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常に新しい時代の要請に応え、空間環境の創造とその価値のマネジメントに尽くす。<br/>そういう社会に貢献する建築家の価値は、永遠のものである

常に新しい時代の要請に応え、空間環境の創造とその価値のマネジメントに尽くす。
そういう社会に貢献する建築家の価値は、永遠のものである

六鹿正治

建築を学び始めた頃から、都市的スケールの建築群や都市デザインに強い関心を寄せていた六鹿正治は、そのまま真っ直ぐに、この領域を歩んできた。日本設計を足場に40年、六鹿のプロフェッショナル人生は、常に時代を見据えた都市計画、都市デザインの創造と共にある。代表作には「徳島県庁舎」「汐留シティセンターB街区」「日本橋三井タワー」など先駆的なものが多く、なかでも10年の歳月を要した「新宿アイランド」は、六鹿の真骨頂ともいうべき作品だ。「自分たちが生きる世界の〝かたち〞をつくっていく。これほどワクワクする職業はない」――建築群と環境、そして人々の営みや感覚、それらすべてに思いを馳せてきた、六鹿ならではの言葉である。

現在と未来を見据えて。建築家と業界全体の支援に尽力する日々

その後、六鹿は徐々に組織運営に「引きずり込まれていく」。副社長に就任したのが2001年、そして5年後には社長就任へ。「日本橋三井タワー」「虎ノ門ヒルズ」など、個別のプロジェクトにも携わりつつだが、六鹿はトップとして、その軸足を大きく組織マネジメントに移すことになる。

建築群の群長になった頃から、これはやばいと。どうしても現場から遠のくことになるし、建築家としてはここより組織の上に行ってはいけないとも思っていました。だから副社長の打診を受けた際、僕は逡巡するような顔をしてしまったんですよ。その時、社長だった内藤に一喝されまして。「与えられた役割のなかで最善を尽くすのは、組織人としての義務でしょう」と。これで目が覚めて、今ある課題に最高の答えを出そうと腹を括ったわけです。

建築の目標は常にビジュアル化されているけれど、組織マネジメントの目標にはビジュアルがないでしょう。行く先に実体的なイメージを持つために、「ビジュアル」を「ビジョン」に置き換え、その実現に向けてあらゆる努力を重ねてきたつもりです。

わかりやすい標語を掲げるのは重要なことだと考え、経営理念として打ち出したのが「PQR」。Profit・Quality・Reputation、この3つを常に高いレベルで追求し続けようということです。ほかにも「設計の5本柱」や「行動理念7カ条」など、その時代時代に合わせて、日本設計が大事にしたいことは何かを提示してきました。昨年は創立50周年を迎え、次の50年に向けて会社のビジョンを再編したところです。それが、今掲げている「未来価値の共創」。組織はバトンタッチされていくものです。構成員皆に共感される理念やビジョンのもとで、実践を重ねながら形成されていく行動や思考様式が組織のDNAとなり、受け継がれていくのだと思うんですよ。

16年より、六鹿はJIA(日本建築家協会)の第12代会長として、建築家、業界全体の支援にも尽力している。遡れば「勉学期」「プロジェクト・マネジメント期」があり、そして組織マネジメントに貢献してきた。「今は個人・組織を問わず、アーキテクト全体の強化、活性化に資する時期にある」。六鹿は、その役割を大事にしたいという。

僕自身は建築家として生涯現役でありたいけれど、今は、現在と未来を見据えながら建築家全体をアシストする、あるいはプロモートする重要な人生の時期にあると認識しています。日本の建築界は海外諸国とは相当異なり、プロセスとか業界の枠組みが違うでしょう。そのなかで、なるべくUIAアコードに基づいた活動強化を図っていくことがJIAのミッションですから、建築家にかかわる行政・法規課題への取り組みや、国際活動に力を注いでいきたいと思っています。

昨今、建築という分野は日本で一番人気ではないけれど、アジアを中心に世界全体ではどんどん人気が高まっています。そして、そのなかでも日本の建築家は国際的にレベルが高く、大いに注目を集めている。79年に創設されたプリツカー賞を見ても、最近の日本人の受賞比率は18%、ノーベル賞のそれは5%ですから、建築界において日本人はすごいんだ、ということをもっと自覚してもいいと思う。しかも受賞者全員がJIAの会員です。だから、地域で活躍するリーダーや志ある若い建築家にはJIAの会員になることを夢見てほしいし、また、そう思ってもらえるような協会にしたい。

そして、新しい技術を使いこなして世界を舞台に活躍する建築家がたくさん出てくることを望んでいます。そのためには建築単体や近いところだけに目をやるのではなく、広く世界を捉え、さらに人々の活動や感覚にまで思いを馳せること。想像力を豊かにかき立てて、創造するのです。自分たちが生きる世界のかたちをつくっていく、こんなに素晴らしい職業はないのですから。

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PROFILE


1948年4月20日 京都市中京区生まれ
1971年6月 東京大学工学部建築学科卒業
1973年3月 東京大学大学院修士課程修了
8月 フルブライト奨学生として渡米
1975年6月 プリンストン大学大学院
建築都市計画学部修士課程修了
1975年9月 エーブレス・シュワルツ都市計画事務所
(ニューヨーク)
1977年2月 槇総合計画事務所入所
1978年2月 株式会社日本設計入社
2001年4月 同社取締役副社長
プロジェクト統括本部長
2006年4月 同社代表取締役社長
2013年10月 同社取締役会長
2017年12月 同社最高顧問

 

公職

日本建築学会副会長(2012年5月~2014年5月)
日本建築家協会会長(2016年6月~)

 

教職

慶應義塾大学理工学部非常勤講師(2002年~2017年)
東京大学工学部都市工学科非常勤講師(2003年~2006年)
京都大学工学部建築学科非常勤講師(2007年~2009年)
早稲田大学、東京大学、京都大学、明治大学などで特別講義

 

主な受賞

日本建築学会賞(新宿アイランド)
BCS賞(新宿アイランド、日本橋三井タワー、
虎ノ門ヒルズ、徳島県庁舎)
ほかグッドデザイン賞、サステナブル建築賞、
日本照明賞、日経ニューオフィス賞など多数

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