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【第22回】建築士会が担うべき未来の社会貢献とは? その方向性を常に自問自答し続けている

【第22回】建築士会が担うべき未来の社会貢献とは? その方向性を常に自問自答し続けている

一般社団法人 東京建築士会 専務理事 鴛海浩康

私が大学の建築学科を卒業したのは、1977年のことだ。ところが、折も折、石油ショックが日本経済を直撃し、内定が決まっていた建設会社3社が、次々に倒産するという事態に見舞われる。当時最先端の「ドーム建設」に携わりたいという夢は、スタートでつまずいてしまった。途方に暮れた末、大学の先生の勧めもあって職を得たのは、雑誌『新建築』の編集だった。もともと同じ日大の芸術学部にも合格していたほど写真が好きだった私の腕前を、その先生は評価し、卒論もそれが生かせるものにするよう、アドバイスしてくれていた。

 編集の仕事は面白かった。ちょうど安藤忠雄さんが駆け出しの頃である。例えばそういう巨匠たちのデビュー当時をまざまざと見ることができたのは、今にして思えば、得難い経験だった。その時築いた人脈は、今の仕事にも大いに生きている。だが、いかんせん当時の雑誌づくりは、あまりに多忙で時間も不規則に過ぎた。健康面で不安を覚えた私は、3年でそこを辞め、たまたまツテのあった今の職場に転職したのである。そこから勉強を始めて、一級建築士の資格を取ったのは、40歳くらいの時だった。

 そんな経歴を持つ私が専務理事になって、3期目、5年目に入ったところだ。ちなみに、ずっと東京都職員のOBが務めてきたこのポストに、生え抜きの人間が座ったのは、私が初めてである。

 東京建築士会というのは、その名のとおり建築士で構成される一般社団法人で、会員には神奈川、千葉、埼玉などの近県から通って東京で勤務する人たちも含まれる。弁護士会などと違い、任意加盟団体で、一級、二級合わせて建築士が東京では15万人ほどいるともいわれるなか、現在の会員数は約6000人。うち9割以上が一級建築士となっている。

 47都道府県にある建築士会の重要な業務の一つとして、建築士免許登録事務がある。2005年に発覚した構造計算書偽造事件を背景にした建築士法改正により、建築士会が指定登録機関として建築士免許の申請受付窓口に指定された。建築士免許新規登録をはじめ、建築士免許にかかわる各種申請を建築士会が行う。

 設計事務所で働く建築士には、3年度毎に一度の定期講習も義務付けられた。それも含めて、建築士向けの様々な講習を実施するのも建築士会の業務だ。東京では年間50回程度実施しており、直近では、今年4月の宅地建物取引業法改正に伴う既存住宅状況調査技術者講習を昨年から開始して、すでに約1300人が受講している。

 ユニークなところでは、「住宅建築賞」「これからの建築士賞」といったいくつかの“アワード”を独自に設け、企画、運営を行っている。35年ほどの歴史を持つ前者は、すでに新人建築家の登竜門として定着しており、妹島和世さん、西沢立衛さんといった人たちを輩出した。また後者は、建築設計にとどまらず、都市と建築にかかわる活動において、設計監理、施工、行政、教育、まちづくり、発注など、建築士としての多様な立場を通じて行った“未来につながる社会貢献”に対して、それを担った建築士やグループを顕彰するものだ。

 構造計算書偽造事件やリーマンショックを機に、建築士の置かれる環境は激変した。先行きも不透明だ。このような時代に建築士会として何ができるのか、常に自問自答の日々である

PROFILE

Hiroyasu Oshiumi

Hiroyasu Oshiumi
鴛海浩康

1977年、日本大学理工学部建築学科卒業後、建築雑誌社の編集者に。
79年、一般社団法人東京建築士会に入社。
各種講演、講習など建築士資格研鑽事業、顕彰・展示会事業の企画・
立案、実施を担当する。2013年より専務理事に。
関東甲信越建築士会ブロック会常務理事、公益財団法人東京都防災・
建築まちづくりセンター理事、全国設計事務所健康保険組合選定理事ほか。
一級建築士。

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