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建築にかかわる事業者は当然、発注者にも大きな実利をもたらす新たな建築設計ツール「BIM」。その普及と進化に注力し続ける

建築にかかわる事業者は当然、発注者にも大きな実利をもたらす新たな建築設計ツール「BIM」。その普及と進化に注力し続ける

前田建設工業株式会社

建築設計の現場に、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)が徐々に浸透しつつある。その新たな3次元モデルを駆使すれば、ともすれば不整合が発生することのある設計と施工の情報交換はスムーズに行えプロジェクト全体の推進もスムーズになる。ただし、“過渡期”である現在は、課題も多い。前田建設工業建築事業本部企画・開発設計部のBIM設計グルーブ長・綱川隆司氏らが標榜するのは、単に図面を3次元化するのではなく、あくまでも「それ自体が設計図書となるBIM」である。

他社が尻込みする困難なプロジェクトも果敢に対応

今年3月、福島県・大熊町に東京電力・福島給食センターが開所した。福島第一原子力発電所から約9km。そこで懸命に廃炉作業などに取り組む作業員向けに、1日3000食の温かい食事を供するのが目的だ。BIMを武器に、この施設の設計・施工を担ったのが、同社である。

ただし、“容易な案件”ではなかった。綱川氏は言う。「給食センターというのは、建物内部が細かなパズルのように区切られているうえに、厳しい衛生管理が求められます。加えて、震災時に給水・排水のインフラもダメージを受けているなどの特殊事情にも注意を払わなければなりませんでした。設計から完成まで約1年半でしたが、ゼロベースからの設計であれば通常は倍の期間が欲しいところでしょう。従来の2次元CADなどで設計していたら、とても越えられないハードルだったと思います」

綱川氏率いる意匠設計に、構造、設備の設計者を加えた総勢約30名からなるチーム

しかし、綱川氏率いる意匠設計に、構造、設備の設計者を加えた総勢約30名からなるチームは、本格的な作業を開始してからおよそ2カ月半という短期間で、地元保健所の了解を取り付け、建築確認申請に至る。その過程では、保健所の指摘を受けて、食材の動線などに関する大幅な設計変更が発生したものの、2日後にはそれを反映した図面を作成して提示する、などといった“芸当”も何度か披露したそうだ。

設計側の意図がストレートに伝わるBIMは、施工段階でもその効果をいかんなく発揮、建物は指定の工期どおりに竣工した。

発注者にとって「わかりやすく早い」メリット

発注者にとって「わかりやすく早い」メリット

BIMをひとことで言えば、「コンピュータ上に作成した3次元の形状情報に加え、室などの名称・面積、材料・部材の仕様・性能、仕上げなど、建築物の属性情報を併せ持つ建物情報モデルを構築する設計手法」である。

「実際の建物は3次元なのに図面は2次元ということもあって、設計と施工側でイメージが100%共有できず、建物の生産工程に悪影響を及ぼすことがあります。3次元で、建物内部の状態が一目瞭然のBIMなら、情報はスピーディーかつ正確に伝達される。そんな特徴を生かしつつ、施工現場でどう具体的に活用していくかが、今現在の最大のテーマとなっているのです」

同時に、「最近は、発注者の関心も、徐々にではありますが、高まってきているんですよ」と綱川氏は言う。「福島給食センターに関しては、発注者の方も『どんな建物になるのか手に取るようにわかり、関係者への説明にも大いに役立った』とおっしゃっていました。そういうふうに、外観だけでなく内部の“見える化”を実現し、さらには、その結果としてスムーズなブロジェクト推進ができるBIMの採用は、ユーザーにとっても大きなメリットがあるのです」

「逆に言うと」と前置きし、綱川氏は続ける

「逆に言うと」と前置きし、綱川氏は続ける。「BIMをやってきて、今まで設計者が発注者に対して、いかにうまく説明できていなかったのかを痛感したんですよ。実際問題、建物ができてから『こんなはずでは……』と不満を抱く発注者は、ゼロではありません。2次元の図面と模型だけでは実感できない部分も、多くあるわけです。BIMで見せることができれば、そうした齟齬は解消できます」

ユーザーにとっての利点は、それだけではない。BIMにインプットされた部材などに関する属性情報が、建物のメンテナンスにも役立つのだ。「例えば、交換が必要な部材の仕様などの情報が、即座に取り出せるわけです。将来的には、それぞれの購入時の単価とか、故障した装置の修理はどこに頼めばいいのか――といった、より詳細で有用な情報が紐付けられていくでしょう。そうやって“I”すなわち情報の部分の価値を高めていけるのも、BIMの強みだと思いますね」

スタンスにより違いがあるBIMの定義

スタンスにより違いがあるBIMの定義

「小さな頃から画を描くのが得意だった」綱川氏が、早大理工学部を卒業後、同社に入ったのは1993年のことだ。「『大き過ぎないウチにきたら、希望次第ではいろんなことができる』という先輩リクルーターの言葉を鵜呑みにしたのが、当社を選んだ理由です」と笑うが、結果的に「自分のやれる仕事の範囲が限定されない規模感」は、水に合った。

BIMにかかわるようになったきっかけは、2001年に「製造業が3次元でものづくりをしているのに、建設業がいまだに2次元CADの世界に留まっているのはおかしい。3次元の設計にチャレンジせよ」という方針が、トップダウンで示されたことだった。当時からCADを使って3次元の図面を起こしたりもしていた綱川氏が、本格的な「3次元設計」導入を目指すチームに抜擢されたのだ。

