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人がより能動的に動けば、 新たな価値に出合える。 社会、空間、組織に イノベーションを起こす “越境デザイン”チーム

人がより能動的に動けば、 新たな価値に出合える。 社会、空間、組織に イノベーションを起こす “越境デザイン”チーム

NAD (Nikken Activity Design Lab)

 2013年10月、日建設計の一部署として「NAD(Nikken Activity Design Lab)」が誕生。「クライアントの依頼をかたちにする」という従来の建築設計とは異なり、「何をつくるべきか」をユーザーとともに考え、ともにつくるのがNADの使命。チームには建築士のほか、リサーチャーやエンジニアが在籍し、オフィスを主としながら公共空間、ツールなど、ハードのみならずソフトもデザインする。そんな彼らを、人は「越境するデザイン集団」と呼ぶ。

ポストコロナ時代のビジョンを提示する

 NADを構成するメンバーもまた越境的だ。約半数は建築士であるが、当然それだけでは足りない。プロダクトデザイナー、コミュニティデザイナー、リサーチャーなど様々な領域のプロフェッショナル13名を抱えつつ、外部のスペシャリストとも協働する。

「今や建築業界の技術は時代の最先端とはいえません。だからこそ、新しい問題は建築の人間だけで考え<
るわけにはいかない。多様なジャンルから人材を集めて、視点そのものを多様化する必要があると考えています。そのうえで我々が発揮するべきは、それら多様な視点を抱え込みながら、プロジェクトが必要とするチームそのものをデザインし、ディレクションする力といえます。僕らはよくインタビューやワークショップなどのインプットの際に『本質的な問いを探しましょう』とメンバーやクライアントに投げかけます。自分たちが向き合っているプロジェクトや社会課題の本質をしっかり捉えなくては、我々がクリエイトすべき価値も見いだせないですから」

NEWPEACE オフィス
(東京都品川区/2022年)

自分の価値観そのものを仕事につなげるZ世代の若者が集まる企業のオフィス。多様な価値観を持ったメンバーが思い思いに活動できる「自由な公園」をコンセプトとした。間仕切りをなくし、空間全体がゆるやかにつながる 撮影/鈴木 悠生

日建設計における従来の業務とNADの違いについて、勝矢氏は「ユーザーにものすごく近いこと」という点をを挙げる。

「例えば、開発に10年、20年とかかる大規模プロジェクトは、ユーザーの顔が見えないことが多く、自分がつくったものがどう使われるか、ユーザーに本当に役に立っているのか、なかなか実感が持ちづらいことがあります。でもNADは、ユーザーとともに考え、ともにつくり、ユーザーが利用する瞬間にも居合わせることができる。それはこの仕事の大きな魅力です」

反面〝答えのないプロジェクト〞に向き合い続ける困難さがNADにはついてまわる。だがNADメンバーを奮い立たせる熱源も、そこにある。

「これまで我々は、〝ユーザーの体験〞を中心に考えてきましたが、新型コロナ以降、社会の行く末がますます見えづらくなった今、さらに一歩先のビジョンを提案することが重要だと思っています。ユーザーの観察やワークショップなどを重視する姿勢は変わりませんが、社会潮流を押さえた定量的・定性的なスタディを加えて、次代の空間モデルやビジネスモデルを提案する方向にシフトしてきています。例えば、自宅で働き、逆にオフィスでくつろぐようになるかもしれない。そうなった時には、既存のオフィスの常識は180度変わるでしょう。でもそんなビジョンを示すだけなら、そう難しくはないと思います。肝心なのはビジョンとリアルをつなげること。要はきちんと実装できて、人に使ってもらえるものを考えること。そこに一番の難しさと面白さがあります」

横浜市主催、日建設計シビル(現在は日建設計)、カナコン、オンデザインパートナーズJVの実施・運営による「みなと大通り及び横浜文化体育館周辺道路の再整備」に向けた社会実験。大通りの車道に交通規制をかけ、目的が異なる7つの休憩施設「みなぶんでっき」を設置し「道路のあたらしい使い方」を市民に問いかけた。NADはコンセプトデザインと家具デザインを担当 撮影/加藤 甫

ワークプレイスのデザインで培ったノウハウを、公共空間など他ジャンルのデザインに横展開する動きは今後も加速するだろう。21年には、新型コロナ下において自宅でも〝自分らしい〞働く場をつくるためのツール、卓上パーティション「SASAU(支ふ)」をリリース。プロダクトデザインの世界に足を踏み入れている。

「自分たちがやれることは、まだまだいくらでもあると思っています。教育施設や福祉施設、あるいはスポーツ、エンターテインメントといった領域でも何かできないか模索していて、いろいろなプロジェクトが始まっています。同時に、オフィスでも公共空間でも、次の時代の価値を実現する新しい姿を提案できたらと思っています」

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PROFILE

勝矢武之

勝矢武之
Takeyuki Katsuya

日建設計 設計部門 ダイレクター アーキテクト
兼新領域開拓部門 新領域ラボグループ
NAD(Nikken Activity Design Lab)ダイレクター

京都大学大学院工学研究科建築学専攻修了後、2000年に日建設計入社。
16年、FCバルセロナのホームスタジアム「カンプ・ノウ」改修国際
コンペに当選。以降、19年竣工の渋谷駅の再開発「渋谷スクランブル
スクエア東棟(第Ⅰ期)」と同展望施設「渋谷スカイ」、「有明体操競技
場」を担当。20年より設計部門ダイレクターに加えて、NADのダイレクターを兼任。

株式会社日建設計

創業/1900年6月1日
代表者/代表取締役社長 大松 敦
所在地/東京都千代田区飯田橋2-18-3
https://www.nikken.jp/

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