アーキテクト・エージェンシーがお送りする建築最先端マガジン

Architect's magazine

MAGAZINE TOP > プロデュース部門最前線 > T u r n e r & T o w n s e n d

建設業界のシナジー

建設業界のシナジー

T u r n e r & T o w n s e n d

世界最大の事業用総合不動産サービスプロバイダー「CBRE」のプロジェクトマネジメント部門と、建設コンサルティング大手の「Turner & Townsend」。それぞれの日本法人の事業統合が2025年4月に行われた。両社の日本法人で、その舞台裏と統合によって生まれるシナジーについて詳しく語っていただいた。

事業統合を経た新体制の事業領域

〝世界最大のプロジェクトマネジメント・コストマネジメントカンパニー〟は日本の建設業界をどう変えるのか。

─まずは、あらためてCBREとの事業統合を経た新「Turner&Townsend(ターナー&タウンゼント、以下『T&T』)」の事業内容を教えて下さい。
梶浦:分野としては、BtoCの住宅以外、ほぼすべての建設分野に関わっています。割合として非常に大きいのが、オフィス&リテールと言われる、いわゆるオフィスや商業施設。それからデータセンターやホテル、あとは工場などの生産系、物流倉庫、教育系の施設、それらを複合した都市開発なども手掛けております。

─両社は事業統合にあたって、業務範囲が被ってしまって混乱するようなことはなかったのでしょうか?
パリジェン:事業統合する以前、CBREのプロジェクトマネジメント部門(PJM)ではオフィス&リテールが6割程を占めていましたよね。一方、T&Tは5割ほどがデータセンターでした。

梶浦:実は両社の事業領域で被っている部分は非常に限定的だったんです。むしろ今回の統合によってビジネスポートフォリオのバランスが整い、より包括的なサービスが提供できるようになりました。─では、それらの分野で具体的にはどのようなサービスを提供しているのですか?

梶浦:サービスとしては、プロジェクトマネジメント(PM)、コストマネジメント(CM)、複数のプロジェクトを同時にマネジメントしていくプログラムマネジメントのほか、それ以外の多様な建設に関するコンサルティングサービスを提供しています。また、オープンブックによる建設請負工事も手掛けています。

我々は、例えばオフィスを建設したいお客様から依頼を受けて、お客様と建設会社など関係業者の間に立ち、第三者として建設に関わっていく立場ですね。

まずPMは、お客様の要望をまとめ、その意思決定をサポートしながら、適切なチームを組んでいきます。「いくらかかるのか」というコストベンチマークの提供、スケジュールやリスクの検討、プロジェクトの方針、ゼネコンやサプライヤーの選定と調達、さらに資金調達のサポートなども業務に含まれます。このように、プロジェクト全体をお客様の立場でマネジメント(管
理)するのが、PMです。パリジェン CMは、品質・コスト・スケジュールというトライアングルの中で、特にコストと契約関係を守る役割を担います。初期段階から「この予算で何ができるか」を検討し、時には設計を調整しながらプロジェクトの実現をサポートします。最終的にはPMもCMも、案件のスケジュール、コスト、リスク面での「最適化」を目指しているという点は同じですね。

─事業統合を通じて、PMやCMがより強化されていると感じる面はありますか?
梶浦:はい。まずこの事業統合により、この規模のPM・CMチームを抱える会社は日本において唯一無二といえますし、この二つの機能は非常にシナジー効果が高くより高い付加価値のサービス提供が可能になりました。国内のお客様だけでなく、海外のお客様にもサービスを提供できるという点においても、この市場における優位性となります。又、私はCBREから来たという形ですが、T&Tにスケジューリングを専門的に行うファンクション(機能・組織)がある点も非常に大きな強みだと感じています。一般的にはプロジェクトマネージャーが工程のモニタリングや最適化を行いますが、T&Tには「スケジューラー」という専門家がいて、最新のツールを使って工程を透明化していくんです。これによりスケジューリングの精度もあがりますし、遅延リスクの低減や、遅延した際の原因の特定・分析・対応が可能となります。その他にもこれまで両社が培ってきたノウハウや経験があり、全ての面でコンサル機能が強化されています。

