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建築は都市空間をつくる一つの要素。周辺を含めた環境づくりに目を向け、“全体”をよくしていく――。そういうパブリックデザインの視点が今後ますます重要になる

建築は都市空間をつくる一つの要素。周辺を含めた環境づくりに目を向け、“全体”をよくしていく――。そういうパブリックデザインの視点が今後ますます重要になる

亀井忠夫

言わずと知れた日本最大の設計事務所・日建設計を統括する亀井忠夫は、今も、一人のデザインアーキテクトとして現場に立つ。グループ全体で見れば、職員数約2500名。世界第2位の規模となったこの大所帯を牽引する社長業と建築家業、傍目には切り替えが難しいように映るが、亀井はそれらを両輪として重んじ、泰然とこなしている。もとより、建築だけでなく、社会環境デザインに強い志向を持つ亀井にとって、〝総合力〞ある日建設計は水が合う組織だったのだろう、その実力をいかんなく発揮してきた。「クイーンズスクエア横浜」「さいたまスーパーアリーナ」、そして近年の「東京スカイツリー」などといった代表作に見られるように、どの時代においても亀井の眼差しは、「より美しい環境デザイン」に熱く向けられている。

社会環境づくりへの貢献と海外活動の拡充。その飛躍に向けて

最近印象に強いプロジェクトとして、亀井は、15年に完成した「YKK 80ビル」を挙げる。秋葉原に立地するYKKの本社ビルで、メインファサードがアルミ押出材の〝簾〞によって覆われた特徴的な建物だ。長くかかわってきた作品だけに、亀井の思い入れも一層強い。こういうプロジェクトの話をする時、亀井は喜色を浮かべ、やはり〝建築家の顔〞になる。

僕がこれまで携わってきたプロジェクトを見て、「亀井で」とご指名いただいた仕事ですし、YKKの田忠裕会長は建築に対する造詣が深い方なので、本当にやりがいがありました。本社ビルを建てる近隣の土地取得に時間がかかったり、途中、東日本大震災があって立ち止まったりと、10年越しになった仕事です。

建物の最大の特徴は簾状のスクリーンで、これは、厳しい日射への対策になっています。全体を通じて環境負荷の小さい建物にすることに注力しましたが、周囲を含めた環境づくりに配慮したのも大きなポイントです。スクリーンにすると、ビルのファサードが一枚の布のようになって、スケール感がよくわからない抽象的な面白さが出る。秋葉原の街って雑然としているでしょう。だから建築然としたものではなく、その雑然さのなかで、ちょっとした清涼剤になるような存在にしたかった。完成してから、田会長は知人から「倉庫をつくったのか」と言われたそうです。でも、オフィスビルに見えないところが、逆に自慢だともおっしゃっていただいて、僕としては狙いどおりの結果(笑)。

単体の建築プロジェクトであっても、その背後には社会があり、一般の生活者や利用者がいます。公共のためにものをつくるパブリックデザインの視点は、今後の重要テーマですし、やっぱり僕は、建築だけでなく、環境全体を美しくすることを考えて続けていきたいんですよ。

社会環境づくりへの貢献と並んで、日建設計が注力する重要テーマに海外活動の拡充がある。そのなか、昨年3月に、世界的なサッカークラブであるFCバルセロナのホームスタジアム「カンプ・ノウ」の国際設計コンペを勝ち取ったことは、大きな弾みとなった。加えて亀井は、スペインにて「イノベーション&テクノロジー慶長賞」を受賞。これら吉報は、まだ記憶に新しいところだ。

スタジアムの設計提案が高く評価されたことは、本当にうれしかった。「何十年に1回はこういうこともある」と思うほど、格別な思いです。今後、世界のトップクラスに伍していくためには、こういう仕事を通じて、総合的に足腰を鍛えていく必要があります。デザイン面でいえば、昨今、中国にしろ中東にしろ、競争が激しくなってきているので、そこでエッジを立てていくことも必要でしょう。

これからは、日本と海外という区別がなくなって、海外のスタンダードが日本で提供される時代になります。今、世界に通用する力をつけておかないと、結局のところ日本でもダメになる。「海外の仕事を取りにいく」というよりは、そういった視点での海外活動強化が大切だろうと思っています。

経営と現場、どちらに軸を置いているかとよく聞かれるのですが、答えは変わらず「両方」。僕らが取り組んでいる仕事って、社会的にとても責任の大きいものが多いわけです。クライアントや社会との信頼関係であるとか、前提として組織がしっかりしていないと、その責任は全うできません。だから巡って、僕自身が建築家であるためには、その土壌を守らなければいけない。対であり、両輪なんですよ。「自分がやりたいものだけをつくる」ではなく、人や社会を広く見据えられるような建築家でありたい……ずっとそう思い続けてきましたから。

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PROFILE


1955年1月 兵庫県西宮市生まれ
1977年3月 早稲田大学理工学部建築学科卒業
1978年7月 ペンシルバニア大学芸術学部大学院
建築学科修了
HOKニューヨーク事務所勤務(~79年)
1981年3月 早稲田大学大学院理工学研究科
建設工学専攻修了
4月 株式会社日建設計入社
1997年4月 設計室長
早稲田大学建築学科非常勤講師
(~00年3月)
2000年4月 東京電機大学建築学科非常勤講師
(~03年3月)
2006年1月 執行役員 設計部門代表
2012年1月 常務執行役員 設計担当
2013年3月 取締役常務執行役員 設計部門統括
2015年1月 代表取締役 社長 執行役員

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