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街を森にかえるプロジェクト――。 “環境木化都市”の実現に向けて、 350m の木造超高層ビルを 建設可能とする研究開発、始動

街を森にかえるプロジェクト――。 “環境木化都市”の実現に向けて、 350m の木造超高層ビルを 建設可能とする研究開発、始動

住友林業 SUMITOMO FORESTRY CO., LTD.

住友林業が創業350周年を迎える2041年までに、70階建て・地上350mの木造超高層ビルの建設を目指す「W350計」。完成すれば世界一高い木造ビルになるが「建築の実現そのものが目的のプロジェクトではないのです」と中嶋一郎氏。真の狙いは、
再生可能な自然素材である木を活用し、地球環境・人の暮らしに貢献する「環境木化都市」の実現だ。

知的財産室での4年間の経験がW350計画の礎に

2011年10月、今度は知的財産室長となった中嶋氏。ここでの4年間が、のちに筑波研究所長となるにあたっての礎になったという。

「その頃トップから命じられたのは『知財室での4年間で、住友林業の技術を俯瞰的に見て、足りない部分を洗い出し、将来的にどんな構想のもとで対応するべきなのか提案してほしい』ということでした。実際、競合他社に比べて6〜7年遅れている領域もありました。また国内の人口が減少するなかで、木造建築を新たなマーケットに広げていく必要性も明らか。そんな提言を経営者にさせてもらいました。一方その頃、筑波研究所でも、大学や協業先の企業などとフィジビリティ・スタディを繰り返しながら、木造建築の可能性をさらに広げていくアイデアを模索していたのです」

 16年4月、筑波研究所長に就任した中嶋氏は、それまでバラバラに動いていた経営の将来構想と研究開発を一つにまとめる仕事に取りかかる。折しも、住友林業の創業350周年に向けて、経営トップが「木の価値を高める技術で世界一の会社になる」とメッセージを発信し始めたタイミングとも重なった。自社のリソースやマーケット、世の中のニーズを踏まえたうえで、世界一の企業になるためのプロジェクトとして、社外にもわかりやすいかたちに置き換えたのがW350計画という位置づけだ。

「とはいえ、住友林業は超高層ビルを建てる知見も技量も持ち合わせていません。この企画は、世界有数の設計会社である日建設計と一緒に立ち上げたものです。設計や構造などの基本のロジックは日建設計、木材の強度や応力計算などは住友林業というかたちで協業しました」

 それにしても、高さ350mの木造超高層ビルとは途方もない。克服するべき課題を洗い出したところ、大きなもので108、小さなものでは1000を超えるという。それらの課題解決を目指し、具体的な研究開発を担うのが筑波研究所の役割というわけ。建築技術のみならず、資源や材料など複数の研究グループを擁し、それらを総動員する。

 例えば、耐震性の向上も課題の一つ。ノルウェーでは高さ85m・18階建ての木造ビルが存在しているが、地震大国である日本で、いっそうの耐震性が求められる。住友林業ではゲノム選抜による苗の選定を行い、より〝強い〞木をつくり出そうとしている。

 耐火性の向上も不可欠だ。日本では15階建て以上の建物には3時間以上火にさらされても構造躯体に影響しない材料を使わなければならない。競合他社のなかには石膏ボードなど木材と不燃材料を組み合わせて3時間耐火を実現している例もある。だが「木の価値を高める技術で世界一の会社になる」と標榜している住友林業は、木材のみによる3時間耐火を研究しているという。木といえば燃えやすいもの、違うのだろうか?

「木には、火がついて表面が炭化すると内部まで燃えにくくなるという性質があります。詳しいことはまだお話しできませんが、木が燃えるメカニズムを追求するうちに『なるほどな』ということがわかってきました。それに、将来的に建物を解体する時の手間を考えれば、不燃材料を使わないに越したことはありません」

 最大のネックは〝人財〞の部分だと中嶋氏は言う。洗い出した課題に対して社内に知見がない部分が少なからず存在する、ということだ。これについては国内外の企業や大学とのコラボレーションにより補っていく。

「これから計画を具体的なかたちに落とし込んでいくなかで、さらなる課題が見えてくることもあるでしょう。しかもこの計画は21年先まで続いていきます。どんな状況下であっても強い意思をもってきっちりPDCAを回し続ける。それができる編成を固めたいと思います」



地上70階建て、高さ350m。木材比率は9割に及ぶ。木材と鋼材を組み合わせた柱・梁の構造に、鉄骨制振ブレース(筋かい)を配置したブレースチューブ架構とした。使用木材量は18万5000㎥。これは同社の木造住宅8000棟に相当し、二酸化炭素の固定量は約14万t 画像提供/住友林業・日建設計

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俯瞰することで見えてくるもう一つの道

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PROFILE

中嶋一郎

中嶋一郎
Ichiro Nakajima

1958年 和歌山県生まれ。
1981年 大阪芸術大学芸術学部デザイン学科卒業後、住宅用建材企業を経て、
    89年に住友林業株式会社入社。
2008年 住宅事業本部商品開発部長。10年、コーポレート・コミュニケーション室長。
2011年 知的財産室長。16年、筑波研究所長。17年、理事 筑波研究所長。
一級建築士。

住友林業/SUMITOMO FORESTRY CO., LTD.

住友林業株式会社
設立/1948年2月20日
代表者/代表取締役社長 光吉敏郎
本社所在地/東京都千代田区大手町1-3-2
筑波研究所/茨城県つくば市緑ケ原3-2
https://sfc.jp/

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