日本の建設業界では、設計も施工段階においても、まだ2Dの図面が幅を利かせる。そんななか、施工現場へのBIMの活用で世界トップレベルの実績を築くのが、グローバルBIM(GB社)である。例えば、施工計画を3Dで可視化する独自開発のBIMアドオンソフトウエア「smartCONPlanner」は、大手ゼネコンを含む他の建設会社でも導入が進んでいる。ただし、同社の〝BIM戦略〞は、「建物をつくり管理する」だけにとどまらない。視線の先にあるのは、社会インフラなどとのデータ連携をベースにした、スマートシティ構築への貢献だ。

施工を中心に据えた世界でも稀なBIM専業企業

同社は、2017年10月、鹿島建設とBIM専業の沖縄デジタルビジョンが経営統合して誕生した。デジタルビジョンの社長を務めていた吉田敬一郎事業本部長は、こう経緯を語る。

「私たちが県の誘致もあって沖縄にBIMセンターをつくったのは、2010年です。BIM技術者を現地採用して設計支援などの業務に携わるなか、13年に鹿島建設から業務提携の話がありました。『鹿島の案件を担当すれば、急速な技術の進歩が期待できる。BIM技術者にも地元の会社では経験できない仕事を提供できるのではないか』と考え、14年に従来のセンターに加えて、鹿島建設沖縄BIMセンターを立ち上げたわけです」

一方、鹿島建設でBIMの普及に取り組んでいた矢島和美・GB社副社長(鹿島建設建築管理本部本部次長)は、13年に初めて現地に視察に出向き、衝撃を受けたという。

「その当時、BIMといえば、まだ海外にアウトソース、というのが主流でした。日本語の話せるメンバーが何十人もいるBIMセンターなんて、誰にも発想できなかった(笑)。すぐに、一緒にやろうと思いました」

そうして設立された同社は、現在専従者約50名、鹿島建設との兼業者を含め約60名の体制。東京本社、名古屋営業所、沖縄事業所の国内拠点に加えて、ベトナム、韓国、フィリピン、インド、セルビアのパートナー企業などと連携し、世界規模のBIMモデリング体制を確立している。

「このようなBIM専業の会社は、日本では唯一、世界でも珍しい」(矢島氏)存在だ。

ところで、多くの場合、設計部門が旗を振って進めるBIMの導入を、同社は施工現場での活用をメインに位置付けて進め、そのことが同社の地歩を確固たるものにする要因ともなった。

「私が施工部門の出身で、設計の進捗を待っていられなかったから」と矢島氏は笑うが、現場にBIMを導入すれば、施工図作成の省力化など目に見える効果は大きい。施工部門が主導するBIMならば、他社設計にも応用が可能になるというメリットもある。

 

その切り口から展開する同社の事業は、主に4つの柱からなる。

「プロジェクトにかかわる全員が、BIMの活用により最適な決定を下すことができるような協業形態の構築をサポートするIPD推進支援や、BIMの推進手法などのコンサルティングを行っています。さらに我々の最も注力しているのが、BIMプロジェクトを受託するモデリング業務。ただモデルをつくるだけではなく、それをどう活用すべきか、まで踏み込んでフォローするのが当社のやり方です。加えて当社では、同業他社に向けたオリジナルのBIMソフトウエアの販売も行っています」(大島努営業部長)

 

鹿島建設にとって、このGB社設立の効果は絶大で、同社の現場は、15年度から100%BIM適応になった。つれて経常利益も大きく伸びている。

「BIM化による施工現場での作業効率化、コスト削減に少なからず寄与しているのは、間違いないでしょう」と矢島氏は言う。

業界の発展のため独自開発のソフトをあえて〝公開〞

こうした同社の躍進を支えたのが、13年に矢島氏が開発し、社名にもなったBIMプラットフォーム「Global BIM」である。「ARCHICAD」(グラフィソフト社)を基幹CADに、そのデータの管理ややり取りを、クラウドをベースに行うのがポイントだ。それにより、巨大化したデータが扱いづらくセキュリティ上も問題が多い、という通常のBIMサーバーを使ったシステムの弱点を克服した。

「物理的に離れた本社、支店、施工現場、協力設計事務所、さらには海外拠点などが一つのクラウドで〝結ばれ〞た、まったく新しいBIMのインフラです。強固なセキュリティとスピードが担保されていて、そのプロジェクトについて資格を持つ人なら誰でもWeb経由でアクセスし、データの閲覧や作成・変更ができる。海外のメンバーとも、机を並べているように仕事ができるのです」(大島氏)

 

