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建築設計界、ボーダーレスの時代へ、JIAは世界への扉をノックし続ける

建築設計界、ボーダーレスの時代へ、JIAは世界への扉をノックし続ける

公益社団法人 日本建築家協会 専務理事 筒井信也

日本建築家協会(JIA)は、一級建築士の資格を取得後5年以上設計の実務に携わった約3800名の正会員等で構成されている。他の建築関連団体同様、様々な委員会を設けて活動を行っているが、あえて当協会の特徴を挙げれば、「建築家としての高い職能と倫理の堅持」「設計・施工の分離を基本とする中立性の維持」を理念として掲げているところにあるだろう。

建築設計を巡る重要な課題の一つは、ボーダーレス化の急速な進展への対応だと考える。これは、いわゆる国境がなくなるというグローバル化だけでなく、他の建設関連業種、さらにこれまで関係の薄かった産業・職業との様々な境界が崩壊する“多面的なボーダーレス化”として認識する必要がある。

今回はまず、この点について述べていきたい。東京オリンピック後、国内の建築市場は厳しい状況になると予想され、建築設計界にも海外市場への進出が不可欠との認識は強い。建設コンサルタント大手では、海外の有力建築設計事務所を買収する動きも見られるが、建築設計界では、大手事務所や一部の著名建築家を除いて、ダイナミックな動きがとりにくいのが現実だ。

製造業の現地生産のように「技術と資金があれば」とはいかない建築設計の難しさもある。欧州を地盤とする「ヨーロッパ建築家評議会(ACE)」のメンバーがJIAを訪れた際、「統合が進む域内でも、フランスの建築家がドイツで建物を設計するのはやはり大変なことなのだ」という説明があった。

国や地域ごとに根強い伝統文化が息づく。法制度や設計者の資格の問題に加えて、海外での契約に不慣れなためのリスク発生への対策も難しい。細かく正確な情報の把握が何よりも大事だと考えている。

グローバル化は個々の設計者の活動が国境を越える話だけではない。建築設計に関する技術や制度、さらに建築生産の仕組み自体がボーダーレス化する動きにも注意しておくべきだ。例えば海外で先行しているBIMのシステム、米国流のCM方式がスタンダードになり、設計のやり方自体を変えていく可能性である。遅れをとっては、将来の海外進出はますますおぼつかなくなる。

JIAは、情報の収集・提供のための海外ネットワークの拡大を図ってきた。126カ国の団体が参加する「国際建築家連合(UIA)」やアジアの21カ国の団体による「アジア建築家評議会(ARCASIA)」に加盟、また米国、韓国、タイの建築家団体と協定を結び、緊密な関係を築いている。

JIAは今後も、こうしたネットワークをもとに、設計者の海外進出に役立つ具体的なノウハウ、海外における設計者の仕事の変化、建築生産に関する最新の動きなども含め、建築関連団体や行政と連携して情報提供することにも力を入れていきたいと思っている。

昨年9月にJIAは、上述したアジア建築家評議会の大会を東京で開催した。アジア諸国からの参加者は若く、希望に溢れていた。成長を目指す、アジアの熱気がひしひしと伝わってきた。技術の向上も目覚しく、建築に関する仕組みづくりも柔軟だ。魅力的な市場である一方、脅威も感じる。彼らと切磋琢磨していく日本の設計者が一人でも増えていくことを望む。

PROFILE

Nobuya Tsutsui

Nobuya Tsutsui
筒井信也

1977年、京都大学法学部卒業後、株式会社日本興業銀行入行。
86年、日経マグロウヒル株式会社(現日経BP)入社、記者・編集業務を担当。
92年、企業コンサルタント業務を主とする株式会社都市トータルデザインを設立し、
代表取締役に就任。2010年より現職。

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