「最初は、4人のワーキング活動からスタートしました。でも“社命”ですからね。高価なハードやソフトも必要ですが、いろいろやらせてもらいました(笑)。日本でBIMという用語が使われ出したのが、05年くらいだったでしょうか。その時には、『ああ、自分たちのやっているのはBIMだったんだ』と感じるレベルにはなっていましたね。チームの人員も、10年後には50名くらいまで膨らんだんですよ」

当時は意匠も構造も設備も、“3次元”の切り口でともに技術力を磨いたその後、構造、設備に関しては、それぞれの部門に合流し、現在のBIM設計グルーブは意匠設計主体の組織になっている。こうして、同社の設計の各部門には、BIMを活用した設計技術が着実に根付く。

現在のBIM設計グループは意匠設計主体の組織になっている

そんな「前田のBIM」を鍛え、同時にその実力を知らしめる役割を果たしたのが、BIMの仮想コンベ「BuildLive」(主催:IAI日本)である。09年から実施されているこのコンベでは、課題の建物を48時間で設計することが求められた(現在では48〜96時間で選択できる)。同社は、意匠、構造、設備の設計者に外部企業も加えたチームで毎回これに挑み、第1回と14年に最優秀賞を獲得した。

「参加して自分たちでも驚いたのは、48時間あれば、我々にはこれだけのことができるんだ、ということでしたね01年からの積み重ねは、無駄ではなかった。福島の給食センターのような案件に自信を持って臨めたのも、そういう蓄積と経験があったからです」

業界内で、BIMに対する関心は高まる。だが綱川氏は、「同じBIMでも当社ほど本質的な運用ができていない」と言って憚らない。

「現在のBIMのほとんどは、まず図面があって、それを見ながら3次元に立ち上げているのが実情です。でも、そういう“後追いのBIM”では、設計効率化は望めないし、建物内部の精密な再現という点でも、限界がある。我々はまったく逆で、先に3次元モデルを作成して、2次元の図面は、あくまでもその成果物です。いわばBIMは設計図書そのもので、そこが他社との違い。でもそうやってこそ、設計者と施工者、さらには発注者の間の情報の完全な一元化も可能になります。それがBIMの真髄だ、と我々は考えているんですよ」

求められるゼネラリストの人材育成

求められるゼネラリストの人材育成

BIMのフロントランナーである綱川氏に、最後にその未来について語ってもらった。「我々も含めて、BIMはまだ一つの設計ツールの域を出てはいません。設計者の思考過程やプロセスを全てICTに置き換えることで、ユーザーのニーズに見合ったものをより早くアウトプットするという、BIMの本当のメリットを享受できるようになるまでには、まだ少し時間がかかるでしょう。でも、そういう将来は必ず来ます。何よりも、発注者がその可能性に気付き始めていることが大きい」

物議を醸した新国立競技場の一件もBIMの普及を後押しする、とみる。「業界的には、『設計、施工分離』の契約が見直される動きが広がっています。契約してから建設費が上昇して批判を受けた“新国立”のゴタゴタがそうした動きに拍車をかけるのは、間違いないでしょう。今後は、実施設計段階から施工者を特定するECI(アーリー・コントラクター・インボルブメント)方式や、設計、施工がシームレスにつながるデザインビルド方式の受発注が広がっていくでしょう。実はこうした発注形態は、BIMと親和性がいい。前者は、実施設計の初期段階から、施工者がBIMを使って参画することで、従来に比べてスムーズな事業の推進が期待できます。BIMの本来の可能性を生かせるという点では、後者は理想のかたちともいえます」

一番問題を感じるのは、大学教育の遅れです

ただ、やはり課題も少なくない。「一番問題を感じるのは、大学教育の遅れです。時代に即してITのリテラシーを上げなくてはいけないのに、そもそも教える側に、BIMを理解している人がほとんどいません。昔ながらの手書きや模型づくりは不要などと言うつもりはありませんが、これからは、両方できる必要があると思うのです。そうでなければ、海外との競争に後れをとるのが目に見えています」

加えて、「IT化が進むほど、“プロ化”の弊害も心配される」と指摘する。「海外の事務所では、モデルをつくる人、シミュレーションをやる人間、といった職能が細分化しているケースがほとんど。ただ、私の経験も踏まえて言わせてもらえば、自分の周囲のことがよくわからないプロが集まっても、限界があるように感じるんですよ。いいものをつくるには、建築設計の全体がわかったうえでITツールを使いこなせるような、ゼネラリストの育成が必要なのではないでしょうか。設計組織はどちらを選択すべきか、今はその分岐点である、と私は感じています」

PROFILE

綱川 隆司

綱川 隆司

1993年、早稲田大学理工学部建築学科卒業後、前田建設工業株式会社に入社。

2001年より、3次元CADによる建築設計に従事。

BIMを活用した仮想コンペ「Build Live(IAI日本主催)」に

チーム「スカンクワークス」として毎年参加し、

14年は最優秀賞・Building smart大賞を受賞。

住田町役場は、第18回木材活用コンクールで農林水産大臣賞受賞。一級建築士。

前田建設工業株式会社

設立

1919年1月

代表者

小原好一

所在地

東京都千代田区富士見2-10-2

http://www.maeda.co.jp/

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