ターナー&タウンゼントは、60 カ国以上に 22,000 人以上の従業員を擁するグローバルなプロフェッショナルサービス企業。不動産、インフラ、エネルギー、天然資源分野のクライアントと連携し、世界中の市場において、大規模プログラム、プロジェクト、コストおよびコマーシャルマネジメント、ネットゼロおよびデジタルソリューションを専門としている。
アライブロパンス東葛西。東京都江戸川区東葛西に位置する東西線葛西駅徒歩23分の賃貸物流倉庫。CBREが取り扱う大型貸し倉庫で、事業用不動産として物流拠点に最適な立地に建設されている。

日本の建設業界でもPM・CMの存在感が増している

クライアント・関係各社からプロジェクト成功のために求められるパートナー企業へ

─施主と施工者の間に、第三者としてT&Tのような立場の企業がいるという関係性は近年増えているのでしょうか?
パリジェン:特に最近そうですね。T&Tの日本法人を立ち上げた6年前は、多くのプロジェクトでお客様がゼネコンに発注して終わりという感じでした。そういう環境のもと当時はT&Tが入る必要があるのか問われることもありました。しかし最近ではプロジェクトの実現、最適化のため「一緒にやりましょう」という反応になってきています。

梶浦:この数年でマーケットのトレンドも変わってきました。私たちは、もちろん施主側に雇われているのでそちらが軸足ではありますが、不動産鑑定士が第三者として投資家にアドバイスできるように、私達もコストや様々な課題に対して第三者としてアドバイスができるんです。

─近年、PMやCMのニーズが高まっている背景には何があるのでしょうか。
梶浦:様々な要因があります。まず、日本へのツーリストの回帰や生産拠点の国内シフト、そして円安などを背景に海外からの投資マネーが集まり、日本の建設市場が活発化しているという理由があります。

一方で、建設費の高騰によって「このコストは高すぎないか」と不安になるお客様に対し、我々が最新の市場データに基づいた第三者的な視点で適正なコストを示すことができます。この中立性が、事業者様からもゼネコン様からも需要があるのです。

パリジェン:イギリスやアメリカでは以前からPMやCMの存在が「当たり前」のものとして受け入れられています。海外からの建設投資が増える中で、「なぜ日本にはPM・CMがいないのか」という声が大きくなり、マーケットが広がってきたという側面もありますね。─例としてですが、仮にPMやCMが入らなかった場合、海外の投資家と日本の建設会社が一緒に仕事をすると、どういう点でうまくいかないことが多いのでしょうか?

梶浦:一つは商習慣の違いがあります。たとえば日本だと、ある程度お互いの信頼関係を軸にプロジェクトが進行するという側面がありますが、海外では契約を軸に進行する。そういう商習慣の違いをお互いに理解していないと、関係者間での信頼関係は構築されず、プロジェクトは上手くいきません。

日本のやり方と海外のやり方、どちらが優れているというわけではありませんが、その違いを理解し、最適なマネジメント手法を提供できる点に価値を見出して頂いていると思います。

昨今の物価高騰、人口減少といった様々な要因で、日本のプロジェクトも遅れがちになってきています。品質を守りながらスケジュール、コストの最適化をどう実現するかが、我々の使命だと思っています。


❶モンテディオ山形新スタジアム。天童市に建設される約158億円の民設民営スタジアム。2025年秋着工、2028年夏開業予定で、山形の地域活性化拠点を目指す。❷❸ヒルトングランドバケーション ザ・ベイフォレスト小田原。相模湾と箱根の丘陵地に位置する10棟の2階建てコテージ型ヴィラ。(撮影/ナサカ&パートナーズ)❹ジャイアンツタウンスタジアム。東京都稲城市のよみうりランド隣接地に2025年3月開業した読売ジャイアンツファーム新球場。

