安井建築設計事務所 東京事務所 設計部

他社に先駆けてBIM活用を開始
安井建築設計事務所は、昭和初期のモダニズム建築を代表する大阪ガスビルなどを設計した安井武雄氏が1924年に創設。今年95周年を迎えた。
サントリーホール、東京国立博物館平成館などの文化施設をはじめ、病院、商業施設など、幅広い分野の建築設計を手がけている。
1人の建築家が始めた組織設計事務所として、国内最長といわれる歴史を紡いできた同社。時代の流れを見極め、常に新たな切り口を設計に取り入れる柔軟かつ高品質の仕事が、クライアントから選ばれ続けてきた理由だろう。BIMの活用も、いち早く取り組んでいる。国内では2009年がBIM元年と言われるが、同社の導入開始は07年だった。以降、BIMが条件のプロジェクトが年々急増しており、その先行者メリットを存分に発揮している。
現在、同社では基本設計の約90%、実施設計の約70%をBIMで行っている。また、BIM活用に積極的な点が新卒学生や転職志望者から支持され、採用活動にも効果をもたらしている。

BIM導入後、プロジェクトの進行において意匠・構造・設備の連携が深まり、設計品質の向上と同時に大きな効率化がもたらされた

自社だけではなく、BIMの活用はクライアント側にもメリットを提供。
「BIMでの設計は、実施設計段階の要件を基本設計時にまとめる必要があります。それが『フロントローディング』という手法につながりました」
と東京事務所長の村松弘治氏は語る。
プロジェクトの早い段階で徹底的に条件を絞り込んだ設計を行うフロントローディングは、刻々と変化するオーダーに柔軟に対応する基本設計重視型の設計手法。従来のシーケンス型ではなく、意匠・構造・設備が並行して設計を進めるコンカレント型プロセスを取ることで設計期間の短縮を図り、リスクヘッジに貢献。コストや技術的な問題は工事進捗後の発覚が多いが、後工程になるほど改善が難しい。それらを事前に把握することで手戻りが減り、結果、設計品質が高められるのだ。

新たな時代を見据え、弛まぬ探求を継続
新たな時代を見据え、弛まぬ探求を継続

BIM活用により、ストックマネジメントという発想も生まれた。

「我々は設計監理以外の業務へのかかわりが希薄だったかもしれません。しかし、少子高齢化が進む今、建築のストックは増え続けます。建てて終わりの時代から、ストックマネジメントを重要視する時代になっているのです」

今後、建築業務だけを行う設計事務所が淘汰されることも予想される。同社は、次代の循環型社会を見据え、建物のライフサイクル全体をコンサルティングする事業体となることを目指しているのだ。

「設計監理は、長く続く建物のライフサイクルの入り口業務にすぎません。設計に加えてプロパティストックマネジメント業務を行うことにより、将来必ず行われる大改修や建て替えなどをトータルに引き受けることができます。数年前から設計監理を超えたコンサルティング業務の確立を進めています」

また、同社は環境に配慮した設計にも積極的に取り組んでいる。佐賀県鳥栖市に建設した久光製薬ミュージアムでは、建物の運用段階でエネルギー消費量を概ねゼロとする「ZEB(NetZero Energy Building)」を取得。環境への取り組みをまとめる環境室をはじめ、意匠・構造・設備の各部署がコラボレーションした案件だ。

「当社では環境融合デザインと呼んでいます。特に公共施設は環境配慮型の建物を求めていますし、多くの企業も、環境配慮や社会貢献を企業価値や利益につなげる経営戦略を重視しています」

伝統をつなぎ、革新的な技術を積み上げることで確固とした基盤を築く。そして到来する新たな時代を見据え、弛まぬ探求を続ける姿勢が、さらなる信頼感の醸成につながっていく。
クライアントが常に新しい価値を希求するのは当然です。我々は、どんな時代となっても、それらのご要望にしっかり対応できる建築設計事務所として姿を変えながら、今後も成長し続けていきたいと思っています」

PROFILE

専務執行役員 東京事務所長
村松弘治
むらまつ・こうじ
1982年、武蔵工業大学(現東京都市大学)工学部建築学科卒業。
88年、安井建築設計事務所入社。
2006年、東京事務所設計部長。
11年、執行役員東京事務所副所長設計部門総括。
14年、常務執行役員東京事務所長。
19年より現職。
代表作品に、有明パークビル・東京ベイ有明ワシントンホテル、
サントリー東京新社屋、北本市庁舎などがある。一級建築士
株式会社安井建築設計事務所
東京事務所/東京都千代田区平河町1-3-14
https://www.yasui-archi.co.jp/
1924年創業。東京国立博物館平成館など文化施設をはじめ、庁舎、スタジアムなど、広範にわたる設計に携わる。「意匠設計用BIMテンプレート」を発行するなど、BIMの普及にも貢献している。