アーキテクト・エージェンシーがお送りする建築最先端マガジン

Architect's magazine

MAGAZINE TOP > BIM > NTTファシリティーズ

保有全施設の建築・設備情報をBIMに置き換えるプロジェクト。「 ライフサイクルBIM」による、ファシリティマネジメント革命

保有全施設の建築・設備情報をBIMに置き換えるプロジェクト。「 ライフサイクルBIM」による、ファシリティマネジメント革命

NTTファシリティーズ

働き手が減るなかで、クオリティを下げずに効率化を追求する

前述したように、同社が14年に竣工した「新大橋ビル」では、BIMと建物の効率的な運用管理手法であるFMを紐づけて連携させている。BIMデータにビルの維持管理や運営に必要な情報を加えることにより、建物のライフサイクルコストが建物モデルによって〝可視化〞され、建物竣工前に効率的なビルの維持管理や運営を考慮した設計の検討が可能となる。建物の改修や設備の故障対応といった、将来的に発生するコストを早期の段階からシミュレーションできるというわけだ。BIMのメリットを最大限に生かし、建物のライフサイクルコスト削減を目指したプロジェクトであった。

同社では、この取り組みを他の施設に展開・導入するトライアルを進めており、より精度の高い情報の収集方法や最適化の手法を検討・実施しているところだ。設計監理の立場から、その陣頭指揮を執っているのが、NTTエンジニアリング部建築部門長の古畑順也氏である。

「20年近く前に設計図面がCAD化されましたが、同じように設計監理のツールをBIM化するだけであればそれほど難しくはありません。しかし、我々はBIMデータを全工程のサイクルで利用していくことを企図しています。設計BIMデータを、FM業務などにいかに効果的に提供できるか、一方で、FMなどの工程からどのようなデータを受け取れば設計監理の業務を効率化できるかといった、最適な連携のあり方を含めた検討を進めています。つまり、ライフサイクルマネジメント全般にわたった業務の効率化と品質の向上という2つの側面から、BIM化の最適ルールを模索しているのです」

現在は、あくまでもトライアルの段階。試行錯誤を重ねている状態のため、まだ期待どおりの効果は実現できていないというものの、「レールがいったん敷かれてその上を走り始めれば、現在より速いスピードですべてが決まっていくようになると信じています」と古畑氏は語る。

17年度から同社では、NTTグループ通信建物約1万棟の中からピックアップした約100棟の建物のライフサイクルBIM化を進めており、年度内に約100棟のデータBIM化を終える予定だという。そのほとんどは既存の建物であり、当初は「BIMは新築物件だけを対象にしたものではないのか、という声が社内からも挙がっていた」(野田氏)というが、既存のビル群をBIM化することによって、業務の効率化だけでなく、保有するストックの価値を高めることにつながる可能性もある。NTT以外の多施設保有企業からも、注目されるプロジェクトといえるだろう。

また、建設業界に限らず、少子高齢化が進展する日本ではあらゆる産業において人材確保が難しくなっている。ライフサイクルBIMの実現によって各業務プロセスの圧縮が可能になれば、人材不足解消にも寄与できる。課題は、BIM人材の確保だ。建築技術部の窪田将希氏は次のように語る。

「当社の場合、単なるBIMの知識だけではなく、そこにFMを組み合わせた〝BIM│FM〞連携の知見を持った人材を必要としています。現在の労働市場にそのような人材はほぼいないため、社内で育成するしかない。効率的な人材教育研修制度の開発も、私たちBIM活用ワーキングチームのミッションです」

文房具のように誰でも使えるツールにしたい

同社が推進しているライフサイクルBIMは、〝情報化〞〝効率化〞などといった手垢にまみれたキャッチフレーズで語られるべき類のものではないと思う。リーダーである野田氏をはじめ、BIM活用ワーキングチームに集う一人ひとりのメンバーは、「よりよい建物をつくりたい」という建築に携わる人間が有する〝本能〞を抱えながら、このプロジェクトの成功を本気で目指している。

「そもそも、私たちは〝設計屋〞なのです。身体に、『いい建物を設計したい』という本能が染みついています。優れた意匠や構造だけが、いい建物の条件ではありません。そういった意味で、我々は企画から設計、施工、FMまで、ライフサイクルすべてにおいて、『素晴らしい』といわれる建物を設計したい。その実現のためにも、あたかも鉛筆や消しゴムのように、誰もが簡単にBIMを利用できる環境と体制を、できるだけ早く自社内に整えたいですね」(野田氏)

固定ページ: 1 2

PROFILE

株式会社NTTファシリティーズ

株式会社NTTファシリティーズ

設立/1992年12月1日

代表者/代表取締役社長 一法師 淳

所在地/東京都港区芝浦3-4-1

グランパークタワー

http://www.ntt-f.co.jp/

野田一路

1988年、九州大学大学院工学研究科建築学専攻修了後、

NTTファシリティーズに入社。

現在、総合エンジニアリング部建築設計部門長。

古畑順也

1997年、東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻修了後、

NTTファシリティーズに入社。

現在、NTTエンジニアリング部建築部門長。

松岡辰郎

1989年、日本大学大学院理工学研究科建築学専攻修了後、

NTTファシリティーズに入社。

現在、建築技術部建築技術担当 担当課長。

窪田将希

2005年、東海大学大学院工学研究科建築学専攻修了後、

NTTファシリティーズに入社。

現在、建築技術部建築技術担当。

CATEGORIES
すべて
セミナー情報
Architect's Opinion
new
uncategorized
注目の大学研究室
Special Report
ある建築家の新境地
BIM
ニュース
新境地
新進気鋭
建築家の肖像
事務所探訪
設計部最前線
クライアントの視点
登録企業と登録者の声

あなたにおすすめの記事

歴史と地域に学ぶ設計姿勢を貫き95年。常にベストな解決をクライアントに約束

May 31st, 2019 - BIM

安井建築設計事務所 東京事務所 設計部

歴史と地域に学ぶ設計姿勢を...

第1回 ビムノバ

Sep 7th, 2017 - BIM

~BIMオペレーターからどこに向かえばい...

第1回 ビムノバ

まずは2020年に、設計を完全BIM化!<br/>その先のDX革命のトップランナーに

Nov 22nd, 2019 - 設計部最前線

大和ハウス工業 技術本部 BIM推進部

まずは2020年に、設計を...

日本の建築業界のBIM化を促進、発展、けん引するコンサルティングチーム

Dec 10th, 2015 - BIM

ペーパレススタジオジャパン

日本の建築業界のBIM化を...

人気のある記事

アーキテクツマガジンは、建築設計業界で働くみなさまの
キャリアアップをサポートするアーキテクト・エージェンシーが運営しています。

  • アーキテクトエージェンシー

ページトップへ