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近現代建築を技術・美術の側面から研究。文化遺産としての保存活用、建築アーカイブに注力しながら、新たな建築史を紡ぎ出す

近現代建築を技術・美術の側面から研究。文化遺産としての保存活用、建築アーカイブに注力しながら、新たな建築史を紡ぎ出す

東京理科大学 理工学部 建築学科 山名研究室

フランスで学んだ建物は〝文化遺産〞

2016年7月、東京・上野にある国立西洋美術館が世界文化遺産に登録された。東京理科大学の山名善之教授は、この難プロジェクトの立役者だ。

山名教授によれば難しさは3つ。古建築ではなく近現代建築である。文化遺産自体よりもル・コルビュジエという建築家の名前が先行している。また西洋美術館を含む7カ国17点のル・コルビュジエ建築群が対象であり、複数の大陸にまたがる世界遺産登録は前例がなかった。

事実、過去15年にわたって2度、世界遺産登録を見送られた経緯もある。3度目の正直はなぜ果たされたのか。

「20世紀で最も重要とされる建築運動である〝モダンムーブメント〞は、一つの文化現象が国境を越えていく〝潮流〞でもありました。この潮流そのものを世界遺産としてとらえ直し、ル・コルビュジエ建築の重要性を訴えたのです」

1990年代初頭、山名教授は設計事務所での実務を経てフランスの建築学校に留学した。そこで驚いたのは、新築を前提に建築教育が行われているわけではないということ。彼の地では医学同様、古い建物を診断、治療し現代でも使えるようにするのがあたり前。それも記念碑的な古建築に限らず、近現代の建物も対象だった。

「当時の日本はバブルで〝スクラップアンドビルド〞の時代。フランスでは『よく国がもつね』と言われました。建築はストックしていくもので、近現代建築も文化遺産的な価値を備え得るものもある。建築に対する考えが変わりました。建築は単に経済的活動における生産物ではなく文化であり、その積み重ねが歴史になる。そういう概念を日本にも広めたい――今に至るまで一貫して思っていることです」

以降、「実務的な視点で近現代の建築史を描くことに興味を持った」山名教授は、設計実務に加えて建築史の研究に没頭。また近代建築の記録と保存を行う国際学術組織DOCOMOMOのメンバーとしても活動を続けることになる。

帰国は02年。引き続き、大学での研究活動と設計事務所運営の二足のわらじを履いた。バブル崩壊を経て、日本でも近現代建築に文化遺産的な価値を認める空気が少しずつ醸成されつつあった。「そこで自分が重宝された」と山名教授は言う。

「日本は分野ごとに縦割りで、建築計画の人間と建築史の人間が横断的に議論する機会があまりありません。すると『古い建物を残さないといけない』といっても具体的な処方箋が出せないんですね。そういう時、建築史と実務の2つの分野を知る自分が出ていくわけです」

国立西洋美術館の世界遺産登録を実現

西洋美術館の世界遺産登録においても〝2つの分野を知る〞山名教授だからこその役割が期待されたのである。世界遺産の登録には、ユネスコの諮問機関である国際記念物遺跡会議(ICOMOS)の審査を経る必要がある。山名教授はここのメンバーでもあり、フランスをはじめとする共同推薦国のメンバーでもあるという立場にいた。

「ICOMOSの20世紀遺産の国際学術委員会ISC20Cは英語で会議をする。一方ル・コルビュジエの推薦側はフランス語を話す。アングロフォンとフランコフォンでは文化財に対する考え方も違い、それが世界遺産登録を難しいものにしていました。しかし私は両方に足を突っ込んでいる分、それぞれ相対化して話ができる。そこで具体的に話がまとまって登録に至ったというわけなのです」

特異な建築家人生だといえるだろう。「正直いって、なりゆきですよね」と笑う山名教授だが、意思決定のたび、考えていたことがある。

「ほかの人ができることはやらないようにしています。同じことをやる人が集まると、そこで領域争いが起こる。そうなる前に、自分は手を引こうと」

国立西洋美術館の一件以来、世界遺産関連の仕事が続いている。国内では、国立代々木競技場の世界遺産登録を目指すプロジェクトが動き始めた。

「実は、西洋美術館を世界遺産にしようとしていた頃、海外の著名な建築家によく言われたのは、『代々木のほうが先だろう、順番を考えろ』(笑)。それもそうだなと。そんなわけで、今は積み残した宿題に手を付け始めた感じなんですよ」

PROFILE

教授 博士(美術史学) 山名善之(やまな・よしゆき)

教授 博士(美術史学) 山名善之(やまな・よしゆき)

1990年、東京理科大学工学部建築学科卒業。

香山アトリエ/環境造形研究所、

仏パリ・ベルヴィル建築大学DPLG課程、

仏パリ大学パンテオン・ソルボンヌ校博士課程修了。

仏アンリ・シリニア・アトリエ、

仏ナント建築大学契約講師などを経て、

2002年から東京理科大学勤務。

ICOMOS(国際記念物遺跡会議)、

近代建築保存の国際学術組織DOCOMOMOのメンバーとして活動。

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