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登録建築家・吉村靖孝氏と協働し、旗竿敷地の最適な有効活用を提案。その解は“屋上菜園付きテラスハウス”

登録建築家・吉村靖孝氏と協働し、旗竿敷地の最適な有効活用を提案。その解は“屋上菜園付きテラスハウス”

菜園長屋

クリーク・アンド・リバー社(C&R社)の建築事業部は、建築士を支援する様々なサービスを展開しているが、そのなかの一つに、同社に登録した設計事務所、建築士などと建築プロジェクトの総合的なプロデュースを行い、双方の価値を最大限高める「3+(ミタス)プロジェクト」がある。このほど、その第4号案件として、東京都大田区に「菜園長屋」が誕生(クリエイティブレジデンスシリーズとしては第2案件)。地域の魅力を高めるべく、旗竿敷地を有効活用するとともに居住物件としての付加価値を上げる〝屋上菜園付きテラスハウス〞という画期的なコンセプトが話題を集めている。大都会にありながら野菜づくりを楽しみ、獲れたて野菜を味わえる稀有な物件だ。そこで、本物件の設計を担当した吉村靖孝建築設計事務所に、設計のポイントや成果について話を聞いた。

木造による制約を逆手に、プラスの要素を打ち出す

まず、屋上。RC造であれば、屋上を使う際の音も気にならないと踏んでいた。しかし、木造だと騒音問題が起こる可能性がある。そこで浮かんだのが菜園のアイデアだった。

「斜線制限で屋上部分は階段状となり、日当たりも確保できそうでした。だったら〝段々畑〞はどうか、と。畑ならば、基本的に自分の部屋の屋上部分だけが使用スペースとなるため、騒音問題はクリアできます。一方、栽培や収穫を軸にした住人同士の会話が生まれ、コミュニティ機能も付加できる。そもそもこの規模の集合住宅に屋上菜園があるケースはほとんど聞いたことがなく、話題性も高いと考えました」

菜園の底部は、プール状にFRPを塗布し、水漏れを防止。その上に、スコップで傷つけないようにするためのシートや、水はけをよくするシートを何層も重ね万全を期している。

「菜園への土入れは、本来、入居後に住人が行う作業ですが、菜園ができていないと物件としての魅力を打ち出せないと、我々で行うことに。風でも飛びづらい土を選ぶなど、想定外の業務でしたが、勉強になりました」とは、主に渉外業務を担当した、吉村靖孝建築設計事務所の建築士、前田信彦氏。

屋上菜園下のバルコニー部分は、水道や電気が使えるようになっており、栽培作業の準備はもちろん、ここでバーベキューも楽しめるようにした。バルコニーと菜園部を分ける柵には丸太を取り付けて、山や森にいるかのような雰囲気を演出している。

一方、居室に関しては、隣の騒音が伝わらないよう、床材を一部屋ずつ切り分けるよう配慮。また、1階部分の窓は床から天井までの高さを取って、外通路を住人などが通る気配を感じ取れるようにした。構造面では、強度の確保と意匠性を勘案し、市松状に窓を配するファサードに。結果的にセンスを感じさせる、建物の特徴的なデザインに仕上がった。

「木造による制約を逆手に取って、それらをしっかりプラスの要素に変えることができました。自分たちにとっても意義あるプロジェクトとなりました」と吉村氏は語る。

「物件完成後に、施主さんから、『いつか住民の方々と収穫祭をやろう』と提案をいただいており、大いに満足されているようです」とは、C&R社、鈴木氏の談。竣工前に開催したオープンハウスに訪れた30代の夫婦が「菜園のある物件を探していた!」と入居を即決するなど、内見の申し込みが続々と入っているという。「デザイナーやアーティストなど、こだわりのある職業の見学者が多いようです」と前田氏。

最後に、吉村氏に「3+(ミタス)プロジェクト」に参加した感想と本プロジェクトの意義について聞いた。

「建築家は、総じてプロモーションや営業が得意ではない人種です。建築誌に作品を掲載してもらい、その反応を待つという方法がもっぱら。そういった意味で、このように、施主のニーズとつないでくれるシステムは大変ありがたいと思っています。日本には、建築士の有資格者が約110万人います。一方、人口が半数のフランスは約3万人です。人口比で日本はフランスの18倍もの建築士が存在しているということ。その多くが、個人もしくはうちのような小さな事務所で活動しています。無駄な競争、無駄な時間を軽減するという意味で、私は、例えば〝株式会社建築事務所〞というような組織、ネットワークをつくり、設計以外の仕事をそこに集約できればいいと思っています。ぜひ、C&R社さんには、そのような機能も担ってもらえるよう期待し
たいですね」

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PROFILE

吉村靖孝

吉村靖孝

1997年、早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。

99~200 0 年、文化庁派遣芸術家在外研修員としてM V RD V(オランダ)在籍。

01年、SUPER-OS設立。

05年、吉村靖孝建築設計事務所設立。

早稲田大学、東京大学、東京工業大学などで非常勤講師歴任後、

13年から明治大学特任教授。一級建築士。

前田信彦

2009年、芝浦工業大学大学院工学研究科修士課程修了。

12年、ロンドン大学バートレット校修士課程修了。

同年より、吉村靖孝建築設計事務所勤務。

本記事で紹介した「菜園長屋」を吉村氏の下で担当。

一級建築士。

物件概要 クリエイティブ レジデンスシリーズ No.04

物件名/大田菜園長屋
所在地/東京都大田区東六郷3丁目5番
構造/木造3階建て(6戸)
敷地面積/189.35 ㎡(57.38 坪)
建築面積/104.34 ㎡(31.62 坪)
延床面積/313.02 ㎡(94.85 坪)
竣工/2017年1月

 

施主・運営・管理/株式会社メイショウエステート
企画/株式会社クリーク・アンド・リバー社
設計/株式会社吉村靖孝建築設計事務所
施 工/株式会社リクレホーム
撮影/建築写真家 田岡信樹、リノスタ

物件に関するお問合せ先:

クリーク・アンド・リバー社 建築事業部

TEL /0800-170-0091(フリーコール)

MAIL / info@arc-agency.jp

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