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施主の〝想い〞を最優先で考えながら、 長く愛され続ける〝建築〞を届けていく

施主の〝想い〞を最優先で考えながら、 長く愛され続ける〝建築〞を届けていく

小大建築設計事務所 小嶋 綾香

国内外2拠点に事務所を設立

 京都で生まれ育った小嶋綾香氏は、高校を卒業後、新たな世界での挑戦を志し、テキサスA&M大学に進学。当初はジャーナリズム学科に所属していたが、一般教養で履修した授業がきっかけとなり建築へ舵を切る。同大学には医療施設などホスピタリティに特化した建築学科があり、リサーチを重ねながら設計を進める手法に、ジャーナリズムとの親和性を感じたという。

「大学では機能から導く建築を学びましたが、メキシコで見たルイス・バラガンの作品に衝撃を受け、建築における〝デザインの力〞に目覚めました」

 大学とは異なるアプローチで建築を学びたいという思いから、修士課程はカリフォルニアのSCI‐Arcを選択。ロボットアームを用いた3D造形の制作やグラスホッパーでのモデリングなど、先進的な設計手法を学んだ。

 意匠設計に手応えを覚えたものの、当時の小嶋氏は自身の建築の方向性に明確なビジョンを持てていなかったという。一方で、帰国時に見学した日本の建築の居心地の良さが心に残ったと振り返る。卒業後、アメリカに留まることも考えたが、母国の日本で建築を学びたいという思いが強まり、特に印象深かった根津美術館を手がけた隈研吾建築都市設計事務所に入所した。

 同事務所では、アメリカへの留学経験から海外部門に配属され、中国の案件を中心に担当。国内でも、大手倉庫企業の開発や内装の案件に従事した。

「当時は目の前の業務に追われ、隈さんの設計思想を完全に理解するまでに至りませんでした。最近になって、その時に携わった設計の意味を、ようやく消化できるようになりました」

 入所3年目に、同じ海外部門の小嶋伸也氏とともに独立し、小大建築設計事務所を設立。前職で中国の物件に多くかかわっていたことから、東京と上海の2拠点で活動をスタートした。しかし、国内での実績はゼロに近く、設立初期の依頼は少なかったという。

「そんななか、ある方からの紹介で、アパレルの移動型店舗の設計案件を受託しました。数十個の防災頭巾をつなげてドーム状にするため、ジッパーを開け閉めしながら実験を繰り返してつくり上げたものです。これがSDレビューでSD賞を受賞し、国内での知名度を高めるきっかけとなりました」

 一方、中国では伸也氏が偶然出会った人物からカフェの設計を依頼され、完成したカフェを見た人からホテルの設計を依頼されるなど、人の縁に導かれて次々と仕事が広がっていった。

 中国で2件目のホテルとなる「大山初里」は、農村部の限界集落にあった住宅6棟を解体し、ヴィラタイプのホテルを新築するプロジェクトである。現地の素材を多く用い、周辺の民家との調和を保ちながら、地域住民とともに並走できる運営方針を提案した。

居心地の良さをいつか公共建築にも

 現在、同事務所は受注案件の8割をホテルが占め、星野リゾートの「界」、ハイアットグループ初の温泉旅館ブランド「吾汝ATONA」をそれぞれ複数受注している。2026年以降に竣工が続く予定で、事務所として一つの節目を迎える見込みだ。

 また、同事務所は住宅リノベーションブランド「一畳十間」を設立。「日本の心地良い美のある暮らし」をテーマに、画一的な間取りにとらわれず、職人の手仕事を生かした居心地の良い空間づくりを提案している。自由が丘にギャラリーを開設し、ブランドの魅力を体感できる展示空間を展開。住宅リノベーションの顧客のみならず、ホテル等の関係者にも、空間や素材感を直に確認してもらう場となっている。「一畳十間」は海外からの反響も多く、将来的には同ブランドの理念を、海外にも伝えていきたいと小嶋氏は語る。

「現在約30名の所員が所属し、日本と上海の事務所に半数ずつが勤務。特に中国人スタッフは技術力が高く、業務の効率化に貢献してくれています。さらに中国は、施工費が安く、建設の制約も少ないことから、アイデアが実現しやすい環境です。新しい材料などを中国で実践し、その技法を日本に還元するサイクルを回していきたいですね」

 将来的には図書館など公共建築の設計も手がけたいという小嶋氏。それが実現すれば、地域の人々に長く愛される居心地の良い建築が、より多くの人に届けられることになるだろう。

PROFILE

小嶋 綾香

小嶋 綾香
こじま・あやか

1986年、京都府生まれ。
2009年、テキサスA & M 大学建築学科卒業。
1 2 年、SCI-ARC(南カリフォルニア建築大学)修士課程修了。
13年、隈研吾建築都市設計事務所入所。
15年、建築家・小嶋伸也と、東京および上海に小大(こお)建築設計事務所を共同設立。
日本の風土や歴史を端緒とするヴァナキュラーな建築が人間の根本に潜む感性に響くと感じ、
後世に受け継がれるような設計を心がける。
21年、リノベーションブランド「一畳十間 ichijo-toma」を開始。
一級建築士。

株式会社小大建築設計事務所

所在地/東京都目黒区自由が丘3-14-8
TEL/03-5432-9794
https://ko-oo.jp/

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