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日本各地の住まいの成り立ちを現地で調べ、 </br>次代に引き継ぐ“意味と形”を研究――。 </br>建築の“継承と更新”を探求し続ける

日本各地の住まいの成り立ちを現地で調べ、
次代に引き継ぐ“意味と形”を研究――。
建築の“継承と更新”を探求し続ける

工学院大学 建築学部 建築デザイン学科 冨永研究室

日本の集落や建築を調査し特徴を抽出

〝継承と更新〞を研究のメインテーマに掲げる工学院大学建築学部の冨永祥子教授は、学生とともに各地の集落や建築のサーヴェイを行っている。

「日本の国土は小さいながら、地域によって実に様々かつ独特な文化や歴史があります。そのなかで育まれ、引き継がれてきた建築には、それぞれ多様な思想や形が込められており、過去の人々が考えた〝理由〞が隠れています。時代の潮流に応じて、まちも建物の形も変わっていきますが、その理由を踏まえた更新がされるべきだと思うのです」

 例えば、厳しい気候や独自の生業により、町並みや建物がどんな特徴を帯びるのか。特殊な条件に置かれた集落とその住まいが、主な調査の対象だ。学生たちと現地で実測調査し、図面やパースなどでビジュアル化したうえで、特徴を抽出。最終的には、次代に向けた設計提案までを修士論文の目標としている。

 2013年に調査を行った秋田県増田町は、街道沿いに間口の狭い大型の町屋が数多く残されている。豪雪地帯のため、家屋に蔵が内包された独特の建物様式が特徴的だ。調査はまちを俯瞰する大きなスケールから、数件の民家、内部空間へと徐々にフォーカス。さらに民家内のプライバシー区分や、光の取り入れ方など細かな特徴までを掘り下げ、空間の魅力を解読していく。増田町は伝統建築物群保存地域に指定されているが、新築に対する規制は外観に限られ、将来的に内部は伝統とは無関係な空間となる可能性もある。そのため修士設計では、抽出された特徴的な要素を踏まえた〝現代版の増田町住宅〞を提案した。

 調査対象は伝統的な建築だけに留まらない。1974年に静岡県に建設された「パサディナハイツ」は、菊竹清訓氏設計による希少なメタボリズム建築の集合住宅だ。竣工から40年強が過ぎた建物の、現在の暮らしの様子を現地調査した。

「実際にはメタボリズムの理想とは異なる増改築がなされており、近代建築版の〝継承と更新〞を検証できた貴重な経験でした」

 これらの調査を実際の設計活動に結びつけるにはハードルがあるが、山形県新庄市の登録有形文化財である旧蚕糸試験場は、同大学と千葉工大が合同で調査を行い保存・耐震補強・利活用提案をまとめた後、17年から冨永研究室が実際の改修設計に着手、現在も継続中だ。昭和初期に建築された10棟の建造物群のうち2棟の改修工事はすでに竣工し、産直所や店舗として地域活性化に寄与している。

学部3年に行う住宅研究ゼミでは、建築家の思想や設計手法を学び取り、
その空間の魅力を、スケール・素材・ディテールを手がかりに探り出す
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3次元の建築を2次元に表現する

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PROFILE

教授 冨永祥子

教授 冨永祥子

教授 とみなが・ひろこ
1992年、東京藝術大学大学院美術研究科修了後、香山壽夫建築研究所入所。
2003年、福島加津也+冨永祥子建築設計事務所設立。
11年、工学院大学建築学部建築デザイン学科准教授。現在は教授。
15年、日本建築学会賞(作品)など受賞多数。

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