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【第18回】世界で高く評価される日本の建築デザイン。 この事実をもっと広く知らしめるべき

【第18回】世界で高く評価される日本の建築デザイン。 この事実をもっと広く知らしめるべき

東北大学大学院工学研究科 教授 建築史・建築評論家 五十嵐太郎

50年後、建築の歴史を振り返った人々は、「今から思えば、日本が“一流”でいられたのは、今世紀初めの十数年くらいまでだったなあ」と嘆息することになるのではないか。私は、真剣にそんな危惧を抱いている。

前回まで、現代日本は、デザイン性の高い建築を許さない同調圧力のようなものに覆われている、という話をした。その結果、必然的に起きることの一つが、「才能の海外流出」である。実際、伊東豊雄氏や妹島和世氏のような世界的建築家のメインプロジェクトは、日本ではなく海外で展開されている。例えば、昨年オープンした台湾の台中メトロポリタン・オペラハウスは、都市間競争に打ち勝つための「アイコン建築」の役割を期待された。設計したのは、本案件で新境地を切り開いた伊東氏だ。しかし、あの前衛的で造形性の高い建物を日本で設計するのは、困難だろう。デザイナーたちが、その能力を買ってくれる海外に軸足を移すのは、当然の成り行きなのだ。

ただし、そうした道が開けた先人たちは、まだいい。経済状況の悪化とともに、様々な面で建築デザインに対する“締め付け”が強まったことにより、今の若手はさらに厳しい状況に置かれている。

伊東氏らの世代はバブル景気もあったし、自由に公共建築のコンペに参加して腕を磨き、その力をアピールすることができた。そうやって、わりと自然に世界にもつながっていけたのだ。ところが、特に1990年代終わり頃から、このコンペのハードルが一気に上がる。できるだけリスクを取りたくないという思惑からか、行政によって「劇場を設計したことのない人間は、劇場のコンペには参加できない」といった類の縛りが課せられるようになった。結果、若いデザイナー、事務所は、新規参入自体が難しい状況になってしまったのである。

巨匠たちが“海外展開”を進め、一方で若手は国内の公共建築に触ることもできない。冒頭に申し上げた危惧は、この現実から導き出されたものにほかならない。

こうした危機的状況を打破するためには、日本の社会全体に、もっと建築に対する認識を深めてもらうことが必要だ。例えばニューヨーク近代美術館(04年のリニューアル、谷口吉生氏)、ルーブル美術館のランスの分館(妹島氏と西沢立衛氏のユニット)、ポンピドーセンターのメス分館(坂茂氏)といった、名だたる美術館の設計を手がけたのが日本の建築家たちであることを、日本人のどれだけが承知しているだろうか。日本の建築デザインに対する世界の評価は、かくも高い。しかし、肝心の日本国内でそれが理解されず、その結果として彼らに続く人材が育つ環境が損なわれれば、繰り返しになるが、凋落は避けられないと思う。

問題の根っこに社会的要因が横たわる以上、一朝一夕で解決できる課題ではない。私の問題意識としては、教育、それも初等教育の段階から、デザインに対する造詣を深める学びが、もっと必要ではないかと感じる。

学生にも“お願い”がある。私の研究室の卒業生もそうだが、設計をやったからといって、みんなが建築家になるわけではない。そのスキルを生かして異業種に進んだ人は、ぜひ建築の応援団になってほしい。デザインの素晴らしさ、奥深さ、そして必要性を積極的に社会に向かってアピールしていく役割を担ってもらいたいのだ。

PROFILE

五十嵐太郎

五十嵐太郎
Taro Igarashi

1967年、パリ(仏)生まれ。
90年、東京大学工学部建築学科卒業。
92年、同大学院修士課程修了。博士(工学)。
中部大学工学部建築学科助教授を経て、現在、東北大学大学院教授。
あいちトリエンナーレ2013芸術監督、
第11回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展日本館コミッショナーを務める。
『現代日本建築家列伝』(河出書房新社)、
『日本建築入門』( ちくま新書)ほか著書多数。

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