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今の若手設計者に必要な実務教育

今の若手設計者に必要な実務教育

西沢大良建築設計事務所 代表/芝浦工業大学建築学部建築学科 教授

若者が育たない原因②(仕事の内容)は、前号で述べた原因①(年長者の行動)が解消された時に意味をなす。不気味なエイリアン(年長者)に囲まれたままの若者に、どんな仕事を任せたところで成長などしない。エイリアンの無害性を認識した若者だけが、初めて成長の入り口に立つ。

それでも「仕事の内容」が若者の成長を阻むことがある。それは「人生に希望を持てなくなる仕事」のことであり、いくら作業しても「成長できない仕事」のことである。ただし、この場合の“希望”や“成長”は、かつて言われていたものとは微妙に違う。

今日の若者のなかには、組織や年収が生き甲斐だった昔の若者のような人々もいるとはいえ、そうではない若者が膨大にいる。おそらくその理由は、組織や年収が良好だったはずの親たち世代が不本意な人生を送ったように見えるからであり、むしろそれらは人生を支えてくれない儚いものに思えるからだろう(ゆえに組織への忠誠心や出世欲といったトピックは、訳のわからぬエイリアン用語にしか聞こえない)。彼らが職場に来るのは別の“希望”のためであり、後述するような「成長できる仕事(と環境)」にありつけるかどうかを見届けるためなのだ。

何度も言うように、彼らはエイリアンが跋扈する不穏な世界で育ち、エイリアンを避けて生き延びるために、数々の行動を断念しながら生きてきた。かつての若者のようにやりたいことをやり尽くして社会に出るのではなく、その多くを断念したあげく社会に出る。ゆえに「できないことができるようになる」(成長する)ことに、極めて純粋な興味を抱いている。彼らは子供のような“成長意欲”を持ち合わせているのであり、“成長”することが当面の“希望”なのである。

このことは、幸いなことに設計業における実務教育の目標に合致するだろう。ゆえに彼らの仕事を差配する年長者は、決して彼らの能力以上の仕事を無茶振りしたり、逆に能力以下の安易な仕事ばかりを任せてはならない。それらは若者の“成長”が不要な他の業界における悪癖であって、それを模倣してしまえば無能な設計集団が出来上がる。設計業の若者を“成長”させるのは、常に「能力的にできるかできないかギリギリの仕事」だけなのだ。そうした“ギリギリの仕事”を、個々の若者の能力に合わせて個別に差配することが、年長者のなすべき仕事である。

もう一つ、年長者がなすべき仕事がある。大学で設計教育を行い、事務所で実務教育を行ってきた経験から言うと、大学では逆立ちしてもできないことを、職場の実務教育の中心に据えるべきだと思う。それは実務の過程で出会う職場の外の“人間”たち(事業主・施工者・ユーザーなど)による教育だ。これを行うには、 A)若者に担当物件を任せること(経験者がサポートを行う)、 B )当人の設計案を組織の外の“人間”へ幾度も説明させること、さらに C)当人が現場に通って建物を竣工させること、が必須である。

いつの時代の若者も、この経験なくしてまともな設計者へ“成長”することはない。職場の外の“人間”の指摘を通じて、人は初めて自案を客観視するようになり、自案がもたらす問題をシリアスに捉えるようになる。その意味では、同じ職場の特定の年長者ばかりへプレゼンさせる体制や、能力以下の補足資料ばかり作成させる体制は、若者の成長を阻むだろう。その体制は組織や年長者にとって都合がいいだけで、若者には“成長”よりも叱責が必要だと言わんばかりの、エイリアン思想の産物だからである。

PROFILE

Taira Nishizawa

Taira Nishizawa
西沢 大良

1987年、東京工業大学工学部建築学科卒業後、入江経一建築設計事務所入所。93年、
西沢大良建築設計事務所設立。2013年より芝浦工業大学教授。AR-AWARDS最優秀
賞(英国)、JIA新人賞、ART&FORM最優秀賞(米国)など受賞多数。近著『現代都市の
ための9か条 近代都市の9つの欠陥』(オーム社)。一級建築士。

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