新進気鋭
SAMURAI ARCHITECTS
プロダクトではなく「スキーム」を。建築AIパース「Rendery」などを手掛けるSAMURAI ARCHITECTの若き経営者、加藤利基氏。建築とテクノロジーの橋渡し役として、業界の課題解決に取り組む姿に迫る。
「建築産業を面白くしたい」がきっかけに。全国の工務店を、もっと楽しく。
─加藤さんは大学院在学中に起業したとのことですが︑まずは学生時代から起業に至るまでの経緯を教えて下さい。
加藤:昔から建築と経営の両方に興味があったのですが、実家が祖父の代から続く工務店を営んでいることもあり、まずは芝浦工業大学で建築を学びました。大学で意匠設計を学び、建築家になるという選択肢ももちろんありましたが、次第に「この建築産業自体をもっと面白くしていきたい」という想いが強くなっていったんです。そのためには、個別の設計を突き詰めるよりも、産業全体をマクロな視点で捉える経営の知識が必要だと感じ、慶應義塾大学大学院の経営管理研究科(MBA)に進んで、修士2年の時に会社を立ち上げました。自分の理想とする建設業のあり方を探る上で、自分で会社を作って「実証実験」をしてみるのが一番早いのではないか、と考えたんです。
─現在、SAMURAI ARCHITECTSはAIを駆使したサービスなどを提供していますが、2022年の創業当初から、AIに着目されていたのでしょうか。
加藤:当時はA I ブームの少し前で、世間ではメタバースの方が騒がれていましたね。僕らも当初は、「テクノロジーを使って建築を変えることはできないか」と考えて3D技術などにも取り組んでいたんです。やがて、医療分野で画像生成の研究をしていた横溝(SAMURAI ARCHITECTS CTO 横溝裕太氏)と出会い、彼の専門知識と、ちょうど来始めたAIの波を掛け合わせたら、「建築と画像生成は、めちゃくちゃ相性がいいんじゃない」と。そこから一気にアクセルを踏み込みました。
─SAMURAI ARCHITECTSは『「建築」がすべての人にとってもっと身近な存在になるために、空間デザインの民主化を目指す』というビジョンを掲げています。主力サービスである「Rendery(レンダリー)」は、まさにその思想を体現したものですね。
加藤:はい。Renderyは、AIを活用した建築パースの生成サービスです。これまで外注すれば1週間以上かかっていた高品質なパースを、誰でも簡単に、数分で作成できるサービスで、今では6000ユーザー以上の方々に利用していただいています。これは「綺麗なパースを作りたい」という建築業界のニーズと、SNSなどでハイレベルなビジュアルに慣れ親しんだお客様のニーズが、うまく合致した結果だと思っています。
─Renderyで確かな手応えを掴んだ今、SAMURAI ARCHITECTSとして次に見据えているものは何でしょうか。
加藤:僕らは自社のサービスを使ってほしいとは当然思っていますが、極論を言えば、建築業界がDXを進める上で使うプロダクトは何だっていいんです。それを使うことで実際に業務が効率化されたり、皆が楽に働けたり、売上が上がるような「スキーム」そのものを作っていきたいという思いがあります。
─業界全体の「あるべき姿」を構想し、そのための仕組みを提案していく、と。現状の建築業界で、特に課題であると感じている点はありますか?
加藤:「ナレッジがシェアされていない」ことですね。日本には優れた建築技術を持つ企業や人がたくさんいますが、特にベテランの方々が培ってきた貴重な知識や経験が個人の頭の中に留まってしまっているので、「それをデータ化できないか」というのが次のフェーズでやりたいことなんです。建築業界では人手不足が叫ばれていますが、優れた知識をシェアすることで、若手の育成コストを下げ、彼らが短期間で一人前に育つような環境を作れるはずです。そこで、僕らが建築とシステムの「橋渡し」をすることで、業界全体のナレッジを未来に繋いでいくことができると考えています。
─では最後に、加藤さんの今後の「野望」をお聞かせください。
加藤:テクノロジーの力を駆使してさらに進化した「ネオ工務店像」を作っていくことです。単にDX化するだけでなく、組織のあり方やマーケティング、街づくりまで含めた、再現性のあるモデルを創りたいですね。
僕は実家の工務店のことが大好きですし、心からリスペクトしています。だからこそ、実家の会社だけでなく、北海道から沖縄まで、全ての工務店が今後もより豊かに存続していけるような仕組みを作りたい。各地域で、豊かに働ける楽しい企業が増えれば、この建設業の市場規模はもっと大きくなるはずです。そのためのアプローチを、これからも続けていきたいですね。

建築とAIの融合で未来のデザインに挑む若きチーム、共創で新たな価値を創造している。
- 加藤利基
Riki Kato 株式会社SAMURAI ARCHITECTS/代表取締役
全ての人が理想の空間で過ごすために、建築・都市
のより豊かなコミュニケーションの方法を求め、起業。
建築・都市デザインをベースにビジネスマネジメントも
手掛ける。株式会社SAMURAI ARCHITECTS 代表取締役・CEO。
慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科特任助教。
株式会社加藤工務店取締役。芝浦工業大学建築学部建築学科卒業。
慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。
芝浦工業大学建築学部助手(トムヘネガン研究室)として3年間勤務。