と前を向けるようなマインドを持つのが重要だと思っています。
─では最後に、津川さんご自身の今後の展望をお聞かせください。
津川:一言で言うなら、「国際的になりたい」ですね。この6年間、日本で活動する中で、どうしても活動が日本という文脈に閉じていくのを感じています。私は日本人である以上、そのバックグラウンドは大事にしたいですが、クリエイティブな人生を送る上で、もっと色々な感性や価値観に触れたい。人と触れて初めて価値観が変わったり、世界が広がったりするので、その母数を増やしたいんです。
─それが「国際的になりたい」ということですね。
津川:世界で一番多民族な都市であるニューヨークに行って面白かったのは、バックボーンを共有していない人と触れ合う時に、当たり前だと無意識に思っていた自分の価値観が覆されて、世界観が広がる体験を何度もしたことです。これから建築をやり続ける上で、そうやって人間としての幅を広げ続けていきたいという思いがありますね。
─自分のルールと言うか価値観を覆されることは、人によっては恐ろしいことだと思いますが、津川さんはそれを楽しみたいと。
津川:そうですね、自分自身を常に新しい環境で「ストラグル」させたいのかもしれません。
具体的に、海外で何かプロジェクトをやるのか、レクチャーをするのか、あるいは本の出版するのか、どういう形になるのかはわかりませんが、これからもチャレンジを続けていこうと思います。


❼PARK IN PROGRESS。金沢21世紀美術館で開催されたALTEMYによる企画展。開館21年目を迎える美術館において、マジョリティの体験ではなく個々の来館者に着目し、SANAAが設計した空間にささやかな建築的仕掛けを配置。(写真Ⓒ大町晃平)
❽都市実験 vol.003。神戸の商店街で約130個の風船を用いた都市実験。エージェントシミュレーションにより人流を分析し、設計者の恣意性を排除した自動生成によるパブリックスペース計画。❾庭と織物—The Shades of Shadows。京都の坪庭を12 ヶ月間3Dスキャンしたデータを西陣織に翻訳した展示プロジェクト。(写真ⓒKotaro Tanaka)
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ネガティブな状況が起きても、「面白い物語ができた」と笑えるマインドを持つ。
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Eri Tsugawa ALTEMY代表。兵庫県神戸生まれ。
京都工芸繊維大学卒業。
早稲田大学創造理工学術院修了。
2015~2018年組織設計事務所に勤務。
2018~2019年Diller Scofidio + Renfro (NY)に
文化庁新進芸術家海外研修生として勤務。
2019年ALTEMY設立。
東京藝術大学教育研究助手を経て、
現在、東京理科大学、法政大学、
東京電機大学院、日本女子大学にて非常勤講師。