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建築家の思いを支え、常に新しい挑戦を志向。ニーズをはるかに上回る成果を導く仕事が喜び

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オーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ・ジャパン・リミテッド

独自の“技”で建築業界をリードする組織を紹介する本企画に、今回ご登場願うのは、アラップの4名のエンジニアたちだ。福岡県飯塚市に、とてもシンプルな外観の寺院の納骨堂が建てられたのは、2014年夏のこと。だがそこには、これからの建築に一石を投じるであろう、驚くべき技術が秘められていた。キーワードは“風”、そして“光”である。

電気を使わず、明るく涼しい建物を――。その要望に応えた技術

構造、設備、ファサードの専門家であるこの4人が集合し、かかわったのが、福岡県飯塚市の明圓寺というお寺の納骨堂建設プロジェクトだった。設計したのは福岡に活動の拠点を置く建築家の古森弘一氏である。「今考えても、不思議な出会いでしたね」と笹谷氏は述懐する。12年に、福岡のNPOが主催するチャリティーオークションに、佐々木氏、笹谷氏らをはじめとするアラッブのメンバーが、「当社と無料でプロジェクトの相談ができます」という「相談券」を出品したのが事の始まり。それを落札したのが、古森氏だった。

その“無料相談”は仕事に結びつかなかったものの、メンバーの実力を認識した古森氏は、翌13年の6月、納骨堂のアイデアスケッチを携えて、再び佐々木氏らの元を訪れる。

建物自体は、延床面積300平方メートル程度の、小ぶりのもの。ただし、古森氏の要請は“普通”ではなかった。奥村氏は言う。

「古森さんは、以前にも納骨堂を設計したことがありました。そして気づいたそうです。納骨堂というのは、お盆の時期しか“開か”ない。暑さだけ解消すれば、空調は要らないのではないか。かつ、昼しか使わないのだから、自然採光があれば照明も必要ないはずだ――。要するに、電気を使わずに、涼しくて明るい室内を実現した建物を設計したい、というお話でした」

採光だけ考えるのなら、例えば窓をたくさんつくればいい。だがそれは真夏の熱も呼び込む。矛盾する“品質”を満たすべく、建築家も含めたブレーンストーミングが始まった。

「最初は、屋根に煙突のようなものを並べて光を入れたらどうかとか、とにかく試行錯誤の連続。それこそ、専門を飛び越えた議論を重ねているうちに、菅が『日射を遮って、間接光が床に届くようにすれば、明るくて暑くない空間ができないか』とアイデアを出してくれた。それを基に設計を詰めていった結果、一つのかたちになったのです」(佐々木氏)

出来上がった建物の壁面には、窓が一つとしてない

出来上がった建物の壁面には、窓が一つとしてない。大きなガラスのトップライトで明るさを確保するのだ。トップライト下には木の格子梁が積層されていて、積層することによってできた深い屋根裏こそが、「エネルギーゼロ」機能の心臓部となり、透明な屋根から入る直射日光をカットする。さらに、屋根裏の独特な構造は、屋根裏に溜まった熱を、常時開けられているガラリ(換気口)から四方八方に換気できるため、涼しさを呼ぶ換気設備の役割も担っている。

「全面トップライトで“照らす”というのは、実は恐ろしいことで、普通にやったら夏場の室内温度は軽く40度を超えてしまうでしょう。しかし、この納骨堂は、外気温32度の時に、室内は26度という環境を実現しました。1300ルクスという明るさも確保して“この世のものとは思えない”空間を達成したんですよ(笑)」(菅氏)

ちなみに、「試行錯誤の連続」とはいったが、古森氏を含め、設計のベースを固めるために行った会議は2回ほど。打ち合わせを開始した半年後の13年末には実施設計が終わり、14年8月には建物の竣工に漕ぎつけた。

笹谷氏は、「わざわざ福岡から上京する古森さんのことを考え、会議では100%以上のアウトプットを出さなければと思いました。だから白熱した話し合いができたし、みんなのアイデアをうまく積み重ねていくことができたのだと感じています」と言う。

また菅氏は、「古森さんからは、『かつて設計した納骨堂に、ランドセル姿の小学生が友達を連れてお参りに来ているのを見た。そんなふうに子供が気軽に立ち寄れるような、とにかく明るい空間にしたい』というリクエストがありました。そんな思いを絶対に実現するのだという気持ちを、みんなで共有できたのが大きかった。結果的には梁を積層させるという屋根裏の構造が鍵になりましたけど、今考えても誰のアイデアだったのか、よくわからない最初に佐々木が言った、トータルアーキテクチャーの力としか言いようがありません」と語ってくれた。

14年夏に初お目見えした納骨堂を訪れた人たちは、建物にそんな仕掛けが施されているなど、知る由もない。最も驚くのは、見学に訪れる建築関係のプロたちだそう。プロジェクトチームが、不可能を可能にした証である。

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“特殊な建物”で培った技術を次につなげるために

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PROFILE

オーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ・ジャパン・リミテッド
設立 1989年5月
代表者 彦根茂
所在地 東京都渋谷区桜丘町24-4 東武富士ビル3階

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