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【第9回】次世代の建築は、チームワーク、 ネットワークがものをいう

【第9回】次世代の建築は、チームワーク、 ネットワークがものをいう

ARX建築研究所 代表取締役 武蔵野美術大学 理事・評議員 松家 克

 建築の世界でCADが身近になったのは、私が30歳くらいの頃だ。ただし当時は、あくまでも「鉛筆の図面描きをコンピュータがサポートするシステム」だった。それがどんどん進化し、PCとユーザーが“知恵”をつけた。結果、設計者がある設定条件を入力すれば、何万とおりものデザインのヒントを提示するアルゴリズム的手法、環境シミュレーションなどの解析、デジタルファブリケーション支援などの機能を持つに至った。PCが簡単に弾き出すヒントの中から、「これ」と思えるものを選んで、フィードバックと作業を進めればいいのだ。

 だからといって、“アナログ”が使命を終えたとは考えていない。細部まで精密に表現されるPCによる造形化は、時としてスケール感や手触り感などを喪失させる。空間まで、それらしく“見せて”しまう。常に全体像を思い描き、頭の中で手を使うアナログ的な感覚が研ぎ澄まされていないと、よいシミュレーションはできまい。

 いずれにせよ、私の若い頃に比べ、設計そのものと同時に、“ものづくりの可能性”も格段に広がっている。今や建築家が、出版、広告、エンタメ、ファッション界に進出したり、家電、電車、ロボットのデザインをすることが、現実的な時代になった。アートから“Perfume”の演出や広告制作などで活躍するライゾマティクスの齋藤精一氏のように、“建築家にならない建築家”を自称する人さえいる。これら新建築家には、ワイドでオープンな視座が垣間見える。

 そんな、“異業種”も含めた仕事の可能性に、特に若い人たちに目を向けてもらい、“次世代の建築のプロフェッション”として育ってほしいとの思いを込め、「Archi Future=建築×コンピューテーション」というフォーラムを始めたのが2008年のこと。私が実行委員長を務めるこの催しも、今年で8回目。さらなる情報発信のために先日、ArchiFutureのWebマガジン(http://www.archifuture-web.jp/)もスタートさせた。

 フォーラムでは、毎回、著名な建築家や新進気鋭の設計者による講演会、パネルディスカッション、セミナーなどを通じて、参加者が新たなアドバンテージを持てるよう、様々な情報発信を行っている。ちなみに、先ほどの齋藤氏にも13年に講演してもらった。参加された多くの方は、毎年、何らかのサジェスチョンを得てくれているようである。私自身、毎年わくわくするような発見に出合えることを楽しみにしている。 11年に、それぞれ個人事務所の代表である、30代から60代の各世代の6人の仲間を結集し、建築専門家集団「ARX+」を立ち上げた。一人の思想に固執しない多角的なアプローチから柔軟な回答を導き、ゼロから議論を立
ち上げ、徐々に議論を拡大し、意味付けを与えながらデザインへと導く“キュレータ型のもの創り”を具体化するためだ。

実際に稼働させてみると、情報の集まり方一つとっても、6倍ではなく何十倍になった感覚がある。シナジー効果は、予想以上だった。

 最後に、誤解を恐れずにいうならば、一人の巨匠の時代は終わった。次世代の建築は、卓越した構想力による“ネットワーク+チームワーク”と“同意形成のプロセス”がものをいうと私は考えている。

PROFILE

松家 克

松家 克
Masaru Matsuie

1972年、武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、椎名政夫建築設計事務所に入所。
88年、ARX建築研究所を倉林憲夫、新井国義と共同創設。
2011年より、建築専門家集団「ARX+(アークス・プラス)」代表。
武蔵野美術大学理事、武蔵野美術大学評議員、
ArchiFuture実行委員長、『ディテ-ル誌』(彰国社)編集委員。

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