マルチカルチャーを武器にさらなる成長を誓う

第三者としてマーケットの状況をフェアに判断し、お客様の意思決定をサポートする。

─ほかに、統合のメリットについてもぜひ教えて下さい。
梶浦:元々両者ともに多様なメンバーがいるチームだったのですが、統合後は社内に25カ国以上のルーツを持つメンバーがいる状態になりました。多言語対応ができるということだけではなく、マルチカルチャーへの深い理解が、海外のお客様と日本のゼネコンとの間の「ブリッジ」として機能する上で大きな強みになっています。また、社員がこの多様性を受け入れ、誇りに思える環境こそが最大のメリットだと感じています。

─では最後に、今後の展望をお聞かせください。
パリジェン:かつてゼネコンが絶対的な力を持っていたアメリカで、人材不足を機に業界構造が変わり、PMやCMが台頭したように、日本も今まさにその変革期にあります。私たちの本社はイギリスにあるのですが、そこには3000人の社員がいるんです。日本の人口や建設投資はイギリスの倍以上なので、「日本は6000人にメンバーがいる規模にならなきゃいけないよね」と言われています。

梶浦:今までゼネコン一択だった業界に、我々が新しい選択肢を提示していくという役割は、ますます大きくなってくると思っています。日本の建設業界に変革を起こし、ニーズに沿った役割を果たしながら、この業界の益々の発展に寄与する企業を目指します。


出光興産株式会社と昭和シェル石油株式会社の経営統合に伴う本社オフィス集約移転プロジェクトをサポート。2018年7月から3年間、東京都内4カ所に分散していた本社機能を2020年12月、大手町Otemachi Oneタワー6フロア約6,000坪に集約移転。コロナ禍での制約下でも総合的なソリューションを提供し、スケジュール通り完了した大規模統合移転事例。
PROFILE

ターナーアンドタウンゼント
T u r n e r & T o w n s e n d

ターナー&タウンゼントは、60 カ国以上に 22,000 人以上の従業員を擁するグローバルなプロフェッショナルサービス企業。不動産、インフラ、エネルギー、天然資源分野のクライアントと連携し、世界中の市場において、大規模プログラム、プロジェクト、コストおよびコマーシャルマネジメント、ネットゼロおよびデジタルソリューションを専門としている。

アライブロパンス東葛西。東京都江戸川区東葛西に位置する東西線葛西駅徒歩23分の賃貸物流倉庫。CBREが取り扱う大型貸し倉庫で、事業用不動産として物流拠点に最適な立地に建設されている。

梶浦久尚|h i s a n a o k a j i u r a

代表取締役

日系大手ゼネコンからキャリアをスタートし、CBRE(株)プロジェクトマネジメント部門北アジア統括責任者、兼CBRE CM Solution(株)代表取締役社長を歴任し、この度ターナー・アンド・タウンゼント株式会社の代表取締役に就任。国際空港をはじめ国内外の建築案件に28年以上携わり、7カ国での駐在経験。多国籍の顧客が抱える、技術的・契約的要件や地域的要素が複雑に絡む大型プロジェクトにおいて、豊富な経験を有する。又、英国仲裁人協会フェローでもあり、国際建設紛争や契約・建設法に関しても深い知識を有する。

パリジェン稔|J i n P a r i s l e n

ディレクター

ターナー&タウンゼントの北アジアデータセンター統括責任者。6年前に設立された東京オフィスにシニアコンサルタントとして入社し、コストマネジメント統括、東京統括を経て現職。データセンター、半導体、オフィス内装、製造業など幅広い分野での経験を持ち、企業の成長に貢献。

アーキテクツマガジンは、建築設計業界で働くみなさまの
キャリアアップをサポートするアーキテクト・エージェンシーが運営しています。

  • アーキテクトエージェンシー

ページトップへ