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人間が持って生まれた五感が伸び伸び働く建築、心身にフィットするような建築。それが増えていけば、この国はもっと豊かになると思う

人間が持って生まれた五感が伸び伸び働く建築、心身にフィットするような建築。それが増えていけば、この国はもっと豊かになると思う

富田玲子

 有志らと共に「象設計集団」を設立したのは32歳の時。以来、富田玲子は45年以上にわたって「気持ちのいい暮らしの場」づくりに専心してきた。住宅「ドーモ・アラベスカ」やコミュニティセンター「進修館」、「名護市庁舎」「笠原小学校」など、手がけてきたジャンルは様々だが、共通しているのは、それら建築物がごく自然に、土地や人々の暮らしに溶け込んでいること。だからこそ、愛着をまとって長く息づいている作品が多い。女性建築家として先駆的な存在であっても、当の富田には気負いなどなく、その実はいたって自然体。仲間との協働を大切にし、自分たちが信じる〝豊かな建築〞に真っ直ぐ向き合ってきた。変わらぬその姿勢が、人々を惹きつける作品群を生み出しているのである。

「心地いい」ものづくり。時代や場所を超えて、生き続ける〝象の流儀〞

10年ほど前、富田はドキュメンタリー映画を製作するという、少々趣の異なる活動に取り組んだ。2007年に完成した映画『シロタ家の20世紀』で、企画者のなかには富田玲子の名が記されている。この映画が世に出た背景には、長らく親交が続いた富田のピアノの師、藤田晴子氏の存在があった。

藤田先生は01年に亡くなったのですが、先生は独身でしたので、その時、私を遺産相続人の一人に指定されたんです。「文化的事業に使ってください」という遺言と共に。先生の師はピアニトのレオ・シロタさんで、娘であるベアテさんは、日本国憲法に男女平等の項目を入れることに尽力した女性として有名です。そのベアテさんのことを記録した映画『ベアテの贈りもの』を監督したのが藤原智子さんで、実は、うちとはご近所。ある時、続編としてレオ・シロタ一族の歴史を映画化したいというお話を聞いていたら、「お金がない」と。「じゃあ、藤田先生の遺産を使いましょう」。そう申し出てからすぐに話が決まり、私は思いがけず、映画製作委員という肩書を持つことになったのです。

シロタ家の故郷であるウクライナへ、レオの兄ヴィクトルが暮らしたポーランドへ、日本国憲法9条の碑が置かれているスペイン領グラン・カナリア島へと撮影隊について行き、いい経験になりました。何より、藤田先生のご遺志にも応えることができましたし。ただそのぶん、この時期の建築の仕事は少ないですけど(笑)。

興味を感じたり、やりたいなぁと思うことに手を挙げるのは、昔から変わっていませんね。だから、住宅や老人ホーム、教育施設、公園、温泉など、つくってきたものは本当に様々。ですが、苦手なものもあります。高層ビル。人間の身体能力をはるかに超えたビルの巨大さ、そのなかで細分化された空間の貧しさ、均質性、閉鎖性……どうにも苦手です。以前、40階建てのビル計画で、外装デザインを依頼されたことがあるのですが、無理だとお断りしました。だって、怖いじゃない(笑)。

富田の著書に『小さな建築』がある。タイトルの定義は、もちろんサイズにあるのではなく、人間が持って生まれた五感が伸び伸び働く建築、心身にフィットするような建築――とある。現在、象設計集団の拠点は東京、北海道、台湾の3カ所にあり、それぞれが地域に根付いた活動をしているが、この〝象の流儀〞は根っこで息づいている。

象の事務所だけでなく、うちを卒業した人たちは各地で仕事をしています。卒業生は100人近くになるでしょうか。いるか、熊、鯨、龍、あり、獏、とり、マンモスなど、事務所の名称やロゴマークは自分たちの好きな動物を取り入れてやっています。総称は「チーム・ズー」。一度協働設計をすれば、皆仲間という緩やかな共同体で、業界ではわりに珍しいかたちかもしれません。ごく自然にそうなったんですけど、これも、気持ちのいい関係ですね。

ここ最近、私が凝っているのは「オノマトペ」。もともとは、自分たちの設計理念や手法を整理するために始めたのですが、今では、特別講義とか私たちの作品を紹介する場面で使っています。例えば、空間と人の親密な関係という切り口なら「すっぽり」「ぬくぬく」、手触りや足触りといった五感に響く素材を表現する場合には「ぺたぺた」「ふわふわ」などといった具合に。作品でいえば、風や光が通り抜ける名護市庁舎は「すけすけ」。こういうオノマトペなら、理論よりスッと体に入ってくるでしょ。設計の概念や理念を共有化しやすいのです。実際、建築学科の学生たちにこれを用いると、「身近に感じる」と評判がいいんです。

若い人たちにそういう話をするのは、自分の持っている「心地いい」という感覚をいつも大切にしてほしいから。五感だったり、人間の身体能力を超えないサイズだったり、かたちは何であれ、「気持ちのいい暮らしの場」というものをつくってほしいのです。加えて、その土地にふさわしい格好で。ここはどこ? これは何?って、自分がどこにいるのかわからないような場や建物って、気持ち悪いでしょう。建築家は皆、きっとそう思っているはず途中には様々な困難もあり、ものを創り出す苦しみは並大抵ではないけれど、ずっと純粋な心持ちでありたいですよね。

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PROFILE

富田玲子

富田玲子

Profile
1938年9月24日 東京都新宿区生まれ
1961年3月 東京大学工学部建築学科卒業
1963年3月 東京大学大学院工学部建築学科修士課程修了

建築設計事務所U研究室(吉阪隆正氏が主宰)に所属
1971年6月 象設計集団の設立に参加
現在は象設計集団東京事務所に所属
家族構成=夫、息子1人とその家族、娘1人とその家族は別に住む
教職
東京電機大学、東京大学、早稲田大学、
マサチューセッツ工科大学、ペンシルベニア大学、
などで客員講師を務めた

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