ただ、問題も残った。ARCHICADを使っていない協力設計事務所などとは、〝机を並べる〞ことができなかったのだ。そこで新たに開発したのが、鹿島建設が保有するARCHICADのライセンスを同社経由で貸し出して協業することができる「GlobalBIM ver・2」だ。協力会社は、許可されたプロジェクトの作業時のみアクセスでき、データをダウンロードすることはできない、という仕組みを備えることで、セキュリティを確保している。このソフトのおかげで、名実ともにどこの誰とでもBIMを活用した協調作業をすることが可能になった。

新たなBIMプラットフォームを確立させた同社は、さらに鹿島建設で開発・運用されていた、施工検討を視覚化できるARCHICAD専用BIMアドオンソフトウエア「smartCON Planner」(SCP)の公開販売を17年8月に開始した。仮設計画の3Dモデルを素早く作成できるこのソフトを使えば、従来2D図面ベースで行われていた施工計画時の検討風景は、一変する。

 

例えば「現場で建機と建物が接触しないか」「クレーンは届くのか」といった確認が、画面を見ながらマウス操作一つでリアルかつスピーディにできる。施工計画の完全可視化は、プロジェクトにかかわる人間たちの情報共有も容易にする。その結果、計画の精度は上がり、検討時間の大幅な短縮も実現することができるのだ。

「2Dの図面は1人で描く。それを睨みながら、それぞれの関係者が、ああでもないこうでもない、と修正を加えていく従来のやり方だと、施工計画をまとめるのに1週間はかかりました。SCPなら、みんなが一堂に会し、バーチャルであたかも建物の中を覗いているかのごとく検討を進められますから、1日も必要ないでしょう」(矢島氏)

先の大島氏の言葉のとおり、同社はこのSCPを外部に販売している。

「『なぜそんなことをするのだ』という意見も、鹿島の社内にはありました。でも、建設業界がデジタル化、効率化していかないと、やがて全体が尻すぼみになってしまうのではないか、という危機感がありました。長い目で見れば、それが当社のためにもなるはずだ。ここで勝負はしない、という思いで〝公開〞したわけです」(矢島氏)

「多機能なBIM」の特性を生かし、〝未来のまちづくり〞を

「BIMは3Dだからこそ、お話ししたようなウォークスルー(仮想空間)プレゼンテーションを可能にし、設備との連携、干渉チェック、構造解析との連動、概算数量算出をはじめ、80種ぐらいの項目を検討することができ、膨大な建物に関するデータを蓄積できるのです」

と矢島氏は話す。しかし、「そうしたBIMには、すでにあまり興味がありません」と真顔で続ける。

「BIMは、単に建物をつくり管理するところから、竣工後の〝オペレーションフェーズ〞でのデータ活用に、活躍の舞台を移していく」という未来に視線を向けているからに、ほかならない。

そのオペレーションフェーズでターゲットに位置付けられるのが、モノをつなぐインターネット=IoT、ロボティクス、自動運転車、スマートシティなどとの連携である。

 

「BIMとのデータ連携というと、みんな違和感を持ったりもするのですが、それは誤解です。車の自動運転を例にとれば、公道を走っている時には、GIS(地理情報システム)データで制御できるものの、いったん民間の敷地に入ったとたん、そのシステムはシャットダウンされてしまう。そこから先は、BIMデータの守備範囲になるわけです。国際標準IFC(注:コラム参照)ベースのデータはIoTと親和性が高く、建物内のロボットを動かす試みも、すでに実現しています」

 

BIMによる設計、施工は、建築工事の工期短縮やコストダウン、さらには竣工後の建物メンテナンスなどに有効なだけでなく、その数が増えれば増えるほど、社会全体に有益なビッグデータを充実させていく、というわけだ。そうしたデータ連携技術の研究開発とともに注力するのが、国際戦略の一層の強化である。現在、南米にも拠点を設けるべく、アプローチを始めている。

 

「そうすれば、24時間、地球のどこかでモデリングのできる体制が整います。〝グローバル〞と名乗る以上、少なくともアジアでは一番メジャーな会社を目指したい」(矢島氏)

一味違ったBIM事業を展開する同社だが、「うちはまだできたばかりで、基盤づくりの段階にあります」と中野隆社長は言う。

「キーになるのは人材。未来に貢献していくに足る人を集め、育てていくのが、私の第一の使命だと思っています」

 

株式会社グローバル BIM
設立/2017年4月5日
代表者/代表取締役社長 中野 隆
所在地/東京都港区元赤坂1-3-9 K-Frontビル9階
https://www.global-bim.com/