アーキテクト・エージェンシーがお送りする建築最先端マガジン

Architect's magazine

その地域や人々が持つ固有の魅力を 読み取り、浮かび上がらせていく。 それが建築の使命であるべきだし、 また、最大の魅力でもある

その地域や人々が持つ固有の魅力を 読み取り、浮かび上がらせていく。 それが建築の使命であるべきだし、 また、最大の魅力でもある

千葉 学

「そこが素晴らしい敷地だったことは、その家が建てられるまで誰も気づかなかった」。千葉学は、このフランク・ロイド・ライトの言葉を好む。建築には本来、その土地、土地に根づく歴史や、営まれている活動の魅力を浮き彫りにする力があると考えるからだ。千葉が携わる領域は、住宅、商業・公共建築、大学施設など幅広いが、作品すべてに共通しているのは、その環境の魅力をあぶり出すことへのこだわりである。だから、自分のスタイルには固執しない。常に〝そこにできる建築〞のありようを根本から考え、腐心する。千葉のスタイルは、建築家として踏み出した時から変わっていない。

何でも「やってみる」好奇心旺盛な少年。

映画の美術監督をしていた父親は、幼い息子をよく仕事場に連れていったそうで、千葉は早くからものづくりの現場に触れてきた。「創作的な仕事をしたい」と考えるようになったのは、その影響が大きい。もとより感受性や好奇心が強く、絵や音楽、スポーツと、興味あることには何でも取り組んできたが、最終的に千葉の心を捉えたのは、やはり〝何かをつくる〞ことだった。

よく出入りしていた日活の調布撮影所では、撮影風景を覗かせてもらったり、映画のセットのなかをうろうろしてみたり。まだCGがない時代だから、セットは、大勢の人たちの手によって組み上げられていくわけです。時代劇の街並みの裏に回ると、大量の木材で組まれた構造が見えて、子供心に印象的でした。振り返れば、ものづくりの現場はずっと身近にあったのです。その後父は、日活を辞めて大阪万博のプロデューサーを務めたんですけど、この時も僕は、万博会場ができるまでの現場に何度も連れていってもらった。父が描いたスケッチ、現場に横たわっている材料などを目にしながら、やっぱりものづくりって面白いと思ったのです。

建築家という職業を初めて意識したのは、確か中学生最後の頃。きっかけは、大阪万博の跡地にできた、黒川紀章さんの設計による国立民族学博物館です。遠目にも存在感を放っていて、設計者の考えなり思想なりが、かたちになることの強さ。しかも、長い年月残るんですから、素晴らしい仕事だなあって。

とはいえ、建築を目指そうと決めたのは大学受験直前で、好奇心旺盛な僕は、それまでいろんな職業が浮かんでは消えて(笑)。父の影響で絵を描くのが大好きだったから、その道に進もうかと考えたり、夏目漱石に憧れて小説家もいいかと思ってみたり。ほかにもピアニスト、あるいは、ツール・ド・フランスの映像に衝撃を受けて、自転車選手を目指した時期もありました。何でも「やってから考える」タイプで、無理だとか、それでは食べていけないとか、あとからわかる(笑)。と、ふらふらしていたわけですが、大学受験を控え、さぁ進路をどうするかと自問した時、行き着いたのは、心に強く根を張っていたものづくりだったのです。

そこからは建築一筋。東京大学工学部に進学した千葉は、専門過程に入る前から建築の自由ゼミに参加したり、興味ある建築家たちの作品集を漁り見るなどして、知識と理解を深めていった。こと建築学科に進んでからは、自ら「オタクだった」と振り返るほど、日々建築を学び続けた。

東大は、専門過程の2年間で建築のあらゆることを教えるという感じなので、かなりハードだったんですよ。最初に受ける洗礼は、設計製図。ほとんど説明がない状態で、例えばコルビュジエの建物をトレースしろとか、図面からパースを描けとか、どんどん課題を出される。いつも締め切りに追い立てられて大変だったけど、でも僕は、もともと絵を描くのが好きだから、それなりに面白がってはいました。

学部の頃は、いろんな人から刺激を受けながら、ひたすら建築の世界にのめり込んでいた気がします。なかでも強く影響を受けたのは磯崎新さんで、3年の時、友人らと九州を一周しながら、彼の建築を全部見て回ったんですよ。磯崎さんの著作にもかぶれていて、見れば、磯崎さんの思想を実体として体験できる。そして、ただ建築を見て「いい」「悪い」を語っても意味がないので、なぜそう感じたのかを究明するべく、図面分析をよくやっていました。見てきた建築の図面を全部トレースするんです。周囲には、先輩も含めてそんな建築好きがたくさんいたから、気がつけば、建築オタクのような生活を送っていたというわけです。

【次のページ】
充実の院生時代を経て、組織設計事務所へ。そして、自分の足で立つ

ページ: 1 2 3 4

PROFILE

千葉 学

千葉 学

1960年7月6日 東京都世田谷区生まれ

1985年3月 東京大学工学部建築学科卒業

1987年3月 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了

1987年4月 株式会社日本設計入社

1993年4月 ファクター エヌ アソシエイツ 共同主宰

1993年~96年 東京大学工学部キャンパス 計画室 助手

1998年~2001年 東京大学工学部建築学科安藤研究室 助手

2001年5月 千葉学建築計画事務所設立

現在 東京大学大学院工学系研究科 建築学専攻 教授

人気のある記事

アーキテクツマガジンは、建築設計業界で働くみなさまの
キャリアアップをサポートするアーキテクト・エージェンシーが運営しています。

  • アーキテクトエージェンシー

ページトップへ