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素材と力学・幾何学を駆使し、研究と実験を繰り返す。<br />構造形態を多様化させながら、環境制御の“フィルター”を形成する

素材と力学・幾何学を駆使し、研究と実験を繰り返す。
構造形態を多様化させながら、環境制御の“フィルター”を形成する

佐藤淳構造設計事務所 佐藤淳

「力学に基づいて形状を生み出す。それが機能美を備えた建物に結実した時には、とてもやりがいを感じますね」。構造設計の魅力を、佐藤淳氏(佐藤淳構造設計事務所)はそう語る。仕事では、建築家や現場の職人とのコラボレーションをことのほか大事にしてきた。そうやって数々の建造物を手がけてきた構造家が今取り組むのは、「透過性を持つ構造の、環境に対するフィルター的な役割」へのアプローチである。いったいどんな〝技〞なのか。

建築家がやりたかったことを〝言い当てる〞仕事

佐藤氏は、父が薬学部出身、母が薬剤師という家庭で〝超理系〞に育てられた。宇宙飛行士を夢見た少年は、やがて「自分のやりたかったのは、飛行士ではなく宇宙船の設計のほうだ」と目覚め、東京大学工学部へ。しかし、人気の航空学科への進級は叶わず、建築学科の一員となった。

「それまで建築のことは何も知らなかったんですよ。この世界にデザイン、構造、設備、音響やインテリアなんていう役割分担があることも、初耳だった(笑)。でも、すぐに『俺は構造だ』と確信しました。力学に基づいた形状の設計という点では、宇宙船と同じじゃないか、と」

そんな経緯で構造設計の道に入った佐藤氏は、卒業後の95年、当時は珍しい構造設計の個人事務所だった木村俊彦構造設計事務所に就職、今につながる〝仕事の流儀〞を体得することになる。血肉になったことの一つが「建築家とのコラボレーション」である。

「打ち合わせの席で建築家の考えを聞いた構造設計者は、『じゃあ計算結果は後ほどお知らせします』となりがちなんですね。そうすると、建築家は1〜2週間は思考を進めることができません。でも木村先生は違って、目の前で手計算して部材まで提案するのです。鉄骨量がこれくらいで、ならばコストはこのレベル、といった具体的な話になれば、建築家は少なくとも自分のイメージしたシステム、形状の建物が実際に土俵に乗るものなのかどうか、確信が持てるでしょう。そうやって、その場でお互いアイデアを練り、膨らませることができるわけです」

2000年に自らの事務所を設立後も、〝師匠〞から学んだこの手法を実践するうち、佐藤氏はある境地に達する。

「建築家自身、はっきり言葉にはならないけれど漠たるイメージはある、という状況で、僕らに声をかけることも多いんですよ。打ち合わせのその場で何枚もスケッチを描き、構造計算し、時には今まで使ったことのない力学的なシステムを提案し……。検討を進めるうちに、『これはいける』というアイデアが、パッと閃くわけです。毎回ではないですけど(笑)」

そんな時に抱くのは、「僕が思いついたのではなく、建築家にもともとあったアイデアを言い当てた」感覚なのだという。

コラボの相手は建築家だけではない。「僕らが建設現場に検査に行ってするのは、問題点の指摘。現場からしたら、嫌な奴らです(笑)。でも、例えば溶接のビードがきれいだったら、職人さんにそうひと声かければ、彼らは喜んでくださる。現場と近しくなると、この鉄骨ファブにはこんな技術を持った人がいる、というのも見えてくる。それによって、あのファブだったらこんな構造ができるに違いない、と我々自身の可能性を広げることもできる。これも、職人さんを思い切りリスペクトした、木村先生から学んだことです」

現在8名が働く佐藤の事務所には、「多様な形態」を実現すべく製作した「オブジェ」のような模型が所狭しと並ぶ。

「うちは実験もしょっちゅうやるんですよ」と話す佐藤氏は、「特に今までにない構造のものにチャレンジしようとする時には、どうやったらその建物を建てられるのか、というストーリーをきちんと思い浮かべられることが大事なのです」と続ける。

「何をチェックするか、どんな実験と計算をやるか?〝しょっちゅう〞といっても、常にやりたい検証をすべてやれる時間もお金もありません。こことここを押さえればこの建物は建てていい、と決断できないと、どんなにすごい構造を考えついても、それを実現するのは困難でしょう。求められるのは、ひと言でいえば、常にそういう〝頭〞になっていること。意識してその感覚を磨くことです」

【次のページ】
〝構造〞を武器に快適な空間の実現へ挑戦は続く

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PROFILE

佐藤 淳

佐藤 淳

さとう じゅん/
1970年、愛知県生まれ、滋賀県育ち。
93年、東京大学工学部建築学科卒業。
95年、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了後、
木村俊彦構造設計事務所入社。
2000年、佐藤淳構造設計事務所設立。
国内外の著名な建築家と協働し、構造設計を手がける。
主な作品に
「公立はこだて未来大学研究棟」「地域資源活用総合交流促進施設」「Sunny Hills Japan」など。
東京大学准教授。スタンフォード大学客員講師。構造設計一級建築士。

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