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21世紀の建築はどうあるべきか。地球全体に、どう寄与していくか。僕らの世代は、その道筋をつけていく責務があると思う

21世紀の建築はどうあるべきか。地球全体に、どう寄与していくか。僕らの世代は、その道筋をつけていく責務があると思う

仙田 満

26歳で独立した時、仙田満(せんだ・みつる)は自分の名を冠した事務所ではなく、「環境デザイン研究所」という屋号で旗揚げをした。建築だけでなく都市、造園、インテリア、展示、遊具、プロダクトデザインなど、広い領域で設計に携わっていく――そう決めていたからだ。以来50年近く、仙田は“環境デザイナー”として、才を発揮した数多の作品を発表、その世界を切り開いてきた。なかでも、成育環境のデザインという分野では第一人者である。子どもが元気に育つ環境づくりをライフワークとしながら、日本建築学会や日本建築家協会の会長職も務め、業界を俯瞰した社会活動にも尽力。「今の社会システムを変えなければ、日本の環境デザインは育たない」。穏やかな風情ながらも、仙田の胸には次代への熱き思いが溢れている。

変わらぬ信念のもと、“21世紀の建築”を問い続けていく

 社会活動と並行して、当然のことながら、仙田は環境デザイナーとして精力的に作品をつくり続けている。“超”がつくハードな日々だ。最低でも年間5件は携わっているという子ども向け施設を中心にしながら、ここ最近の大きなプロジェクトとしては、幼保一元化の施設「ゆうゆうのもり幼保園」、「国際教養大学図書館棟」「広島市民球場」などが挙げられる。人々やまちに開かれた環境建築――仙田がデザインするものは、どれも変わらず優しい。

周辺環境とどう調和していくか。僕は、環境デザインとは「すでにある物語を大切にしながらデザインする態度」だと定義しています。重要なのは、かたちよりつくり方。自然環境豊かな地域ならば、その環境を破壊しないデザイン、歴史的な地域であれば、まち並みや文化に配慮したデザインが必要で、だから定型というものがないんです。素材もそれぞれ地域のものを使いますし。共通しているのは、私が子どものあそび環境の研究で結論づけた遊環構造という原則のもと、子どもたちに限らず訪れる人たちの意欲を喚起するような建築、環境をつくりたいという思い。それを核としてやっています。

2年ほど前から取り組んでいるのが、熊本県南小国町の新庁舎です。このまちの自然景観は実に美しく、黒川温泉をはじめとする温泉地としても有名ですが、素晴らしいのはそのシステム。まちで入湯手形を発行していて、訪れた人たちは、どこの旅館でも温泉を楽しめるようになっているんですね。そして、入湯手形の販売で得た売り上げは、植栽やサインなど、まち全体の環境価値を上げるために使っている。

そんなシステムに共鳴し、僕らは、観光客も利用できる町役場というコンセプトを打ち出しました。例えば、年に数回しか使わない議場はもったいないから、イベントホールにするとか。来年には完成する予定ですが、住民や観光客に開かれた、かつ興味・行動を喚起するような劇場型の庁舎づくりを目指しているところです。

 南小国町の新庁舎は、公募型プロポーザルで最優秀賞を獲得している。環境デザイン研究所では、同様に、能代市役所(秋田県)や、いわき市のこども元気センターにも取り組んでいるが、いずれもプロポーザルによって選ばれたものだ。新しいことに対する意欲は尽きることがなく、聞けば、年間30件ほど応募しているという。ただ、ここにも仙田の問題意識はある。

 前述したように、設計料が安いということだけで勝者が決まる設計入札はまだまだ多いのですが、一方でプロポーザルやコンペが増えてきたのは悪い話じゃありません。しかし、ここにも解決すべき根本的な問題があるのです。

まず、1級建築士の数や実績が重視されすぎていて、新人や小さな事務所が参加するのは難しいという現状。いわゆる足切りです。フランスではコンペが主流ですが、ロングリストの中から選ぶ際、1社は実績のないところから選ばなければならない決まりになっています。対して日本の場合は、応募に該当する建築物の実績を10件くらい書けという。そうすると途端に門戸が狭くなるでしょ。加えて、審査会の問題もあります。インハウスで、外部の人が参加していない場合も多い。もっと客観性を持つ目利きの存在が必要だし、審査会の透明性を高めていかなければいけません。

建築を取り巻く様々な社会システムは制度疲労を起こしていて、大きな改革が望まれています。近く、学術会議で提言を出す予定です。そして、地球環境問題に対応する建築技術の開発も早急に行わなければならない。広い視野に立てば、世界中の建築家がそれを模索しているわけで、若い人たちには奮起してもらいたいし、僕自身もまた、実務と社会活動の両輪で、これからも尽力していきます。

26歳で独立して、自分がつくりたいもの、研究したいことをずっとやり続け、一周巡って東工大の教授になったのが52歳。この時僕は、学会や協会の活動を通じて、社会のシステム問題によりコミットしていくと決めた。周囲には「78歳まで走る」と言っているのですが、この数字はまあ遊び感覚で。好きなことに夢中になった26年間を折り返し、52歳にその時間を足すと78歳になるというわけです。肉体的にはそこそこ劣化してくるでしょうが(笑)、そんな気持ちでいるんです。

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PROFILE

仙田 満

仙田 満
Misturu Senda
1941年12月8日横浜市保土ケ谷区生まれ
1964年3月東京工業大学理工学部建築学科卒業
             4月菊竹清訓建築設計事務所入所
1968年4月環境デザイン研究所を設立し、

代表に就任

2001年6月日本建築学会会長(~2003年)
2004年4月こども環境学会会長(~2010年)
2005年4月東京工業大学名誉教授
            10月日本学術会議会員(~2011年)
2006年6月日本建築家協会会長(~2008年)
2010年4月公益社団法人こども環境学会代表理事
主な受賞歴
  • 毎日デザイン賞(1978年)
  • BCS賞(1987年、2011年)
  • BCS賞(1987年、2011年)
  • 日本造園学会賞(1996年)
  • 日本建築学会賞(1997年)
  • IOC/IAKS賞 (1997年、2001年、2005年、2009年、2011年)
  • アルカシア建築賞ゴールドメダル(2010年)
  • 日本建築家協会賞(2010年、2011年)
  • 村野藤吾賞(2011年)
  • 日本建築学会大賞(2013年)

ほか多数

講師・教授歴
  • 日本大学芸術学部講師
  • 早稲田大学理工学部講師
  • 琉球大学工学部建設工学科教授
  • 名古屋工業大学社会開発工学科教授
  • 東京工業大学工学部建築学科・ 大学院理工学研究科建築学専攻教授
  • 慶應義塾大学大学院特別研究教授
  • 愛知産業大学大学院教授、放送大学教授

などを歴任

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