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「ITリテラシーを高めてほしい」。  若手建築士の方々へのメッセージ

「ITリテラシーを高めてほしい」。 若手建築士の方々へのメッセージ

一般社団法人 buildingSMART Japan 代表理事 山下純一

建築の生産性向上などに寄与するBIMの本領を発揮させるためには、「オープンBIM」が不可欠だ。ゼネコン、サブコン、設計事務所、設備メーカーといった建築プロジェクトを形成する企業間で、サプライチェーン全体を見渡したスムーズな情報のやり取りが可能な仕組みにしなくてはいけない――。前回は、そんな話をした。そうした観点から見て、日本の現状は「ようやくBIM本来のあり方が理解されてきた」という地点に到達したと言っていいだろう。

 そもそものBIM自体の普及も含めて、なかなかドラスティックな動きにならないのは、なぜか?私は、この課題が“受注者、建築業界の取り組み”として認識されてきたところに、根本的な原因があると考えている。ゼネコンにせよ設計事務所にせよ、自らにメリットがあれば、BIMを導入する。しかし、利益追求を旨とする私企業に、「プロジェクト全体を俯瞰した効率性を追求せよ」と言っても、限界があるのだ。

この点、“BIMの発祥国”であるアメリカの歴史は興味深い。2004年、同国の国立標準技術研究所(NIST)が、「米国の建設産業における不適切な情報の相互運用に関するコスト分析」という報告書を公表する。情報共有の不全がもたらす建設産業の労働生産性の低さが、いかに発注者に損失を与えているのか(過大なコストが発生しているのか)を“警告”したものだ。
これを契機に、「建築プロセスの効率化が不可欠だ」「コストや工期などを自分たちで管理する必要がある」という発注者側の意識が高まり、やがてそれを実現するツールの一つとして、BIMが誕生したのである。

建築を依頼する側に「ぜひ情報共有が可能なBIMで進めてほしい」と言われれば、受注する側はそれに従うしかない。プロジェクト全体の効率化は、結果的には、そこに参加する個々の企業の利益率向上にも結びつくはずだ。重要な“鍵”は、依然として「納期までに、いい建物を建ててくれればそれでいい」という発想を持ちがちな発注者の意識を変えることにある。

サプライチェーン全体を動かすという視点に立てば、国レベルの構想や施策の実行も必要になる。考えてみれば、国自体が建築の“超大口の発注者”でもある。やはり、どちらかというと“民間任せ”のスタンスだった官も、近年、bSJも参加する国土交通省の「建築BIM推進会議」などの場で、「BIMを通じ情報が一貫して利活用される仕組みの構築」に向けた検討を本格化させている。官民一体となった取り組みに期待しつつ、bSJとしても、様々な機会を通じて「オープンBIM」のメリットを広める活動を推進するなど、その一翼を担っていきたい。

建築設計に携わる若い人たちには、ぜひITリテラシーを高めてほしい、というメッセージを送りたいと思う。BIMもそうなのだが、この分野でも今後ますます立体化、仮想化が進むだろう。仮想化されたものは、コンピュータで扱うしかない。その時、あてがわれたソフトウエアを使えるだけなのか、ある程度内部をいじったり、“遊んだり”することができるのかというのは、かなり違う。そうしたスキルは、デジタルトランスフォーメーション時代の大きなアドバンテージになるはずである。

PROFILE

Junichi Yamashita

Junichi Yamashita
山下純一

1965年、名古屋工業大学建築学科卒業後、現株式会社フジタ入社。
情報システム部長、株式会社フジタビジネスシステム代表取締役社長などを経て、
2004年より現職。株式会社CIラボ代表取締役社長。
一級建築士。特殊情報処理技術者。

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