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素材と力学・幾何学を駆使し、研究と実験を繰り返す。<br />構造形態を多様化させながら、環境制御の“フィルター”を形成する

素材と力学・幾何学を駆使し、研究と実験を繰り返す。
構造形態を多様化させながら、環境制御の“フィルター”を形成する

佐藤淳構造設計事務所 佐藤淳

「力学に基づいて形状を生み出す。それが機能美を備えた建物に結実した時には、とてもやりがいを感じますね」。構造設計の魅力を、佐藤淳氏(佐藤淳構造設計事務所)はそう語る。仕事では、建築家や現場の職人とのコラボレーションをことのほか大事にしてきた。そうやって数々の建造物を手がけてきた構造家が今取り組むのは、「透過性を持つ構造の、環境に対するフィルター的な役割」へのアプローチである。いったいどんな〝技〞なのか。

〝構造〞を武器に快適な空間の実現へ挑戦は続く

佐藤氏が最近手がけたものには、南青山の木組みの建築や、あるいは山本理顕氏と組んで設計した、鉄骨の格子壁が建物を支える「はこだて未来大学研究棟」のように、メッシュ状の壁や屋根を採用した建物がある。インスタレーションとして、ガラスや金網、和紙といった素材を利用した作品も多い。いずれも、光や時には空気を〝透過〞させるのが特徴だ。そうした仕事を重ねるうちに到達したのが、「透過性のある建造物が、環境に対するフィルターとしての役割を果たせるのではないか」という考えだった。

「もしゃもしゃとした木組みの建物の前に立つと、太陽の光も流れてくる空気も、そのフィルターを通して感じているような、そんなイメージを持つのです。一方、その内部に足を踏み入れると、木漏れ日のように光が降り注ぐ。格子状の壁が、その世界を演出するわけです。ガラス素材のインスタレーションにしても、ただ外見的に美しいだけではなくて、光や風のフィルターになることによって、周囲の環境を感じることができるのではないか。そんなことを考えているんですよ」

むろんただの仮説に終わらせるつもりはない。すでに人が感じる快適性の検証や、それを高めるための研究を本格化させている。その一つが「2次元スペクトル解析」による検討だ。

「例えば、群生するススキを通過する光と、木組み建築の〝木漏れ日〞をこの手法で比べてみると、『まだ遠いけれど、そこそこ似ているかも』という結果でした(笑)。こうした研究を重ねることで、よりナチュラルな光に近づけていくことができるはずです」

そんな目標実現のためには当然、より高度な技術的な裏打ちが必要になる。「先ほど『座屈のコントロール』の話をしましたが、そういう力学的なアプローチのほか、幾何学的なコントロールも求められてくるでしょう。例えば、ガラスパネルを複雑に積層させていくインスタレーションの場合、パネルの決められた場所に空いた穴を使って、どうやって接合していくのかが課題になります。2枚のパネルの穴同士の位置がぴったり合うということはまずありませんから、考えたのは接合に使うストラップのほうに柔軟性を持たせること。この『ファジーノード』なら、インスタレーションに限らず、幾何学的にかなり複雑化した現場にも対応できるのではないかと思っています」

これまでの成果は、今年3月にアメリカで開かれた建築関連のカンファレンスなどで発表されているものの、取り組みはまだ始まったばかりだ。

「我々は、力学は〝本業〞だし、幾何学的な素養もある。スペクトル解析も地震波で使いますから、使い方には慣れています。これは、まさに構造設計だからこそ挑戦できるテーマだと思うんですよ。建物が環境を制御する新たなシステムの構築に向けて、さらに研究を進めていきたいと考えています」

そんな佐藤氏は、若い世代にこんなメッセージを語る。

「多くの設計者が、多くの材料を使って、様々な構造設計に携わっています。だから、この分野はもうやり尽くされているのではとイメージするかもしれませんが、決してそんなことはありません。構造の可能性は、現場にいくらでも広がっていることを知ってほしい。もう一つ。安全性問題などで構造設計が〝責められる〞状況が増えています。でも、頑張っている人が委縮したりする必要はまったくない。常に時間もお金もないなかで、限られた検証でこれは建てて大丈夫と決断して〝あげている〞のだと開き直るくらい、自信を持っていい。知らない現象もあるでしょう。計算間違いもやるでしょう。それでも自分ならできると信じて、少しずつ力をつけて、少しずつ安全を守れるようになればよいと思います」

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PROFILE

佐藤 淳

佐藤 淳

さとう じゅん/
1970年、愛知県生まれ、滋賀県育ち。
93年、東京大学工学部建築学科卒業。
95年、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了後、
木村俊彦構造設計事務所入社。
2000年、佐藤淳構造設計事務所設立。
国内外の著名な建築家と協働し、構造設計を手がける。
主な作品に
「公立はこだて未来大学研究棟」「地域資源活用総合交流促進施設」「Sunny Hills Japan」など。
東京大学准教授。スタンフォード大学客員講師。構造設計一級建築士。

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