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誰も見たことのない美しい景色をつくりたかった。知恵と新技術を詰め込んだ、大阪の新たなランドマーク

誰も見たことのない美しい景色をつくりたかった。知恵と新技術を詰め込んだ、大阪の新たなランドマーク

株式会社竹中工務店

超高層集密都市――。地上300mの高さを誇る「あべのハルカス」(大阪市阿倍野区)は、「ビル」でも「高層建築」でもなく、そう呼ばれることがある。いくつかの建物が組み合わさったような外観は、「超高層といえば対称形」の概念も吹き飛ばす。だがそこには、「そのカタチでなければならない」理由があった。今回は、計画スタートからおよそ7年間にわたってこのプロジェクトに携わった、竹中工務店設計部のメンバー4名にご登場いただこう。

都市の機能、楽しみを立体的に集積

日本一の売り場面積を持つ百貨店、レストランにオフィス、ホテル、さらには医療施設や大学、美術館から託児所まで。そこには、ざっとこんな“機能”が集まる。ただし、それだけなら従来の複合ビルの延長線、といえるかもしれない。

「昼休みに、ふと見つけたカフェでお茶をする。美術館の帰りに、食事やショッピングを楽しむ――。都市には、いろんな過ごし方が、無限の組み合わせでありますよね。我々が目指したのは、それを立体的に体感できる場所です。従来の“複合施設”のように、ビルのフロアをここからがオフィス、その上にホテル、と単純に切り分けたのとは違います」

プロジェクトで設計のリーダーを務めた原田哲夫設計第6部長は、あべのハルカスの設計思想をそう語る。そうしたコンセプトを実現する建物の“造り”はどうなっているのか。構造設計を担当した平川恭章設計第6部門構造グループ長に説明してもらおう。

「“カタチ”からいうと、低層に敷地いっばいに百貨店が建ち、その上のオフィスが入る中層階は、ややスレンダー。自然光がコアを通して室内まで届くことを考慮したものですが、オフィスのフレキシビリティや眺望を重視して22m×72mの柱のない空間も用意されています。その上のホテルは、逆に細かな部屋の連続で、外観はさらにスリムに。あくまでも百貨店として、あるいはオフィス、ホテルとして最適な空間とは何かを追求し、スタックしていったわけです」

日本一の高層ビルを見上げると“3大用途”の繋ぎ目に、アウトリガーと呼ばれるトラス状の部分が目に入る。この部分で上に載る建物の荷重を支えるとともに、低・中・高層のエレベーターの乗り換え階にもなっている。

「ここは、まちでいえば街路ですねそぞろ歩きを楽しみながら、さてコーヒーでも飲もうか、それとも美術館を覗いてみようか、と楽しめる。地上80mのアウトリガーは3層になっていて〝各用途〞への動線が集まると同時に屋外庭園もあります」(原田氏)

低層階から上へ、およそ100mごとにセットバック(後退)していく独特の外観も、この建物の持ち味だ。だが、日本一の超高層にしてこの“偏り”安定性はどのように担保されているのだろう?実はそこでも、アウトリガーが一役買っていた。強固な構造体がセットバックと逆方向に突き出すことで、重心を補正しているのである。

奈良・興福寺に収蔵される、国宝の天燈鬼。大きな灯籠を左肩に担ぎ、体を逆方向にくの字に曲げて踏ん張るその姿は、“非対称”の極みながら、どっしりとした安定感にあふれる。あべのハルカスも、それと同じく「ダイナミックな力感に満ちた、“動的安定”」(原田氏)を実現していた。

ちなみに、あえてホテルの“建ち位置”をセンターからずらしたのは、単に外観のデザイン性を狙ってのことではない。原田氏は言う。「そうすることで、オフィスの真ん中に吹き抜けをつくることが可能になりました。通常は外部から遮蔽されたビルのセンターコアを、光や風の通り道にする逆転の発想です。アウトリガーのフロアもそうですが、この建物には、トラス構造をとおした優しい光がいろんなところから差し込んできます。超高層の中に、京町家のような、日本人の感性に合った空間が生まれました」

建造物にも“環境性能”が求められる時代だ。建築設備設計が専門の坂口佳史企画プロポーザル部門企画グループ長は、「高層複合ビルだからこそ実現できた省エネがある」と話す。

「例えば、百貨店は多くの照明を使いますし、中には多くの人がいるので、ほぼ一年中、冷房しています。当然、排熱が出る。普通はそれを大気に放出していますが、上にあるホテルの給湯に利用することができます。逆に、ホテルのシャワーの排水は、簡単な処理で百貨店のトイレ用に使えます」これはほんの一例。都市機能が“集密”することのメリットは、環境面でも小さくなかった。

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“全体の前に部分”。前例のない設計に挑む

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PROFILE

株式会社竹中工務店
創立 1899年2月
代表者 宮下正裕
所在地 大阪府大阪市中央区本町4-1-13

http://www.takenaka.co.jp/

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