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Architect's magazine

「その場所に、どんな建物や空間を構えれば人々が幸せになれるか」。機能や造形ばかりにとらわれず、人の舞台をつくることが建築家の重要な役割だと思う

「その場所に、どんな建物や空間を構えれば人々が幸せになれるか」。機能や造形ばかりにとらわれず、人の舞台をつくることが建築家の重要な役割だと思う

古谷誠章

母校である早稲田大学で長く建築学の研究・教育に携わり、またプレーヤーとしても数々の受賞作を生み出してきた古谷誠章は、まさに正道を行くプロフェッサー・アーキテクト。学生たちと一体となり、建築単体のデザインのほか、まちづくりや地域再生といった実社会との連携事業も手がけ、多岐にわたってその手腕を発揮している。代表作として挙げられる「アンパンマンミュージアム」「神流町中里合同庁舎」「茅野市民館」などに共通しているのは、古谷のこだわりでもある融通無なつくり。人がその時々によって自由に使い分け、楽しむことができる建物、空間づくりは、これからの建築の有り様を一つ示唆するものだ。「建築は人の舞台をつくる仕事だから」という古谷の言葉は、とても印象的である。

枠を超えた活動で、未来の建築像を探究し続ける

古谷研究室では、日頃の研究テーマに基づく新しい建築への取り組みが盛んに行われている。そして、ジャンルを超えた様々な設計プロポーザルにどんどん応募する。古谷は自他共に認める〝コンペ好き〞だそうで、それは「自由な提案ができるし、落選しても案は決して無駄にならない。次へのブラッシュアップにつながるから」。

例えば、学校建築研究でいえば、全学年の生徒が交じり合うように生活できる「高崎私立桜山小学校」とか、熊本県の地元杉材だけを使った「山鹿市立鹿北小学校」に、その成果が表れています。後者は、一般的な住宅用の柱や梁などを使って小学校をつくるという研究で、東大と共に10年ほど続けてきました。あちこちのプロポーザルに出し、やっとかたちになったものです。

また、医療空間ゼミというのもあるんですよ。病院は病気を治す修理工場ではなく、そこにいる人たちにとって「住まいであるべきだ」という考えから、医療空間の有り様を研究する。企業とタイアップしてやっていますけど、ごく最近、北海道で竣工したのが「沼田町暮らしの安心センター あるくらす」です。診療所、デイケア、暮らしの保健室やカフェなどが複合する施設。これも研究の成果としてプロポーザルに応募し、実現に至ったものです。

ほとんどがコンペなので、うちは宝くじだけで生きているような感じなんだけど(笑)、それはやっぱり大学にいるからできること。この面白さは、僕が学生だった頃に得た感覚と変わっていないし、何より、今の学生にとっても〝生きた教材〞になるはずです。設計はさすがにプロの責任を伴いますから、実施設計や契約は事務所でという流れになりますが、こういう協働作業をもっと融合させ、デザインもクオリティもさらに水準を上げていくことが、目下の関心事でもあります。

17年6月、古谷は第55代日本建築学会会長に就任。多忙な日々に、また一つ大きな役割が加わった。歴代会長が進めてきたテーマを継承しつつ、新たな指針を打ち出して意欲的な取り組みを見せているが、キーワードになるのは〝融合〞や〝協働〞。そこには、やはり古谷らしい姿勢がある。

大きく2つありまして、一つは、建築のなかにある様々な分野の交流を促すこと。日本建築学会は3万5000人を擁する大きな組織ということもあり、例えば研究発表会は、デザイン、構造、設備などセクションごとに行われているのが現状です。実際の建築場面とは違って、一緒に何かをするということが少ない。もっと日常的に建築家とエンジニアが交流し、協働するような場をつくっていきたいのです。

もう一つは、建築に関連する様々な団体のこと。建築家協会、建築士会連合会など関連5団体の会長会議はあるのですが、もっと枠を超えて連携を高めていきましょうと。建築界が一丸にならないと、災害とかエネルギー問題とか、国や社会に対する確かな提言ができません。建築学会は学術団体ですから、会長には学者が就くのが常で、現役の建築家が会長になるってそう多くないんですよ。大学にいる建築家ということで僕に巡ってきた役割だと捉え、「だからこそできる」ことに取り組んでいきたいと思っています。

〝協働〞のカギを握るのは、コミュニケーションです。学生にもよく言っているんですけど、これがすごく大事。コミュニケーションって、とかく自分が発表したり話したりする力、プレゼンのテクニックみたいに捉えられがちですが、本来はそうではありません。相手が何を思っているかを想像する力。話すというより、相手が言っていることを聞き取り、表面的にではなく、その奥にあるものを読み取る力です。

日本だけをとっても、各地に息づく風土があるし、方言だって食べ物だって違うわけでしょう。世界に広げれば、これからは一層ダイバーシティが重要になってきます。建築家の仕事って、建築の機能以前のものというか、人の舞台をつくることだと思う。「その場所に、どんな建物や空間を構えれば人々が幸せになれるか」を考えること。考えたうえで、そこに「自分にしかできないこと」が集まれば、協働の価値は素晴らしいものになります。そんな感覚を、ポジティブに楽しんでいけるような建築家が増えるといいな……と願っているんですよ。

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PROFILE

古谷誠章

古谷誠章

1955年2月20日 静岡県富士市生まれ(東京・世田谷育ち)

1978年3月 早稲田大学理工学部建築学科卒業

1980年3月 早稲田大学大学院博士前期課程修了

4月 早稲田大学大学院穂積研究室助手

1983年4月 早稲田大学理工学部建築学科助手

1986年4月 近畿大学工学部講師

9月 文化庁芸術家在外研修員としてマリオ・ボッタ事務所に在籍

1990年4月 近畿大学工学部助教授

1994年4月 早稲田大学理工学部建築学科助教授

9月 八木佐千子と共同でナスカ一級建築士事務所を設立

1997年4月 早稲田大学理工学部建築学科教授

2017年6月 日本建築学会会長

家族構成=妻、息子1人、娘1人

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