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SDGsすべての項目にかかわる 建築を取り巻く活動は、多彩にある。 何をしたいのか、長期的な目標を 持って自分の道を歩んでほしい

SDGsすべての項目にかかわる 建築を取り巻く活動は、多彩にある。 何をしたいのか、長期的な目標を 持って自分の道を歩んでほしい

国広ジョージ

 東京生まれの日系三世で、アメリカ在住歴33年。日米双方の文化を併せ持つ国広ジョージは、国際的な建築家として多彩な活動を紡いできた。1983年にロサンゼルスで事務所を構えたのを皮切りに、アメリカはもとより日本においても幅広く設計活動を展開。主に住宅や商業施設を手がけてきた。日本に拠点を移したのは46歳の時で、以降はアジア地域を主戦場としている。通じてプロフェッサー・アーキテクトとしてのキャリアも長く、数々の大学で次代の建築家育成に貢献。さらに環境問題に代表されるような社会活動にも熱心に取り組む国広は、建築家というより〝建築にまつわるすべての活動家〞と称したほうがふさわしい。

「つくらない建築」をテーマとし、より一層の社会活動に注力する

 社会活動については、学生運動に参加した大学時代に原点がある。国広自身がマイノリティだったから、人種差別、格差社会に対する問題意識が強く、「変えなければいけない」と活動してきた。この時期の体験が、社会派建築家としての素養を培ったのである。

 建築の学生として何ができるかを皆で話し合い、今でいうまちづくり運動をしていました。簡単なことだと市民でやるお祭りのブースづくりとか、暮らしのインフラである水道やガスに関するガイドブックづくりとか。建築関連で言えば、立ち退き反対運動。都市再開発で強制退去を強いられる抵所得者、高齢者の暮らしを守るための戦いです。僕らでリノベーション案を考えて、政府に持ち込んだりしてね。4年の時には、発起人4人で「Asian NeighborhoodDesign」というNPO法人を設立したんです。この団体はずっと続いていて、今や全国区になっているんですよ。ファンドを募って、暮らしに困窮する低所得者の共同住宅を実際に建てたりしているようです。

奉仕の精神が培われたというか、僕はやっぱり人や社会とのかかわりを重んじたいのです。「俺が」というタイプじゃない。設計する時もそのキャラが出てくるから、目立つような建築をつくってこなかったのだと思う。まぁ言い訳かもしれませんが(笑)。

振り返ってみても、僕が一番気に入っている作品は小さな住宅です。日本に長く住む外国人カップルから依頼されて設計した鎌倉の別荘。気持ちよく自然を感じるために全体はガラスで覆っているんだけれど、ルーバーで囲むことによって、外部からは守られているような感じになっています。こういう時、装飾的に木で組むようなことはせず、僕の場合はただのルーバーがいいという考えになるし、日常に溶け込む平凡の美しさを求めたくなる。建物が長く残り、住む人が大切にしてくださることが何よりの喜びなのです。

 現在の国広は、北京の清華大学建築学院で上席客員教授として教鞭を執り、また、国内外各地で講演を行うなど、変わらず〝飛び回って〞いる。そして、目下最大にしているテーマは「つくらない建築」だ。70歳を超えてからの人生は、建築行為などで排出されたゴミを含む廃棄物を対象とした社会活動に充てたいと考えている。

 パートナーとともに活動している「ティーライフ環境ラボ」の関係で、素晴らしいシステムに出合ったんですよ。「亜臨界水処理システム」というもので、これはあらゆる有機系廃棄物から再生可能なエネルギーを生み出す技術です。簡単に言うと、ゴミを亜臨界水処理して高圧をかけると汚泥化されるので、この有機的な残渣を使ってメタンガス発酵すれば、電力が生まれるというプロセス。それを売電すればキャッシュフローを確保することができるし、残渣は有機農業の強力な肥料にもなる。まさにウィン・ウィンでしょう。今年の初めに実業家と科学者チームで会社を設立し、僕は立ち上げ顧問として、このシステムを世界に普及させるべく走り回っているところです。

考えてみれば、建築業界はSDGsすべての項目にかかわっているわけで、建築家の創造行為が地球や人類に及ぼす影響は何か、考えるべきことはたくさんあると思うのです。日本の建築家たちは優秀だから、建築設計を通じて住環境はもとより、教育や医療環境などにおいても常に新しい提案を行っているけれど、一般社会には理解を得られていない部分もあります。僕は、これまでの経験を生かして、国や社会、人々をつないでいくような活動をしていきたいと考えています。

建築設計だけでなく、建築をとりまく活動はいくらでもあります。若い人たちに伝えたいのは、自分が何をしたいのか、目標を持ってほしいということ。長期的な目標をね。そうすればライフステージが変わったり、時に思わぬ状態になったりしても必ず戻れます。僕自身、紆余曲折はあったけれど、建築活動家として走ってこられたのは、学生時代からそれを目標にしてきたから。自分の道を信じて歩んでほしいというのが、僕からのエールですね。

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PROFILE

国広ジョージ

国広ジョージ
George Kunihiro

 

1951年東京都文京区生まれ
1974年カリフォルニア大学バークレー校  環境デザイン学部卒業
1976年ハーバード大学大学院 デザインスクール修士修了
1983年George Kunihiro Architect開設 (ロサンゼルス)
1987年同事務所をニューヨークにて開設
1998年ジョージ国広建築都市研究所設立(東京)国士舘大学工学部助教授
2001年東京大学大学院工学研究科博士課程満期退学
2003年国士舘大学工学部(現理工学部)教授(~22年)
2011年清華大学(中国)客員教授(現任)
2013年株式会社ティーライフ環境ラボに参画
2019年明治大学特別招聘教授(~21年)
2022年アリンインターナショナル株式会社顧問
その他役職

日本建築家協会副会長(2006年)、
AIA(アメリカ建築家協会)フェロー(2008年)、
ARCASIA(アジア建築家評議会)会長(2011~12年)、
「UIA(国際建築家連合)2011東京」
第24回世界建築会議日本組織委員会広報部会長(2002~11年)、
AIA国際理事(2013~15年)、
AIA日本支部会長(2016年)、
ARCASIA執行部アドバイザー(2017~18年)
ほか多数

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