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【第15回】視線をあくまでもグローバルに保ち、 スキルを磨き、仕事のあるところへ

【第15回】視線をあくまでもグローバルに保ち、 スキルを磨き、仕事のあるところへ

明治大学理工学部建築学科 教授 小林正美

明治大学の私の研究室(「都市建築デザイン研究室」)は、建築設計やデザイン論をベースにした都市デザイン、環境デザインなどの方法論をテーマにしている。従来、建築家は、ある限られた様々なスペースにどのような建物をつくるのかに腐心してきた。その結果できたのが、ともすれば“まち”としての整然とした美しさを欠いた風景である。そうではなくて、建築家が与えられた敷地の外に出て、まちをコーディネートできる能力を身に着ける必要がある、そうした仕事のできる環境を整えなければいけない――。そんな問題意識が、根底にはある。

“仕事のできる環境”には、当然のことながらその取り組みに対して適切な報酬が支払われる、という合意が含まれなければならない。しかし、建築家の報酬として法が定めるのは、あくまでも“敷地の中”の仕事に限られているのが現状だ。これでは、いくら「美しいまちなみの創造」を謳っても、絵に描いた餅ではないのか。

まちづくりのアドバイザー、デザイナーらにも、きちんと報酬が出せる仕組みづくりを考えるべきだ、と私は日本建築家協会(JIA)の意を同じくする人たちなどとともに、ことあるごとに問題提起してきた。そんな“運動”の成果かどうかはわからないが、2005年には良好な景観の形成を目的とした景観法が全面施行された。日本建築士会連合会が、建築士の専門技術領域を認定する専攻建築士制度には、「まちづくり」が専攻領域の一つに定められもした。困難は多いけれど、いろいろ仕かけてきたことを時代が追いかけてきている、という手応えは実感するのだ。

 さて、そんな“仕かけ”の一つに、前回も触れたデジタルデザインワークショップ(DDW)がある。14年に立ち上げたそれは、ひとことで言えば「若者が、世界に通用するデジタルデザインを学ぶ教育プログラム」で、私が総合ディレクターを務めている。ライノセラス、MAYA、プロジェクトマッピングといったコースを設け、その道の専門家に講師をお願いしているのだが、現状、期待したほどには学生が集まっていない。だが、悲観もしていない。先進的なソフトを使いこなす技術力、デザイン力は、やはりこれからの時代の要請になるはずだ、という確信があるからにほかならない。建築だけでなく、アート系の学生も取り込むべく、プログラムの充実を図っているところだ。

国内市場がシュリンクに向かい、“建築業界”を巡る環境は厳しさを増す。「建築設計しかできません」というスタンスでは、生き残っていくのが難しいかもしれない。これからこのフィールドで食べていこうとしたら、デジタル技術に強いとか、まちづくりのスペシャリストになるだとか、今までとは違うスキルを身に着けることが大事になる。

同時に、建築家は無からスタートして企画を立て、ダイヤグラムを作成し、人を説得して最後は建物にする。実はこれは「建築家ならでは」の、かつ「どこでも通用する」スキルであることも、若い人たちには忘れないでほしいのだ。「君たちは、抽象的な概念を形につくる“翻訳家”だ」という話を、私はよく学生相手にする。中途半端な企画ばかりやろうとせず、最後まで面倒をみて必ず“もの”という結果を残すことに全力を傾倒してもらいたい。

そして、視線はあくまでもグローバルに。「どこでも通用する」と言ったが、十分な収入が得られるのがアジアであるならば、そこに展開すればいい。「若者はスキルを武器に、仕事のあるところへ」。これを締めくくりのメッセージとしたい。

PROFILE

小林正美
Masami Kobayashi

1977年、東京大学工学部建築学科卒業。79年、同大学院修士課程修了後、丹下健三・都市建築設計研究所勤務。
88年、ハーバード大学大学院デザイン学部修士課程修了。89年、東京大学大学院博士課程修了。
2002年、ハーバード大学客員教授。現在、アルキメディア設計研究所主宰。明治大学教授(工学博士)。
『InterventionsⅡ』(鹿島出版社)など、共著・単著多数。

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