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【第26回】建築業界の信頼性を高めるため、 「設計説明書」の効果を訴えていく

【第26回】建築業界の信頼性を高めるため、 「設計説明書」の効果を訴えていく

株式会社 山下PMC 代表取締役社長 社長執行役員 川原秀仁

前回のコラムでは、建物の基本計画から設計、工事、運営といった工程が、それぞれの“専門家”によってステップ・バイ・ステップで進行し、プロジェクトをトータルで最適化することができていない、という問題点を指摘した。そのことにより、お客さま=発注者が被る不利益は、工期が長くコストも膨らむという問題だけにとどまらない。事業を営むための建物が当初のコンセプトどおりに運営されない、施設の運営ルールが機能しない、修繕履歴などが更新されない、といった様々な不具合が、肝心の事業運営のステージで露見することは、残念ながら珍しくないのだ。では、それらを解消する“プロジェクトの最適化”とは、どういうものなのか、今回は具体的に考察してみたい。

これも、発注者目線で検討してみるのが有効だ。お客さまが欲しているのは、実は完成した建築物そのものと、竣工引き渡し書類、竣工図、CAD・BIMなどの各種データ、記録ファイルといった竣工図書類のただ2つだけである。ならば、その2つの品質アップに焦点を絞ればいい。後者は、それをひもとけば、施設の運営やメンテナンスが滞りなく実行できる内容に、つくり上げられるのである。

なかでもカギを握るのが、「設計説明書」だと考える。基本設計を構築していく過程の検討内容を明解に履歴化したもので、これにより建築計画意図は明確に示される。裏を返せば、現在の設計図書のみを見て、建築プロジェクトの背景や目的を瞬時に理解できる人間は、プロでも稀だ。そこに、「話が違う」という齟齬の生じる大きな原因があるのは、間違いあるまい。

今述べたように、この設計説明書は、建物の運営段階に継承され、発注者が使えるものでなくてはならない。その点でも、「わかりやすさ」は重要だ。マンションのパンフレットには、価格などとともに、広さ、間取りが図に示されていて、誰でも室内の様子をイメージできる。私たちが目指す「わかりやすさ」は、まさにそれなのである。この設計説明書を必ず作成し、発注者に引き渡す必携資料と位置付けて制度化すれば、建築プロジェクトを取り巻く状況は、大きく変えられるのではないだろうか。

もちろん、越えなければならないハードルは少なくない。最適化が遅々として進まない要因には、プロジェクトにかかわる人たちの「長年やってきた仕組みを変えるのは無理」という思い込みが大きいように感じる。だが、前回も話したように、本格的な“AI時代”を控えた今、発想を転換できなければ、建築のプラットフォームはGoogleやAmazonに奪われるかもしれない。

規制の壁もある。私が一番問題だと思うのは、実施設計のフィーを7割の高率に定めている基準の存在だ。あえていえば、実施設計の「不合理さ」についての認識は、実際に携わっている現場が切に痛感している。しかし、この報酬基準によって、「実施設計なくして建築はできない」という固定観念は補強される。その意味でも、設計説明書は重要だ。これを組み込んだ発注図書ストラクチャーは、基本設計と実施設計の区分を無意味にするからである。

一気に壁を壊すのは難しいだろう。まずは辺境で「この方法で、こんないいものができるのだ」という実績を積み重ね、やがて本流に、という流れをつくり出していきたいと考えている。

PROFILE

Hidehito Kawahara

Hidehito Kawahara
川原 秀仁

1983年、日本大学理工学部建築学科卒業後、農用地開発公団、農用地整備公団、JICAを経て、
株式会社山下設計へ。
99年、株式会社山下ピー・エム・コンサルタンツ(現山下PMC)の創業メンバーとして参画。
現在、同社のCEO・COOとして企業ドメイン全体の構築を担う。
一級建築士、認定コンストラクションマネジャー、認定ファシリティマネジャー。

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